【ポーション(超生命力回復)(メガライフパワーチャージ)

 青い光を放つ1本の瓶。
 俺が現状で作れる最高の回復ポーションだ。

 「よし、エトラシア。ユリカの頭を支えてくれ」
 「ああ、クレイ殿。ユリカ、ユリカ……口をあけてくれ」

 俺はポーションの瓶を片手に、ユリカの顔を覗きこむ。
 虚ろな瞳で、焦点もあっていない。

 「やはり強制的に飲ませるしかないか。エトラシア」

 俺はポーションの瓶をエトラシアに渡しながら言葉を紡ぐ。

 「口移しで流し込むしかない。強引だがやってくれ」

 「ああ、クレイ殿が作ってくれたポーション。絶対に無駄にはしない」

 そう言って、ポーションを口にふくみ妹の唇に押し付けるエトラシア。
 どんなポーションでも飲まなければ効果は発揮しない。

 エトラシアが少しづつポーションをユリカの口に含ませると、ユリカの身体に変化が現れる。

 「ク…………フ……」

 ユリカの体に微かな息遣いが戻ってきた。

 「…………コフっ……コフっ……」

 何度目かに唇を押し付けられたユリカが小さくむせる。

 「ゆ、ユリカ! ユリカ!!」

 「……うっ……あ……」

 エトラシアの声に、ユリカの瞳に光が宿りはじめた。
 よし、意識が戻ったな。

 「エトラシア、残りはユリカ自身で飲ませたほうがいい」

 「ゆ、ユリカ! 飲んでくれ! ユリカ!!」

 「え?……お、おねえちゃ……ん」

 ユリカの上半身を支えて、ゆっくりと残りのポーションを飲ませるエトラシア。

 「ふぅ……なにこれ……体が……あったかい……」

 ユリカの外傷はみるみるうちに消えていき、自らの力で上半身を起こしていられるようにまで回復した。

 「わ、わたし……オークに……殴られて……あ……れ」


 「もう大丈夫なんだ! ユリカ、すまなかった!」


 「お、おねぇちゃ……うううぅう……」

 しっかりと抱き合い、生を確かめ合う姉妹。


 「ふふ~~良かったですね、エトラシアさんユリカちゃん」
 「元気になったです! ユリカさんはじめましてです」

 「おねえちゃん……この人たちは?」

 「ああ、ワタシの大事な仲間だ。みんながワタシとユリカを救ってくれたんだ」

 エトラシアが頭を下げて、俺たちに礼を言う。妹も礼を言い立ち上がろうとするが、俺は手をあげて制止した。

 「完全回復したとはいえ、すぐに動かないほうが良いだろう。しばらく休んでいてくれ」

 「は、はい……えっとクレイ様、本当にありがとうございました」

 「ああ、礼はもういいぞ。あと様なんていらんよ。クレイでいい」

 「は、はい、クレイ様。この小瓶て……エリクサーなんですか?」

 ユリカがポーションのカラ瓶を手にして俺を見る。

 「ユリカ、それはクレイ殿が作ったポーションなんだ」

 俺のかわりにエトラシアが口を開く。

 「ええ? ぽ、ポーションなんですね……す、凄い……」
 「クレイ殿の作るポーションは本当にとんでもない代物だな」

 姉妹の視線が再び俺にむいた。

 俺が今回作ったポーションは、歴代最高の回復ポーションだからな。


 「当然だ。俺のポーションはエリクサーにもひけはとらん」




 ◇エトラシア視点◇


 ワタシたちはオークの巣を出て、適当な野営地を探していた。
 巣から出るとほとんど日は落ちかけており、さすがに町に戻る時間はない。

 妹は信じられないぐらいの回復を見せて、なんとワタシたちと一緒に歩いている。

 今はラーナ殿とリタ殿と楽しそうに会話しているユリカ。

 まさかこんな最高の結果になるなんて……

 クレイ殿……

 良く分からない胸の鼓動を抑えつつ、ワタシは少し先を行くクレイ殿に追いついて横に並ぶ。

 この男が妹を救ってくれた。

 エリクサーでもないポーションで。

 いまだに夢かと思ってしまう。
 いや、もしかしたら夢なのかもしれない。

 「クレイ殿、本当に感謝する」

 「もう礼はいらないぞ。さっきから何回言う気だ?」

 そう言って、ため息を漏らすクレイ殿。

 だが、湧き出てくる感謝の気持ちが抑えきれずに……何度でも言いたい。それがワタシの本心なんだ。
 そしてその後に込み上げてくる別の感情。

 「結局ワタシは役に立てなかった……」

 これだ。この情けない感情、消そうとしてもすぐに出てしまう。

 「あのな……」

 クレイ殿が若干呆れた顔でこちらに視線を向けた。
 こんなウジウジした女。彼は嫌なんだろうな……。

 「さっきも言ったが、エトラシアの持って来た素材がなければポーションは作れなかったんだぞ」
 「だ、だが! 持って来たと言っても単にひっついていただけじゃないか!」

 あれ、なぜだ? なぜワタシはクレイ殿にこのような口の利き方をしている。
 それになんだか胸の鼓動が……おかしい……なんだこれは?

 そんなワタシに対して、クレイ殿は嫌な顔もせず淡々と話を続ける。

 「持って来たのはおまえだ。エトラシア」
 「そ、それは結果論であって……道中迷いまくって、転びまくって、色んな失敗をしたから」

 「ならばそれが結果として、不滅草(ふめつそう)の種子が付着したんだ。幸運を呼ぶのも実力のうちだ」
 「オークにも吹っ飛ばされて、妹をさらわれてしまったし」

 「だがおまえは死ななかったぞ。常人なら即死だよ」
 「そ、それはワタシが多少頑丈だったから……」

 「エトラシアが生き残ったからこそ、俺たちがここにいるんだろ?」
 「うっ……ま、まあ……」

 「もし吹っ飛ばされておまえが死んでいたら、そこでジエンドだ。俺たちと会うこともできん。
 だからな――――――

 ――――――おまえのやってきた鍛錬は無駄なんかじゃない」

 ……っ!

 クレイ殿の言葉おわった瞬間、ワタシの体からなにかがスッと消えていった。

 もう、あの嫌な感じはほとんどしない。

 ああ、ワタシはクレイ殿に認めて欲しかったんだな。
 偶然にも素材を持って来たとかではなく。自身の力を。

 だが、結果的にクレイ殿はワタシを認めてくれていた。


 そうかこの高まる胸の鼓動は……


 クレイ殿が、私の心の拠り所であるエリクサーの変わりになってくれた。

 クレイ殿が、私を少しでも認めてくれた。

 心の拠り所に認められたい。

 「だがなエトラシア……おまえはまだまだポンコツ騎士だってことは、忘れるなよ」

 「くっ……だ、誰がポンコツだ!」

 口ではそう言ったが……
 少し怒ったように頬を膨らませてみたが……


 もうワタシ胸の鼓動はずっと止まらなくなっていた。