「ゴーーフッ! ゴーーフッ!」

 俺たちのまえに現れた巨体の魔物、オーク。
 手には大きなこん棒が握られており、周辺がヒンヤリとした冷気に覆われる。

 「ふぇ~~おっきいぃ~、それになんか寒いですよ。クレイさん~~クシュンっ!」

 「特殊個体か……」
 「ご主人様、特殊個体ってなんです?」

 「それはな……」


 「―――ゴフっ!」


 俺とリタめがけて大きなこん棒が振り下ろされた。
 重い打撃だが、うごきはさほど速くない。

 「リタ! 回避だ!」
 「はいです! ご主人様!」

 リタの動きは先ほど見ていたので、この攻撃は避けられるだろう。
 俺とリタは左右後方に飛びのいて大きなこん棒の一撃を避けた。

 「リタ! もう一度うしろに飛べ!」
 「ご主人様? は、はいです――――――わっ! じ、地面が!?」

 こん棒が振り落とされた場所から、ビキビキと地面が凍結をはじめる。

 そう、これがオークの特殊個体であるアイスオークだ。
 氷属性を備えた突然変異のオークである。

 このオークは体内の魔力を冷気に転換して、打撃に付与しているのだ。
 強烈な一撃を避けられたとしても、この冷気の波が地面から迫り敵の足を絡めとるか滑らせる。

 体制が崩れたところに、二度目の打撃でとどめをさす。

 「ゴフゴ~~~フっ!!」

 得意の連続攻撃が不発に終わったからか。こん棒をブンブン振り回して、苛立ちを露わにするアイスオーク。

 「―――そう上手くはいかせねぇよ」

 リタも凍結地面から上手く回避している。
 うん、やっぱりできる子だ。

 さて他の2人はどうだ?

 「はわわわ~すべるぅ~~きゃん!」
 「うわっ! ラーナ殿、お、押さないでくれ~~ぎゃん!」

 ラーナとエトラシアは後ろでコロコロしていた。
 しょうがいないか。

 的確な立ち回りが出来ない以上は、アイスオークには中途半端に近づかないほうが良い。

 「リタ、俺たち2人でやるぞ。少しの間、時間を稼げるか?」


 「はいです、ご主人様! あたし、やるです!

 んんんぅ――――――半分ゴースト! です!」


 なんだそれ?

 「―――ゴフゥウ!!」

 リタめがけてアイスオークが巨大なこん棒を横なぎにふるう。

 その場から動く気配のないリタ。そのままこん棒はリタの上半身を薙ぎ払らった。
 おい! 時間を稼いでくれとは言ったが、そんな体の張り方は求めてないぞ!

 って!? 


 「―――ご主人様、大丈夫です!」


 リタはケロッとした顔でこちらを向いた。

 なんだかリタの上半身が薄い。
 まさか……意図的に身体の一部をゴースト化したのか?

 なるほど、これならいかに強力なオークの一撃とはいえリタはダメージを負わない。
 物理攻撃はすり抜けるからだ。

 すげぇな……まあ元からゴーストではあるのだが。

 リタは俺の【ポーション(新物質強化)(ネオマテリアルアップグレード)】を定期的に飲んでいるから、常人と同じような身体になりつつある。

 しかし、まだ不安定な部分もあるので、ちょうど人とゴーストのあいの子みたいになってるのかもしれん。

 「―――ゴフッ? ゴファアア!!」

 攻撃がすり抜けたことにムカついたのか、鼻息を荒くしてこん棒をブンブン振り下ろすアイスオーク。


 「上だけゴーストです!」
 「左だけゴーストです!」

 好きな部分を半分だけゴースト化して、巧みにオークの攻撃をかわすリタ。

 すげぇな……どんな戦い方なんだよ。

 おっと見とれている場合じゃない。
 俺がポーチから取り出した黒いポーション。

 これは【戦闘ポーション(瞬間身体能力アップ)(インスタントパワーブースト)】だ。

 だが瓶のフタはあけない。

 なぜなら、このポーションだけではアイスオークには勝てないからだ。

 「む、これじゃない……これでもない」

 俺は再びポーチの中に手を突っ込み、お目当てのポーションを探す。
 女神からもらったチートポーチは超便利で大容量なのだが、沢山入るがゆえに目的物を探すのに時間を食う。あまり使用しないポーションだと、なおさら時間がかかる。まさに未来のネ〇型ロボットさんみたいなことになるのだ。


 「―――ゴフゥウ!!」


 オークのこん棒が左右に振り払われるたびにあたりの木々が薙ぎ倒され、地面が凍結していく。
 重い一撃とともに砂埃が舞い上がり、次の瞬間にはまた新たな攻撃が迫る。

 「ふぅふぅ……です」

 リタの息が上がってきてた。

 さらに地面の凍結範囲が広がっている。

 アイスオークの氷打撃も厄介なのだが、長期戦になるともっとやっかいなのがこの凍結範囲の拡大だ。放っておくと、どんどんこちらの稼働範囲が狭まくなる。
 ちなみにアイスオークは全身に微弱な冷気を纏っており、氷の上でも自在に動ける。戦いが長引けば長引くほど、やつに有利になるってことだ。

 「うわっ―――です!」

 凍結した地面に足をすくわれて、体勢を崩してしまうリタ。
 それを見たアイスオークはすかさず巨大なこん棒を振り上げる。

 マズい! 

 俺が飛びだそうとした時―――


 「させるかぁ――――!!」


 後方から飛んできた甲冑が、アイスオークの側面にズシンとぶち当たる。
 エトラシアが捨て身の体当たりをかましたのだ。

 凍結した地面を滑りながらもここまで来たのか……

 「ブブモォオオオ!!」

 痛がるアイスオーク。リタから遠ざけようとしがみついていたエトラシアは、振りほどかれて吹っ飛ばされた。

 「く、クレイ殿……時間稼ぎにもならなかった……」

 「いいや、よく頑張った。アイスオークに打撃を与えるなんて並の奴にはできん。さすが騎士だな」

 「ほ、本当か……」

 「リタ、待たせたな! もう下がってくれ。あとは俺に任せろ!」
 「は、はいです……ご主人様」

 2人とも良く頑張った。

 そうして、ようやく見つけたぞ。

 「【ポーション(温暖保持)(ヒートストーブ)】!」

 これは身体を芯から温めてくれるポーションで、カイロみたいなもんだ。

 よし―――

 俺は2本のポーションを左右に持ち、スキルを発動する。


 「―――【ポーション合成】!
 【戦闘ポーション(瞬間身体能力アップ)(インスタントパワーブースト)】×【ポーション(温暖保持)(ヒートストーブ)】!」


 2つの小瓶が光の中で融合する。


 「合成完了―――【戦闘ポーション(戦闘火属性付与)(バトルファイアーオアシス)】!!」


 燃えるような輝きを放つポーション。

 俺は真っ赤なポーションを一気に飲み干した。

 さて、アイスオーク。


 おまえのターンはここで終りだ。