「ゴフゴフ~~!」

 棍棒をブンブン振りおろしまくってくるアイスオーク。滅多撃ちである。
 俺を狙っているというよりは、周辺をボコボコにしている感じだ。

 こん棒が地面に激突するたびに、地面の凍結範囲が広がっていく。

 俺は周囲を凍結した地面に囲まれてしまい、身動きが取れなくなってしまった。


 「ゴフ~~ゴフュゴフュ~~」


 ニヤついた目つきで俺を見下ろすアイスオーク。
 逃げ場のなくなった俺を見て勝利を確信したんだろうが―――

 【戦闘ポーション(戦闘火属性付与)(バトルファイアーオアシス)】を飲んだ時点で、おまえの敗北は決定しているんだよ。

 俺は目を閉じ、意識を集中させた。


 「火属性発動!
 ――――――高速体内燃焼(ヒートブラスト)、開始だ!」


 その瞬間、火花が散るような音が体内に響く。腹の奥底にある火種が徐々に大きくなっていき、熱が指先まで到達する。
 体温が一気に上昇し、血液が沸騰するかのような感覚が全身を駆け巡る。

 よし、火種はじゅうぶんだ。


 「――――――燃焼解放ぉおおお!」


 赤い炎が噴き出し、俺の体を包み込む。
 拳を握り、深く息を吸い込むたびに、体内の熱が膨らんでいくのを感じる。まるで火の粉が風に煽られ燃え広がっていくかのように、熱がどんどん広がっていく。

 そう、俺の【戦闘ポーション(戦闘火属性付与)(バトルファイアーオアシス)】の効果は、その名の通り火属性の付与だ。属性は本来その人の持つ魔力に作用するが、俺は魔力ゼロなので魔力のかわりに体内エネルギー(体力)を燃焼させて火炎系の力を引き出すことが出来る。


 「もっと……燃えろ!」


 俺の体内で高熱が発生して、周辺の温度がどんどん上昇しはじめる。
 辺り一帯の温度が上昇するにつれて、凍結していた地面が溶けはじめた。

 「ふぇ……クレイさんなんか熱くなってきた!」
 「ご主人様~~燃えてるです!?」
 「く、クレイ殿、これはいったい!?」

 「3人とももっと離れてろ!」


 ―――まだまだ上がるからな。


 熱が渦を巻き、まるで燃料を注ぎ込まれたように力を増していく。周囲の空間が歪み始めた。吐息が蒸気となり、目の前に立つ敵さえ霞むほどの熱気が俺を包み込む。

 「ゴ、ゴフ?」

 周囲の凍結した地面は完全に溶かされ、カラカラに干上がっている。

 「さあ、これでおまえの得意なフィールドはすべて無くなったぞ」

 「―――ゴファアア!」

 何が起こったのか理解できずに一瞬たじろいだアイスオークだったが、すぐさま巨大なこん棒を振り下ろしてきた。

 凍結地面問題は解消されたが、オーク特有の馬鹿力は健在だ。
 風切り音をうならせて強烈な一撃を放つアイスオーク。


 まあ――――――戦闘ポーションを飲んだ俺の力には及ばないがな!


 俺は振り下ろされてきたこん棒を剣で受け止めると、そのまま押し返す。
 地面が滑らないので、踏ん張りがきく。

 「ゴ、ゴフっ……ゴモ~~~!」

 押し返えされた勢いで、アイスオークは体勢を崩してズシンと後ろに尻もちをついた。
 俺は【ポーション合成】により火属性の攻撃ができるようになったが、従来の戦闘ポーション効果である身体能力強化もむろん有効だ。

 「ふぁ~~クレイさん凄い……」
 「ご主人様、力持ちです!」
 「く、クレイ殿……貴殿とんでもないな」

 後方3人組がなにやら言っているが、まだ油断はできない。

 アイスオークの殺気は依然変わらないし、むしろ高まっている。


 「―――ゴフゴフゴフ!」


 立ち上がったアイスオークの全身から冷気が噴出される。
 その冷気が頭上に掲げたこん棒に集約され巨大なつららと化す。

 自分の持っている魔力を冷気に転換して、こん棒に集中しやがったな……

 アイスオークとて無限の魔力を内蔵しているわけではない。今までの攻撃量から推測して、恐らくは最後の一撃としてありったけの魔力を集めている。

 いいだろう……勝負してやる。


 「火属性発動!
 ――――――高速体内燃焼一点集中(ヒートブラストフォーカス)!!」


 俺の燃え盛る体内火炎をすべて剣に集中させる!

 「ぬぅううう……」

 鋼色の剣が、赤熱した溶鉱炉のように明るさを増していく。そして静寂を破るように、剣から炎が噴き上がった。


 「―――ゴファアアアアア!」


 アイスオークの巨大な氷のこん棒が、うなりをあげて振り下ろされる。
 俺は一歩も引かずに、逆に前に踏み込んだ。

 「うらぁああああ!」

 赤い剣閃が、一筋の軌跡をえがく。


 「――――――灼熱火剣斬(ヒートインパクト)!!」


 「―――ゴ、ゴフッ……」


 燃え盛る炎の剣は、氷のこん棒を粉砕すると同時にオークの頭を斬り飛ばしていた。

 アイスオークは、その巨体をズーンと響かせて地面に崩れ落ちた。