「ぽーしょん、どうすっかぁぁ」

 「あの……クレイさん?」

 俺とラーナは買い出しのため、フロンド唯一の商店街へ出てきていた。
 まあ、商店街と言ってもかなりさびれているが。

 そして今俺が何をしているのかというと。ラーナの提案で、即席の路上ポーション販売をやっているのだ。
 ちなみに領主代理のマットイさんに事前確認したところ、「クレイ殿下のポーション!? いくらでも売ってくださいですぞ」とのことだった。

 「ぽ~しょん、ぽーしょん」
 「ちょっと、クレイさん?」

 「おいしぃよぉ」

 「―――クレイさん、売る気あります?」

 「え? あるけど?」

 「まさかの回答ですね!?」

 ラーナがウソでしょ? みたいに顔を引きつらせている。
 そんなに驚くことなのか。

 「どうしたんだ? ラーナ」
 「どうしたもこうしたもないですよ。ポーション作っている時はあんなに饒舌で嬉々としてるじゃないですかぁ!」

 え、そうかな?

 だって前世の俺の営業成績は正直言って普通だし、王子となったこの世界では商売どころか働いたこともないしな。
 だから俺としてはかなり頑張ってるんだよ。

 なによりも……もうはやく次のポーション作りたくてたまらないんだよな。

 「なあ、ラーナ。今日はここらで帰ろうぜ。そこそこ成果もでたことだし」

 うん、そうだな。こんだけ営業したんだから今日はじゅうぶんだろ。

 「クレイさんって成果の意味知ってます!?」

 どうやらこれではダメらしい。聖女きびしいな。
 仕方ないので、もう少し頑張ってみる。

 「クレイさん、もっと笑顔でやらないとですよ」
 「ああ……こうだな」

 「もう、そんな死んだ魚みたいな顔じゃなくて……こうですよ〜」

 にっこり笑顔のラーナ。

 ほう……

 無邪気に微笑む彼女の顔は、子犬がしっぽを振りながらじゃれてくるような愛らしさがある。そんな笑顔を見ると、なんだかこっちもいい気分になる。

 「ラーナの笑顔はいいな」
 「え? ほんとですか?」
 「ああ、他者に安心感を与える感じだ」

 「も、もう。クレイさんたら……おだててもなにもでませんよ」

 いや、普通にそう思っただけなんだが。
 だが俺の言葉に気を良くしたのか、ラーナは腕まくりをして「よ~し」と気合を入れた。

 「さあさあ~みなさ~ん! 瘴気に効き目バツグンの回復ポーションで~す! 本日は開店特価です~この機に買わないと損しちゃいますよ~~」

 閑散としていた商店通りだが、数人の人が寄って来た。

 凄いなこの子。
 ラーナは元より超絶美少女ではあるが、それだけで寄って来たのではないな。

 まあ普通に考えて新参者が道端で売っているものなど、警戒される以外のなにものでもない。
 それでも人を集めることが出来るのは、普通にすごいことだ。

 やはりラーナの長所はこれだな。

 「お嬢ちゃんや……このポーション、瘴気に効くって本当かい?」
 「はい、クレイさんが作ったんですから当然ですよ~~おばあちゃん!」
 「ばあさん騙されんな。そんなポーション聞いたこともねぇぞ。それにみたこともない顔だぜ、こいつら」
 「だ、騙してなんかいません! 聖女に誓って!」

 「聖女? あんたが?」
 「あっ! えと……その……」

 「ほらみろ、やっぱり怪しいぜこいつら」

 とっさに聖女の名を出してしまったことに気付き、口をつぐむラーナ。
 うっかりではあるが、俺のポーションの為に必死に食い下がってくれたのは素直に嬉しい。

 俺がその男とラーナの間に入ろうとすると……
 服の袖をクイクイとなにかが引っ張る。

 「おにいちゃん。そのぽーしょんは妹をなおしてくれるの? コホっ」

 一人の女の子がさらにちいさな子の手を引いて、俺の袖をギュッと握っていた。

 「ああ、もちろんだ」

 「コホコホなくなるの?」

 「ああ、しんどいのはなくなるぞ」

 「おかね……これでたりる?」

 女の子の手には2枚の銅貨がのっていた。

 「おいおい、なにそんな奴に金払ってんだ! おまえ、小さい子を騙すんじゃねぇ!」

 先程からラーナに絡んでいるやつが、横から口を入れてきた。

 「騙してなどいない。俺は……とくにポーションに関してはウソは言わん」

 俺は腰を下ろしてその子と目線を合わせた。


 「――――――買うかどうかは自分で決めるんだ」


 「…………ん。かう!」

 「そうか。わかった」

 横やりを入れた男はまだなにか怒鳴っていたが、俺は無視してポーションを手に取った。

 「おにいちゃんとおねえちゃんからは、いやなかんじしないもん」

 「ケッ勝手にしやがれ。俺はしらねぇぞ」

 この男の気持ちもわからんでもないが、俺のポーションにガセはない。

 「ほら、ポーション2本だ。受け取れ」
 「え? 2本も、コホっ……」
 「おまえだって辛いんだろ? 飲んでみろ」
 「う、うん、ありがとうおにいちゃん! あと、オマエじゃなくてケイナだからね」

 「そうか、ケイナ。さ、飲んでみろ」

 「あとこの子はライナだよ」

 ケイナに手を引かれた妹のライナが、ペコリと小さな頭をさげた。

 「そうか、ライナ。さ、飲んでみろ」

 「おにいちゃんのおなまえは?」
 「んん? クレイだ。さ、飲んでみろ」


 「ちょっと、クレイさんせかしすぎですよ。さっきから「飲め」しか言ってないじゃないですか」

 「え? ラーナなに言ってんだ? ポーション渡したら飲むしかないだろ?」

 「ごめんね、ケイナちゃんライナちゃん。このお兄ちゃんイケメンのくせに、ポーション作るか飲ませるかにしか興味ないんだ。だから怖がらないでね」

 「うん、大丈夫だよ。イケメンだから、たしょうのけっかんはオッケーだよ」

 「ですってクレイさん、褒められてますよ。良かったですね」

 おい、これ褒められてんのか?

 っていうか、そんな話はどうでもいい!
 もったいぶらずに早く飲んでくれ。

 「じゃあのむね」

 ケイナとライナがポーションをクピクピと飲む。

 「ふふ、かわいい……クピクピって」
 「おお、接種したか……被験者2名ゲットだぜ」
 「クレイさん、かわいいの感性どこかに置いてきましたか?」

 ラーナが白い目で見てくるが、そんなことより―――

 どうだ?

 この2人は町の住人だ。
 ラーナよりも長期間瘴気にさらされている。

 「ふぁ……コホコホがでなくなった……」
 「おねぇたん、なんかす~っとなってきもちい」

 おお、効果は上々のようだ。

 2人とも笑顔で俺に飛びついてきた。

 「「クレイおにいちゃん、ありがとう!」」

 「ハハッ、良かったな」

 「信じられねぇ……だがあんたの言ってたことは本当のようだな……」

 「ふふ~ん。どうですか。クレイさんは凄いんですから!」

 さっきの男が感心している横で、ラーナがブルンと胸を揺らしてドヤ顔をする。

 さらに隣で見ていたばあさんもポーションを購入して飲んだ。
 こちらも効果はありだった。

 ふむふむ、子供と老人への効果はありと。あとは効果がどれぐらいまで持つかだな。
 あわせて完全治癒までの期間もデータとしてとっておきたい。

 あとは成人、できれば活きのいい奴のデータも欲しい。
 予防効果と耐性を得ることができるかの検証もしてみたいな。

 などと色々考えていたら、ケイナとライナが両手をブンブンふって元気に帰って行った。


 さて、そろそろ俺たちも行くかな。
 表にだしたポーションを片付けていたら―――


 「おらぁ! なにたむろしてんだよぉお!」


 ガラの悪い声が飛んできた。数人の若い男たちが俺たちの前に現れる。
 中央にいる男が、ギッと威嚇するような目つきで俺たちを睨んできた。

 「ひぃ……く、クレイさん。なんか怖い人たちきましたよぉ~~」
 「ああ、ラーナ」

 きたぁ……

 「おいおい、このバッドさまに断りもなくなに商売やってんだ?ああ?」

 「え、えと。あの……その。クレイさん」
 「ああ、ラーナ」

 しかも複数きたぁ……


 ――――――生きのいい被験者きたぁああ!! 

 ――――――ワクワク!!