さて、天界でのポーション素材探しに出た俺と女神だが。
 素材について再チェックだ。

 リラックスポーションを作るには、次の3つの素材が必要である。

 ・月光草
 月光を浴びて成長する薬草だ。心を鎮める魔力を微量に含んでいる→これはストックがある。

 ・聖水
 聖女ラーナから生み出される上質の聖水→こちらもストックがあったのでOK。

 ・スリープフラワー(眠り花)
 穏やかな眠りに誘う香りを放つ花。安眠を促す効果がある。

 この素材のストックがない。
 つまり今回の目的物は、スリープフラワーだ。


 というわけで、俺たちはお目当ての素材があるという天界の山、神山に来ていた。

 「ぐ、ぐれいさん……足がぁ、もう足が棒になったぁ~~」

 「おいおい、まだ登り始めて1時間しかたってないんだが? 山登りは苦手なのか?」

 「乙女は山登りなんかしません! てかはじめてですぅ!」

 いや、決めつけるなよ。
 全国の山ガールさんに謝ったほうがいいぞ。

 「まあ諦めろ。素材がそこにしかないんなら仕方ない」

 「ひぃい~~ん。わがりまじたぁ……」

 スリープフラワー(眠り花)、下界において入手難易度はそこまで高くないんだが。天界ではここにしかないらしい。

 グダグダ文句たれながらも、俺の後をついてくる女神。
 よほど試験に落ちて、天使になりたくないのか。

 天使は天使で面白そうな気もするけどな。
 まあそこは彼女なりの感覚があるんだろう。俺が気にするところではないか。


 「にしてもここ……ガザンのダンジョンみたいだな」


 ガザンのダンジョンとは、俺のいる異世界にある山岳系のダンジョンである。
 山の内部がダンジョンみたいになっていて、上にあがって行く。

 まあこれ山登りというより、ほぼ階段のぼりだ。

 普通ダンジョンとは下層にいくものだが、これは上層にあがって行く。

 「はふぅ……そうでふぅ。ガザンダンジョンはこの神山を参考にちゅくられたんでふぅ……ふぅ……」

 肩で息をしながら階段を登る女神が答えた。

 「そうなのか、ガザンの山岳ダンジョンは一度だけ行ったことがある。10階層までだが」

 まだ俺自身が幼かったので、頂上まではいけなかったが。

 「そうなんでふかぁ~~10階層だと、クルミ草とかがあったでふかねぇ~あ、あと月見草もかにゃ」

 「随分と詳しいんだな。行ったことがあるのか?」

 「ふはぇ~~あそこのダンジョンは建設時に研修で見学したんでふぅ……はぁ……はぁ」

 「それは凄いな」

 さすが腐っても神だな。スケールが違う。

 「た、宝箱設置体験で~アイテムいっぱい入れてきましたよ~~はふぅ……」

 なんだその職業アトラクションみたいなノリ。
 でもちょっと楽しそう。

 「ちなみに宝箱には何を入れたんだ?」

 「ふえぇ~~と、魔剣とか鎧とかだったかなぁ~あとエリクサーも入れたきがしまふぅ」

 「なに! 神のエリクサーか!!」

 「ふあぁ!? 顔が近いです、クレイさん! まあいいですけど……」

 おっと、思わず女神の肩をガッツリ揺さぶってしまった。

 「で、どんなエリクサーを入れたんだ?」

 「そうですねぇ~~たしかバトルエリクサーだったかなぁ?」

 マジかぁ……伝説のエリクサーが、ガザンの山岳ダンジョンにあるのかよぉ。
 俺も見てみたいんもんだ。

 「ふぇぇ~にしてもクレイさんはやっぱりポーション狂いですねぇ……」

 「そうか? 俺自身は良く分からんけどな」

 「フフ~~まあそんなところも見てて楽しいですけどねぇ~」

 ストーキング行為をいい風に言わないでくれ。


 そして神山を延々と登り続けること、数時間後……


 「おお、最上階についたぞ」

 最上階は、山のてっぺんだ。
 天井のあるダンジョン内部とは違い、ひらけた空間が目の前に広がっている。

 「頂上もかなりの広さがあるんだな」

 女神の情報によれば、ここがスリープフラワーの群生地のはず。

 天界の素材はどんなやつなんだろう。
 地上とは違う環境で育ったから、一味も二味もちがうのかなぁ~ワクワク!

 「グラアァア……」
 「あっ……く、く……」

 んん? どうした女神変な声出して……って! あれか?

 「おお! めっちゃ咲いてるじゃないか!」

 一面に広がるスリープフラワーたちが、俺の視界に飛び込んできた。

 すげぇ、素材だらけだぞ!

 「おお~~なんだ、デカいぞ! それにこの輝き……まじか!」

 安眠効果をもたらす魔力が、目に見えるほど出てる!
 これはかなりというか、めっちゃ上質なスリープフラワーじゃないか! しかもビッグサイズ!

 「ギュゴォオオ……」
 「く、く、くれ、くれ」

 くれ? 

 わかってるって、こんなにあるんだから、急がなくてもいいぞ女神さまよ。


 「―――ギュゴラァアアアアア!」


 なんだよ、さっきから雑音がウザいな。

 「クレイさぁんんんんんんん!!」

 「なに?」

 「り、り、龍ですぅうううう」

 「あ、ほんとだ」

 「テンションおかしくないですかぁああ! 目のまえにいるの龍ですよ!」

 「なるほど、こんな素晴らしい素材感傷タイムに無粋なやつだな」


 「なにのんきなこと言ってんですか! 神龍さまです! 神の龍です! ヤバイ龍ですよぉおおおお!!」

 「―――何言ってんだぁあ! ここに素材があるんだぞ! みたことないデカさだぞぉおおお! すげぇ高純度なやつだぞぉおお!!」


 「ええぇ……ウソでしょ……ここ逆ギレされるとこぉ??」


 こんな超素材に巡り合える機会はほとんどないんだぞ。
 それにあんたは全てを超越した神だろ。龍ごときで焦らないでくれ。

 ってことで、邪魔者は排除だな。

 「よし、女神ご……」


 「Goとか言わせませんよぉおお!!」