「あ、クレイさん戻って来た~」
 「ご主人様、素材はあったですか?」

 「ああ、けっこう色々あったぞ」

 集めて来た素材をドカッと地面に降ろす。

 俺たちは魔の森でもう一泊することになった。フェンリルたちの事後経過を見る必要があるからだ。まあ大丈夫そうだけど。

 その日の午前中にフェンリルたちの治療は終わったから、午後は多少時間ができた。なので俺は素材探しに行ったのだ。
 ラーナやリタにユリカは、フェンリルたちと留守番だった。まあ伝説級の魔物たちに囲まれているので、これ以上にないほど安全だろう。

 素材探しに行ったのは俺と……

 「お~~い。クレイ殿、ま、待ってくれ」

 女騎士のエトラシアだ。

 「く、クレイ殿。移動が速すぎるぞ……はぁ、はぁ」

 俺は素材探しの際はかなり早く移動する。今回は時間も限られているし、魔物ひしめく森だから素早い行動が求められる。
 エトラシアはどうしてもついて行くというので、連れて行った。

 「しかし、ギリギリではあるが良く俺についてこられたな。さすが騎士さまだ」

 「ほ、本当か! やった、クレイ殿が褒めるなんて珍しい!」

 いや、俺そこそこ褒めるぞ? この女騎士、なにか勘違いしてないか。

 が、今はそれよりも……

 「エトラシア、足を見せてくれ」

 「ふはぁっ! く、く、クレイ殿。な、な、なにを言い出すんだ! 脱がしてワタシをどうする気だ?」

 「変な勘違いをするな。足をかばって歩いていただろ」

 「えっ……そんなこと見てるのか?」

 見てるも何も、物凄く分かりやすかったけど。
 歩き方が不自然だったよ。

 エトラシアが甲冑の足当てを外すと、彼女の素足が露わになった。
 太ももにケガをしている感じではないな。

 「クレイ殿、そんなにマジマジと見ないでくれ……」

 女騎士は頬を赤らめ、視線をそらしながらボソッと呟いた。

 「恥ずかしがるな、綺麗な足だぞ」
 「くはっ……そ、そんなこと……」

 なにモジモジしてやがる。俺は本当のことしか言わん。

 というかどこが悪いんだ? あそこまで変な歩き方はクセではないはずなんだが……
 俺は、ひょいとエトラシアの足をもちあげた。

 「やっ! なにを……!」

 ビクッとする女騎士。

 「あ、これか」

 やっと原因がわかったぞ。

 「足の裏に魚の目がある。これだな」

 「わかった! わかったから足を降ろしてくれ、クレイ殿!」

 赤面して涙目で訴えるエトラシアの足を降ろすと、俺は今朝集めたばかりの素材を物色し始める。

 「も~~クレイさんは相変わらずですね~」

 ラーナがむうぅとした視線を送ってきた。
 リタとユリカも同じくだ。

 どうしたんだ? 3人とも怖い顔して。

 「ポーションにしか興味がないんだから~まったくもう~」

 いや、原因が分からなかったら、ポーションの作りようがないだろ。

 「さあ~~魚の目を治すポーション作りだな。うむ、既存のはないからと……」

 「クレイ殿、うおのめとはこの足の裏に出来たマメのことなのだろうか?」
 「そうだぞ。それ、歩くたんびに痛いだろ」
 「あ、ああ。たしかに力を入れるとピキっと痛みが走っていたんだ。だが騎士がこんなことで弱音を吐くわけにはいかないからな」

 「その根性は認めるが、なんでも我慢すりゃいいってもんでもないぞ」

 そう、俺のポーションはこういう時の為にあるんだから。

 「お姉さまは、わたしが疲れた時はいつもおぶってくれるんです」

 どうやらユリカが疲れた時には、エトラシアがおんぶして移動していたようだ。
 妹想いのいい姉じゃないか。

 俺もポーション作りに力が入るってもんだ。

 「―――お、あった。これがいいだろう」

 素材
 ・フェンリルから採取したスキンマッシュルーム微量
 ・さっきの素材探しで見つけた、乳木から取れた樹液
 ・俺の自家製ポーション水


 「よし、この素材で―――

 【ポーション生成】!
 ――――――【ポーション(足裏角質軟化)(スキンステップ)】!」


 一本のポーションが出来上がった。

 「エトラシア、飲んでみてくれ」

 クイっと一気に飲み干す女騎士。

 「ふあっ……美味い、これ……」

 そりゃそうだ、俺の作ったポーションに不味いものはない。

 「で、どうなんだ?」

 効果のほどを教えてくれ。

 「ポーションって苦いものとばかり思っていたが……これは凄いなクレイ殿」

 「それはいいから、どうなんだ? 足を見てやろうか?」

 おれがウキウキしてエトラシアに近づくと、彼女は顔を真っ赤にして自ら足裏を確認した。

 「ああ、マメが無くなっている!」

 その場でバンバン跳ねて、足を地面に叩きつけるエトラシア。

 「痛くない! 痛くないぞ、クレイ殿!」

 よしよし、成功のようだな。
 魚の目ポーション。これは需要がありそうだ。

 エトラシアの笑顔に満たされるこの感覚。
 一時の満足感が駆け抜けたあと、俺にはある感情が渦巻いてきた。

 ダメだ一本作ったから止まらなくなってきた。

 こうなったら……

 まだまだ作るぞ~~

 素材は先ほど山ほど取って来た、新しいポーションも試したいし。色々組み合わせも楽しめそうだ。
 どうせ魔の森には一泊するんだ。ここで作りまくってやる。

 「というわけで、俺は今から作りまくる! 以上!」

 ラーナが若干呆れた顔をしていたようだが、空き時間なんだから好きな事すればいいのだ。

 こうして俺は作りまくった。

 出来上がったポーションの瓶が、次々と並べられていく。

 「く、クレイ殿。そんなに作って大丈夫なのか? 誰が飲むんだ?」

 「エトラシアだけど」

 「ワタシ一択なのか!?」

 「だって、魔の森に入る前に言っただろ?」

 「え? なにを……?」

 「俺のモノをなんでも飲むって」

 「クレイ殿のモノって、ポーションのことだったのか!」

 いや、前にも言った気がするが、それ以外になにがあるんだよ。

 「ってことで、とりあえずこれ頼むわ」

 ズラーっと並ぶポーションに、少し引き気味な女騎士。

 「くっ……ポーション責めとは。だがこの程度の恥辱では屈しないからな!
 ――――――ゴクゴクゴク~~~~~

 おお、いい飲みっぷりだ。
 両手にポーション握って、左右左右と交互にがぶ飲みしていく。

 「――――――ぐふっ!?」

 一気に飲みすぎたのか、急にピクピクと痙攣する女騎士。

 いかん、さすがにやりすぎたか。

 「エトラシア、少しずつでいいぞ。今日はこのへんにしとくか?」


 「うまぁああい! なんだこれ! クレイ殿なんだか止まらなくなってきた!」


 あ、ヤバイ。

 ラーナたちがポーション飲む時と似たような顔になってる……。

 それは、女騎士がポーションに目覚めた瞬間であった。