さて、次にフェンリルのおできを治すポーションだ。

 ポーションの効果としては、患部治療と痒み鎮静の2つの効果が必要だろう。

 俺は女神から貰ったポーチに手を突っ込み、一本のポーションを取り出した。

 【ポーション(痒み鎮静)(カイカイストッパー)

 水虫に効くポーションだ。
 王族時代に作成して、兵士たちに大好評だった。王子だった頃に大量に作ったからストックはじゅうぶんにある。

 フェンリルに効果があるかは飲ませないとわからんが、俺の手持ちでは一番可能性のあるポーションだ。
 こいつに、患部治療のポーションを合成して完成させたいのだが……

 肝心の患部治療ポーションをどうするかだな。

 メイン素材である肌に治療効果のある薬草で、いいものがない。
 今から素材探しに行くのは時間的にも難しいな。

 こうなったら、色々手持ちポーションを組み合わせて片っ端から試すしかないか。

 「あれぇ~~? クレイさ~~ん」

 俺が脳内でいろいろ掛け合わせ計算をしていると、フェルの体毛に埋もれたラーナが声を上げた。
 もうそこにいることが当たり前のようになっているが、一応伝説級の魔物だからな。

 「どうしたラーナ?」

 「フェルちゃんに、なにか付いてます」

 聖女様は、またなにかを見付けたらしい。

 「おできじゃないのか?」

 「違いますよ~これキノコかなぁ~?」

 俺も近くに行って確認すると……

 「うぉ……これ素材じゃねぇかよ……」

 ポーション素材であるキノコが、フェルの体に生えていた。

 しかも、スキンマッシュルームじゃないのか! これ!!

 興奮した俺は、フェルに生えていたキノコをブチっと抜いてマジマジと見てみる。
 なんか悲鳴に近い泣き声が上がった気もするが、それどころではない。

 スキンマッシュルームは、皮膚組織を再生する成分が含まれているレア素材だ。

 マジか……

 俺が欲しかった素材だ。

 よし!

 これでポーション作成のめどがついた。
 ただしかなりの量をつくるので、もう少しスキンマッシュルームが欲しいのだが……

 うおっ!

 よく見たら何本か生えてるじゃねぇか!

 「でかしたラーナ!」

 「でかしたじゃないですよぉ~ブチぃて取っちゃダメです! もっと優しくですよ!」

 「え? そ、そうか、すまなかった。つい興奮してしまってな」

 ああ、さっきの泣き声はフェルの声だったのか。

 つい夢中で引っこ抜いてしまったようだ。

 「よしラーナ。フェルに生えているキノコを全て取ってくれ」
 「は~~い。フェルちゃん、痛くしないから取らせてね~」

 だが、フェルのを全て取ってもまだ足らないな……って! 他のフェンリルにも生えているぽいぞ!?

 ―――なんだこれは?

 フェンリルがキノコを生やすなんて習性は、聞いたことがないぞ。

 もしかして痒みを止めたいがゆえに、スキンマッシュルームを大量に食べたのか?
 フェンリルは知能が高い魔物だからな。

 あり得るかもしれん。

 だが、スキンマッシュルームを直接摂取してもそこまで効果はない。
 この素材は加工してこそ、その真価を発揮するんだ。

 そして俺はその加工する術を持っている。

 うぉおお……


 ワクワクしてきやがった。


 「よし、みんな! フェンリルに生えているキノコを取ってくれ。ラーナ、フェルに仲間に取っていいよう伝えてもらってくれ」

 「は~い。クレイさん」

 そして、フェンリルキノコ狩りが始まった。

 どんどん集まって来るレア素材。
 凄いぞ……素材集め専門の冒険者でも、これほどの光景を見た奴はほとんどいないだろう。
 宝の山じゃないか。

 「ラーナ、キノコ狩りは他のみんなに任せて、聖水をバンバン出してくれ」

 「は~~い。フェルちゃんちょっと待っててね。クレイさんが必ず助けてくれるよ~」

 ドバドバと聖水を出し始めるラーナ。

 素材も聖水も潤沢にある。

 これで準備は完全に整った。

 さて、作るぞぉおおお!

 まずは、治療回復のポーションからだ。

 ・スキンマッシュルーム
 ・ラーナの聖水
 ・体力回復草

 素材を揃えて―――

 「【ポーション生成】!
 ――――――【ポーション(皮膚膿瘍治療)(オデキキュア)】!」

 よし、これで患部治療のポーション完成だ。

 さらに、水虫痒み止めのポーションを取り出して―――


 「―――【ポーション合成】!
 【ポーション(痒み鎮静)(カイカイストッパー)】×【ポーション(皮膚膿瘍治療)(オデキキュア)】!」

 2つのポーションが光輝き融合する。

 「合成完了―――【ポーション(皮膚鎮静浄化治療)(オデキスキンクリアリフレッシュ)】!!」


 「ふぅ……完成だ」

 「ふわぁ~クレイさん。なんかこのポーション青くて綺麗ですね」

 「ああ、ラーナの聖水を大量に使用しているからな」

 さて、効果のほどを試さねば。ワクワク!

 「ラーナ、フェルにこのポーションを飲ませてやってくれ」

 こくりと頷き、フェルの口に瓶をあてて飲ませるラーナ。
 このフェンリル、ラーナの言う事ならなんでも聞きそうなほど従順だな……。

 「グルゥウウ?」

 どうだ?

 「グルグルゥウ」

 子フェンリルであるフェルは、ラーナに身体を摺り寄せている。

 なんだ? ダメなのか? まだ痒いってことか?

 「グルゥ?」

 なんだ、急に声質が変わったぞ!

 と思ったら、ラーナの声だった。フェンリル語かよ。ややこしい。

 「グルルルゥ!」

 「クレイさ~ん、フェルちゃんのおでき無くなってますよ~あと痒みもないって~やった~」

 おおぉ……

 ……効果ありだ。

 「さすがご主人様です~~ボウル2個目もできましたです!」

 リタが満面の笑みで巨大なボウルを担いできた。

 「よし、今からポーションを作りまくる。出来たものからボウルに入れてくれ」

 それから鬼のようにポーションを作りまくり、ボウルに入れてフェンリルたちに飲ませた。

 およそ一時間後……

 「ふぅ~~これで全てにいきわたったか」

 「はい! クレイさん、みんなおできも無くなって、痒みもないっていってますよ。やりましたね!」
 「瘴気も身体から出ていないです!」

 当然だ。ラーナの聖水をふんだんに使用しているので、浄化効果も抜群だからな。

 2つの大きなボウルに頭を突っ込んでいたフェンリルたちが、顔を上げこちらに向かってくる。

 「く、クレイ殿……」
 「心配するな、エトラシア。彼らに殺意はこれっぽっちもない」

 俺たちを取り囲んだフェンリルたちが、一斉に仰向けになる。

 すべてのフェンリルが俺に向けて腹を見せてきたのだ。
 凄い光景だな……。

 「クレイ殿。こ、これは、どういうことだろうか?」
 「おそらくは俺たちへの敵意はないという意思表示だろうさ」

 「一部の魔物がお腹を見せるのは服従のあかしだって、おじいちゃんに教えてもらったことあるです」
 「そうかもしれないなリタ。まあ俺は大将になるのはごめん被るがな」

 「す、凄いな……クレイ殿は本当に凄いな……」
 「はい、クレイ様がいればなんでも治すことができる気がします」

 エトラシアとユリカが大層な事を言い出した。

 そんなことは無い。

 俺は出来ない事の方が多いんだがな。

 まあ敢えてここで言う必要はないか。

 「さて、これでフロンドの瘴気問題も解決しそうだぞ」

 魔の森から流れ出ているという瘴気の元は、このフェンリルたちだった。
 もちろんその他にも発生の原因が無いとは言い切れないが、強力な魔力を秘めた魔獣たちが一斉に瘴気を出していたんだ。これが無くなれば、間違いなく変化が起こるだろう。

 「フェンリルたちを救えたのは良かったが、クレイ殿は瘴気に効くポーションを販売していたのだろう?」
 「そうだなエトラシア」
 「だとしたら、そのポーションは売れなくなってしまいますね。クレイ様」
 「そうだなユリカ」

 「なんだかクレイ殿は嬉しそうな顔をしているな」

 売れなくて構わないんだよ。

 必要とされなくなったポーションはその役目を果たしたんだ。

 存分に活躍したのだからそれでいい。


 「つまり俺から言わせれば、それは最高のポーションなんだよ」


 「そ、そういうものなのか……」

 エトラシアがぽつりと呟いた。

 それにな……

 ポーションに終わりはない。


 「また新しいポーションを作れるじゃないか」

 「ハハッ、クレイ殿らしいな」


 そうだ。俺のポーション作りは、終わりのない趣味だ。

 最高だよ。