俺の前に立ちはだかる黒ずくめの男たち。

 合計5人か……

 「おい、なんだ貴様。我々はその女に用がある。死にたくなければ早々に立ち去るがよい」

 中央の一人が前に出て口を開いた。

 「いやいや、黒くて怖そうなおっさんたちが寄ってたかって美少女取り囲んでなにやってのよ?」

 「おまえには関係のない話だ。ふん、黙って去ればいいものを……」

 男の言葉が終わるまえに、俺の眼前に鋼の刃が振り下ろされる。
 いつのまにか別の黒づくめが俺の間合いに入ってきた。


 速いな―――


 俺は腰の剣を抜き放ち、なんとか敵の斬撃を防いだ。

 手がジンジン痺れている。
 こりゃ、ただの変態暴漢黒づくめおっさんたちじゃなさそうだ。
 相応の訓練をつんだ奴ら。王城にもこういった部隊はいたな。

 「ほう、多少は剣を使える様だな」

 まあ、一応元王族だからね。幼少の頃からほどほどに剣の訓練は受けているよ。
 そして、さっきの一撃を受けて確信した。

 「どのみち生かして帰す気はないんだろ?」

 俺の腕の中で震える美少女の服装。これは修道服だ。
 たしか謙虚さや誠実、奉仕の精神を表してるんだったか。

 しかも一般シスターたちが着る服よりも上質なものだ。小さい頃は王都の中央教会とかによく行かされたからな。王族だったからここらへんの無駄知識はけっこうあるのよ。

 「つまりこの子は結構な高位神官だろ?」
 「ふん、貴様には関係のない事だ。我らは任務を果たすまで」

 任務ってか。こんな少女が高位神官で、目の間にはプロの戦闘集団。

 こりゃヤバイ案件確定だな。

 「おまえさん、いったいなにしたんだ? こんなプロ集団に追われるとか、おっさんの極秘エロ本コレクションとか盗んだんか?」

 「え、エロ……なんですかそれっ! ぬ、盗みなんて絶対しないですぅ。移動していたら突然馬車ごと襲われて……グスっ。ば、馬車から飛び降りて逃げたけど……グスっ」


 「あ~~もう、わかったわかった」


 ちょっと軽めに声を掛けたつもりだが、相当まいっているなこりゃ。
 そりゃそうだよな、いきなり襲われてさらわれかけたんだ。

 「悪かった。ちょっとしたコミュニケーションだよ」
 「ふぇ……!?」

 俺は腕の中にいた少女をそっと後ろにおろした。

 「まあとにかく、あいつらぶっ飛ばせばいいんだな。ちょっと待ってろ」

 俺の言葉を聞いた黒ずくめの男たちの殺気が高まる。

 「愚かな。その娘を抱いていれば我らも加減せざる負えなかったが、自ら放棄するとは」

 「へっ、それはやってみないとわからんだろ」

 やはりこいつらの目的は少女の殺害ではなく、身柄確保だな。
 俺が少女から離れた瞬間に、殺気が高まった。

 「ふん、我らを舐めるなよ。貴様の動きでわかるわ。多少は剣が使える様だが、我々には無意味だ―――」

 5人全員が詠唱を開始する。


 魔法か―――


 「―――身体能力上昇(フィジカルアビリティアップ)
 ―――物理防御力上昇(フィジカルディフェンスアップ)
 ―――魔法攻撃力上昇(マジックアビリティアップ)!」


 こりゃ凄いな。魔法でバフをかけまくりか。
 さらに脇の男が別の魔法を発動。

 「―――魔力測定(マジックチェック)
 隊長、やつの魔力はゼロです!」

 「魔力なしだと……」

 「おいおい、勝手に見るなよ。おっさんでのぞきは完全にモテないぞ」

 「なるほど……つまり貴様はさっきの剣が限界ということか」


 殺気の波長が変わった……来るな。


 両脇の2人が俊足で間合いを詰めてくる。
 が、俺はそれより早く地を蹴っており、ぎりぎりで1人の攻撃を躱しもう一人の剣を弾いてその場を脱する。

 「―――中級火炎魔法(ミドルファイアーボール)!」
 「―――岩弾丸魔法(サンドショット)!」

 俺が逃れた場所へ、別の2人から魔法が撃ちこまれる。
 初撃で仕留められなかった時に準備していたな。

 が、これも想定内だ!

 俺は斬撃を逃れた瞬間にさらにもうひと飛びしていた。
 放たれた2つの魔法にサンドイッチされることなく避ける。完全には躱せなかったが、致命傷はなしだ。

 そして、頭上から―――

 「―――やるな! その気配察知能力……なかなかのものだが!」

 隊長と呼ばれた男の斬撃が、凄まじい勢いで迫って来た。

 「ぐっ……!!」

 なんとか剣で受けるも、俺は衝撃で大きく後ろに吹きとばされてしまう。

 「ハハッ、受け切れんか。もう諦めろ」

 俺の気配察知は、ポーション素材探しの時に培われたものだ。
 素材のなかには魔物ひしめく森とかに入らないと、手に入らないのも結構あるんだ。そこで結構鍛えられたからな。

 「もう一度言う。おまえに勝ち目はない。パワーも速度も防御も魔力も、すべて我らの方が上だ」

 そりゃそうだろうな。ただでさえ強い戦闘プロ集団がバフの重ねかけをしているんだ。


 ……あんまりやりたくないけど。


 「やっぱ飲むしかねぇか……」


 俺はポーチから取り出した黒いポーションをグッと喉の奥に流し込む。

 「ポーションだと? ハハッ、いまさら体力回復したところで無意味だぞ!」


 「それは……どうかな―――」


 俺が言葉を終える前に、一番近くにいた黒づくめが声もあげずに倒れた。

 「まず1人っと」

 「―――な、なんだ!?」

 さらに次のターゲットに向かって一瞬で間合いを詰めた俺は、即座に剣を打ち込む。

 「ぐっ……がっ!!」

 俺の斬撃を剣で受ける黒づくめ。さすがプロ、2人目は対応してきたな。

 だが―――

 パワーが違うんだよ!!

 「ぐはぁああ!!」

 受けた剣ごと勢いよく後方に吹っ飛ばされる2人目。

 「なんだ!? さっきまでとまるで動きが違う! 上位の身体強化魔法か!」
 「そんな……魔力ゼロだったはずです隊長……!」

 「おいおい、よそ見厳禁だぞ! 3人目ぇ!!」
 「ぐぉはあぁああ!!」

 3人目が俺の強烈なパンチで地面に崩れ落ちる。

 「くっ……どうなっている! 魔力測定!!」
 「た、隊長。いぜん奴の魔力はゼロ……です」

 「ばかな……ではこの力はなんなのだ? 明らかに身体強化を行っている。しかも我々をはるかに上回る……魔法、いや魔道具……にしても魔力が……」


 そりゃそうだ。俺は身体強化魔法も魔道具も使っちゃいない。

 だって魔力ゼロなんだから。

 俺が使ったのは――――――


 【戦闘ポーション(瞬間身体能力アップ)(インスタントパワーブースト)


 ポーションだよ。