エトラシアには俺への報酬であるポーション飲みまくりの責務を果たしてもらう為に、試飲しまくってもらった。

 「プフゥあ~、ぽ~しょんうんまぁ~~い。らったった~~」

 ヤバい。飲ませすぎた。

 「うっひょ~~たいしょうぅ~もういっぱ~~い」

 酔っ払いかよ……
 前世の仕事おわりを思い出すな。まあ俺の出席率はすこぶる悪かったが。

 「クレイさん……いくらなんでもやりすぎですよぉ」

 ラーナが呆れた顔をする。

 「いやぁ~エトラシアが想像以上にうまうま言いながら飲んでくれるもんだから……つい」

 「クレイさんはポーションのことになると、見境がなくなるからぁ」

 ラーナのお小言を聞きながらも、ポーチから素材を出してと。

 「―――って! 言ってる傍から、まだポーション作るんですか?」

 「いや、これが最後だ」

 というか本来はこれをエトラシアに飲ませようと始めたんだが。
 なんか俺もテンションが上がってしまい、前座のポーションを作りすぎてしまった。

 俺の手の中で光がほとばしり、一本のポーションが現れる。

 「エトラシア、これを飲んでみろ」

 「ふぇぇ~~い。ふれいどの~りょうかいだ~~ゴキュゴキュ~~」

 豪快な飲みっぷりだな。

 飲んだあとのカラ瓶を自身の頭上で逆さにしてみせる女騎士。
 うわぁ……この子、実は転生者とかじゃないだろうな。

 ちょっとした小ネタがはさまったが、
 ポーションを飲むとともに、エトラシアが落ち着きを取り戻し始めた。

 おお、いい感じだぞ。


 「……あ、あれ? ワタシはいったい何を?」


 周囲を見回して目をパチパチさせる女騎士。

 「うむ、効果あり。成功だな」
 「せ、成功? どういうことだクレイ殿?」

 「そのポーションにはリラックス効果があるんだ」
 「リラックス? そういえば心なしか気分が落ち着くような……」

 このポーションは、フェンリルの興奮抑制に使った【ポーション(静寂の吐息)(リラックスブレス)】をベースに作ったものだ。


 「ああ、名付けて
 ―――【ポーション(女騎士鎮静)(エトラシアどうどう)】だ」


 「な、なんだそのポーション名は! なんか他のと違う気がするのだが!」

 「そうか? エトラシアっぽくていいじゃないか」

 「くっ……ポーション名でもワタシを辱める気か……だが……甘んじて受け入れよう」

 渋々ながらも納得するようだ。
 いい名前だと思うけどな。

 「エトラシア、おまえは少し落ち着いて事にあたったほうが良い。もちろんそれで万能というわけではないが、まあちょっとした補助剤だとでも思ってくれ」

 「よくよく考えたら、このポーションはワタシだけのポーションってことだな」

 「んん? ああ、まあそういうことになるな」

 「クレイ殿が、ワタシだけのために作ってくれたポーション……」

 ポーションの小瓶をギュッと胸に押し付ける女騎士。
 良く分からんが、最終的に気に入ってくれたようだ。

 その後俺たちは一泊野営した。
 ポーションたくさん作れたので大満足である。


 ちなみに夜中に「く、クレイ殿。さっきのポーションもう一本ないか?」と女騎士がハァハァ鼻息荒く迫って来たので、一本だけ渡した。



 ◇◇◇



 翌朝フェンリル達の様子を見て大丈夫そうだったので、俺たちは町に帰ることとなった。

 「フェンリルさんたちまたね~~」

 元気に手を振るラーナ。
 ゴロゴロ喉を鳴らして尻尾を振るフェンリルたち。
 なんかお友達みたいな感じだが、相手は伝説級の魔物たちなんだけどな。

 「フェルちゃんも元気でね……」
 「ギャウゥウ……」

 白いモフモフをなでる聖女。

 ラーナに懐いていた子フェンリルか。
 これがきっかけで、今回のフェンリルポーション作成しまくりイベントが発生したんだよな。

 「ラーナ、そろそろいくぞ」

 名残惜しそうにするラーナだったが、いつまでもここにいる訳にもいかない。

 「じゃあね、フェルちゃん」

 振り返らずに歩き出すラーナ。
 俺たちもそれを見て帰路につく。

 「ふぅ~~けっこう濃厚な2泊3日だったな」
 「ああ、クレイ殿にはとても感謝しているよ」
 「はい、クレイ様は命の恩人ですからね」

 「まああまり気にしないでくれ。俺はポーション作りまくれて満足だからな」

 ……

 「どうしたです? ご主人様?」


 俺たちの歩く速度に合わせてついてくる気配がひとつ。

 いる。

 うしろに。

 「ラーナ、振り向くんじゃない」
 「う、うん。クレイさん」

 「ギュルゥ……」

 うしろから聞こえる泣き声にビクッと体を揺らすラーナ。

 さらに足を速めると、その速度にぴたりとついてくる。

 「見たら、また寂しくなるぞラーナ」
 「うぅうう……クレイさん」

 すでに泣きそうじゃないか。

 「ギュルゥ……」

 再びの泣き声にラーナは我慢できなくなったのか、振り向いてしまった。

 仕方がないので俺も足を止めて振り返ると、そこには子フェンリルが尻尾振りながら座っていた。

 「わぁあ~~ん、フェルちゃん大好き~~」

 ダッシュでモフモフに突っ込んでいくラーナ。
 フェンリルはその体毛にラーナを受け入れて、ハッハッと舌をだす。

 「ラーナ殿はそのフェンリルにとても好かれているのだな」
 「ラーナ、モフモフと仲良しです!」

 「グルゥグルゥ……」

 緩み切った表情を見せるフェンリル。
 本当にラーナに気を許しているんだな、この子。

 「え、フェルちゃんそれってギュルル?」
 「ギュア! ギュルゥ!」

 なんかフェンリル語(そんなものがあるかは知らん)で会話はじまったぞ。

 「クレイさん、クレイさん」
 「どうしたんだ、ラーナ?」

 「フェルちゃん、ついてきたいって言ってます」

 はい?

 「それは森の出口まで一緒に来るということか?」

 「違いますよ。屋敷までもそれからもです」

 はいぃ?

 「よし、今すぐ群れに返してきなさい」

 「ええぇ~~~~」

 ええぇじゃないだろ。

 「やだやだ~~フェルちゃん飼う~~~」

 飼うって……小学生かよ。

 「よく考えろラーナ。犬を飼うのとは訳が違うんだぞ」
 「でもぉおおお~」
 「それにその子を親から引き離すことになるんだぞ。一時の感情でそんなことをしていいのか?」
 「あ、フェルちゃん親から許可を取ってるからそれは大丈夫って」

 軽く許可するなよぉ……親ぁあああ。

 子供と言っても伝説の魔獣フェンリルだぞ。見た目だけでもラーナの数倍あるし。

 「しかしなぁ……流石にこんなデカい魔物が町に入ったら、再び魔物大量発生(スタンピード)が発生しかと大騒ぎになるぞ」

 「フェルちゃん、ギュル?」
 「グル? ギュルん」

 「クレイさん、たぶん大丈夫ですよ」

 「え? なんでだ?」

 「さ、フェルちゃん」

 ラーナがフェルのモフモフ羽毛から離れる。

 「グルゥウウウウ~~」

 フェルがクルクル回り始めて、どんどん小さくなっていく……

 「キャンキャン!」

 まるで子犬のように小さくなったフェルは、俺の足元に来て俺の靴をペロっと舐めた。
 小さな尻尾を振りながら俺を見上げる子犬。


 「こういうことですぅ~~クレイさん」


 え? どういうこと?

 ダメだ、ちょっと訳わからん。