「なんで?」

 「なんでもクソもないです! 「女神Go!」とかそんなネタしている場合じゃないからですぅうう!」

 その麗しい顔を真っ赤にして、プンプン文句を言う女神。

 「そんなにヤバイ龍なのか? 女神の方が強いだろ?」

 「ヤバいどころの話ではありません! 神龍さまは、龍のお姿をした神ですから! 怒らせたらここら辺の山とか消し飛びますから!」

 女神がまくしたてるように叫ぶ。

 へぇ~~神龍ねぇ。

 じぃ~~っと見てみる。

 ぱっと見は、日本の龍に似ているな。
 白銀に輝く鱗は陽光を反射し、天と地を繋ぐかのように長い胴体。まるで雲が寄り集まったかのようなたてがみに、黄金の瞳がこちらを見据えていた。


 「なるほど、まあ凄そうだな」


 「凄そうじゃないです! 凄いんです!」

 相変わらず女神が脇でワーワー騒いでいる。

 たしかに強そうだ。戦闘ポーションを何本飲んでも勝てそうにないな。
 ってまてよ。そんな凄い龍なら、話せるんじゃないのか。

 「言葉は通じるんだよな?」

 「ええぇ、もちろんですよ。神龍さまは、ありとあらゆる言語に精通されてますから」

 「なるほど……では話してみるか」

 ぶっちゃけ、はじめっからこの龍に殺気は感じられない。

 大丈夫だろう。

 「と、とにかく丁重にですよ。言葉を慎重に選んでくださいね。クレイさん」

 分かってるよ。心配性な女神だな。


 「おい、神龍」


 「いきなりの呼び捨てぇええきたぁあああ!」

 「そちらのスリープフラワーさまを、ひとつくれ」
 「完全に逆ぅううう! 素材敬ってどうすんですかぁあああ!」

 「え、ダメなのか女神?」
 「わたしは女神でいいですけど、その方は神龍さまとよんでくださいっ!!」

 なんだそれ。

 俺たちのやり取りを見ていた神龍の大きな口が、少しずつ開いていく。

 「ひゃああああ! 完全に怒らせたぁ! たぶんブレス的なものくるぅう! わたし滅びちゃうううう!」

 「なに焦ってんだ。そんな情緒不安定じゃ、女神試験うまくいかないぞ」
 「クレイさんがその原因つくってるんですよぉ!?」

 しかし、女神がビビるブレス的なものはこなかった。
 変わりにじいさま口調の声が、俺たちの耳に入ってくる。

 「ほっほっほっ……実に面白いではないか」
 「し、神龍さま……?」

 「あ、まともな言葉はなせるじゃないか」

 「しぃ~~~~! クレイさん、不敬ですよぉ!」

 「よいよい。そなたはたしか知恵の神の子だったかのぅ」
 「は、はひぃ~~そうでございますです! 神龍さま!」

 んん? 知恵の女神だと?

 「なんですか?クレイさん。ウソだぁって顔に出てますよ、プン!」
 「ええぇ……ウソだろ」
 「わぁ~~ん、口に出して言ったぁ! わたし知識の固まりなのにぃ! いっぱい勉強しているのにぃ!」

 「ほほほ、そなたらのやり取りは聞いてて飽きぬな、下界でいう漫才?だったかのう」
 「ふはぁ! わたし神龍さまのまえで……お怒りですよね……」

 「ふむ、クレイだったか? さすがにワシを無視する奴は久しぶりでな。すこしカチンときたので吠えてみたんじゃ」
 「いやぁ~~ここの素材が素晴らしすぎてな。悪かったよ」
 「まあ良いわ。久しぶりにまともな会話が楽しめてるわい。にしてもクレイはポーションのことしか頭にないようじゃの」

 「あわわわ……クレイさん、もう友達感覚で会話しちゃってるぅう……」

 女神よ、あわあわしなくても大丈夫だぞ。

 この龍、言葉からも殺気のさの字も出てない。

 「なあ、ところで聞きたいんだが」
 「なんじゃクレイ」

 「このスリープフラワーだが、なんでこんなにデカいんだ?」

 「ふむ……あまり深く考えたことはなかったのう。おそらくじゃが……」

 神龍が長い胴体をこちらに寄せてきた。

 「ふわぁ~~神龍さまの鱗きれい……」

 女神がうっとりとした目で神龍の鱗を眺めている。たしかにひとつひとつの鱗は水晶のように綺麗で、眩く輝きを放っているな。

 「この光をたくさん浴びているからじゃろうて」

 「おおぉ……ってことは、この光は素材をランクアップさせることができるってことか!!」

 「ふむ。そうかもしれんな」

 これは凄いぞ! 

 大きさだけでなく効果もランクアップされているぽいし!

 「あ、嫌な予感がしてきました」

 女神がジト目を向けてきた。
 嫌な予感? 何を言ってんるんだ? 素晴らしいワクワクしか発生しないだろ。


 ではさっそく……


 「んん? なにしとるんじゃ? おぬし」

 「こらぁ~~クレイさん! ポーチから素材出しまくって、神龍さまの周りに置くのやめなさい!」

 「ええぇ~まだ半分も出してないぞ!」

 「ええぇ~じゃありませんよ! まったくもう~」

 こんなやり取りをしつつも、神龍はスリープフラワーの採取を許可してくれた。

 なんと取り放題! 太っ腹だぜ!

 「ヒャッほ~! 宝の山だぁああ!」

 「ああ……神龍さまぁ、取り放題とか言ったらクレイさんがぁ……」

 「ほっほっ、心配するでない女神よ」

 「神龍さまぁ、クレイさんの狂いっぷりは凄いんですよぉ」

 「なにを言うとる。ここにどれだけ咲いておると思ってるのじゃ――――――って! 
 なんか一瞬で、はげ山になってるんじゃが!?」


 なぜか俺は神龍にちょっと怒られた。


 そして、素材を全て揃えた俺たちは、お目当てのポーションを作成することができた。

 【ポーション(女神鎮静)(ゴッデスどうどう)】だ。

 「ふぁああ~~ポーション名は異議ありですが、やっぱりクレイさんのポーションは超美味しいですね!」

 「よし、じゃあ試験頑張ってくれよ」

 「はい、ぜったいに女神の座はゆずりません!」

 「ところで試験はいつやるんだ? 本番用のポーションを渡しておくけど、試験直前に飲むんだぞ」
 「わぁ~い。ありがとうございます。えっと試験はこの紙に書いてあった……」

 ガタガタと震え始める女神。なんか汗が凄い量で出始めてるけど。

 「おい、顔面真っ青だけど大丈夫なのか?」

 「えっと、試験は今日でした……」

 マジかよ……

 「時間はどうなんだ? 間に合うのか?」

 「ふぇええ~~ん。開始まであと1時間ですぅ~~どう考えても間に合わないですぅ~~」

 「たく……しょうがないな。ほら!」

 俺はポーチから戦闘ポーションを出してクッと飲み干した。
 そして女神の前に来てスッとしゃがむ。

 「え? なんですか? クレイさん」

 「背中にのれ。試験会場までおぶって行ってやる」

 戦闘ポーションで身体強化した脚力で、全力疾走すればなんとかなるだろ。

 「ほっほっほっ、仲睦まじいのう」

 神龍が何か勘違いしているようだ。
 さすがに女神といえど乙女だから、俺の背中は嫌かもしれんが……

 「やた~~~~!!!」

 なんの躊躇も無く、がっしりとしがみついてきた。
 そこそこな膨らみをグイグイ押し付けて。

 「じゃあ飛ばすからな。しっかりつかまってろよ」
 「は~~い♡」

 俺たちは神龍に別れを告げ、女神をおぶって試験会場に突っ走っていくのであった。



 ◇◇◇



 「じゃ、頑張ってな」
 「はい、クレイさん! 本当にありがとうございました~♪」

 俺の作ったポーションと合格祈願のお守りを大量にもって、女神は試験会場へと消えていった。


 さて……俺も……


 周りの風景が、ぐにゃりと変わっていく。

 目が覚めた。知ってる天井だ。
 天界からこっちの世界に戻ってきたようだ。

 そして俺の顔面に艶やかな太ももが。

 ラーナの足だった。よくもまあ毎日飽きずに脳天かかと落としできるな……

 太ももをのけて、腹の上にしがみついているロリっ子メイドのリタをずらして。足に絡まっているフェルをどかせて。
 んん? ユリカとエトラシアはいないか。

 取り敢えず起床した俺は、庭に出る。

 結果はなんとなく分かっているが、一応確認だ。

 さあ―――いくぜぇ!

 「ファイヤボールぅううう!」
 「ウインドカッタぁあああ!」

 広い庭に俺の声がむなしく響いただけだった。

 やっぱりチート魔力はつけ忘れていた……

 そこへ、うしろから人の気配が。

 朝食の準備をしていたユリカと、朝練後らしく、タオルを首にかけたエトラシアだ。

 「クレイ殿、意外に子供っぽいことするんだな」
 「クレイ様、かわいい……フフ」

 エトラシアとユリカにくすりと笑われてしまった。


 というかあの女神、俺に魔力をつける気ないな。