「これでどうだリタ!」
〖ゴクゴク……〗

「次はこれだ!」
〖ゴクゴクゴク……〗

「よし、もういっちょう!」
〖ゴキュゴキュゴキュ……むぐっ〗


「ちょっと、クレイさん飲ませすぎですよ! リタちゃんおなかタプタプですぅう!」


「何言ってるんだラーナ。リタは夢を叶えるために頑張っているんだ! 新しいポーションに失敗はつきものなんだ! ちゃんと結果のメモを取っているし、飲めば飲むほど今後のポーション作りに大きく役立つんだ! リタがたくさん飲むことで夢は叶うんだよ! 
 ―――ってことで今度はこれいってみようか~~!」

「え、ええぇえ? なんかいい風な感じで言ってますけど、セリフ後半はクレイさんの私欲が混じっているような気がすごくするんですけど」

〖あたしは大丈夫です。どんどんいくです!〗
「リタちゃん……」

うむ、その心意気や良し!

ならば、俺も最高のポーションでこたえるまでだ!


「今まで作成したポーションの中で、わずかでも物質化作用があったものをまとめる!

 ――――――【ポーション合成】!
ポーション(物質強化)(マテリアルアップグレード)】×【ポーション(物質強化)(マテリアルアップグレード)】×【ポーション(物質強化)(マテリアルアップグレード)】!」

複数の小瓶が光の中で融合する。

「合成完了―――【ポーション(新物質強化)(ネオマテリアルアップグレード)】!」


ポーション合成は複数効果をもたせることができるが、それとは別にポーションの掛け合わせで同種の進化したポーションが誕生することもある。
素材から生成するのも面白いが、ポーション同士の掛け合わせも無限の可能性があるってことで、これまた俺がハマってしまった要因のひとつなのだ。

「ふあぁ~~なんか今までのポーションとは違う色ですね」

「ああ、今までのポーションの集大成だ。リタ、飲んでみてくれ」

俺はリタの口にポーションを含ませる。

〖ごくごく……〗

さあ、どうだ?

んん?

俺のポーションを持つ手に少し重みを感じる。


〖わっ、こ、これ……〗


そう、リタはポーションを持つ俺の腕にその小さな手を乗せたのだ。

「おお!」

〖う、ウソ……さ、さわれる……です……〗

俺はリタの頭を撫でてみた。

「うむ、こちらからも干渉できる。身体全体の物質化も問題ないようだ」

〖あ、あの……あの……その……〗

「良かったな、リタ。これで風呂をなおせる――――――うおっ!?」

リタが飛びついてきた。
俺の胸に顔をグリグリさせながら、ガン泣きしてるではないか。

そりゃ嬉しいか。

「えへへへ~~良かったですね~リタちゃん」
「いやはや、やはりクレイ殿下はとんでもないお方ですなぁ」

ひとしきり泣き尽したのか、リタが俺から離れてそのエメラルドのような綺麗な緑色の瞳をこちらに向けてきた。

ゴーストではあるんだが透けていた体が物質化したことで、よりその容姿がくっきりと分かるようになった。

小柄な彼女は、140センチにも満たない背丈で顔立ちは幼く、髪は寝癖のように無造作に跳ねており、無邪気な愛嬌を感じさせる。
体つきは控えめだが、それが彼女の純朴さを際立たせていた。

聖女らしからぬドデカイ膨らみを持つ、ラーナと比べてはいけない。

そしてフリフリのメイド服が、ロリっ子さをこれでもかというほど強調する。

そんな、ゴーストのドワーフ美少女がペコリと頭を下げる。


〖あ、ありがとうです!〗


「まあ、俺が好きでやったことだからな。それよりも―――これ、やるんだろ?」

床に落ちていたハンマーを拾い、リタに手渡す。

〖はいです! やるです!!〗

満面の笑みで、道具を両手に掴みお風呂に走って行く少女。

「んふふ~~」

そんなやり取りの後、俺の背後から修道服を着た少女が近づいてきた。

「どうしたんだ、ラーナ。ニタニタして」
「やっぱりクレイさんは優しいなと」

「優しいだと?」

「そうですよ~~もしかして自覚なしですか~?」

そうなのか?

「俺は自分の好きな事をしただけだけどな」
「またまた~~」

別にだれかれ構わず困っている奴を助ける趣味は無いんだよな。

俺がやりたいポーション作りをする。そしてそのポーションがリタの願いを叶えた。
だがそれは俺のポーション作成欲が駆り立てられたからだ。

それがなければ、俺は動かなかった。

と思っているんだが。

「まあ、好きな事ができないってのは辛いだろうからな。それを解消してやるポーションが作れるなんて、そりゃ燃えるだろ?」

「ふふ~~それを優しいって言うんですよ」

そんなものかねぇ。
分かったような、分からないような。

だが―――

いま、確実に分かっている事実がある。


「とりあえず、修道服が透けてるぞ。ラーナ」


「あああ~~忘れてたぁああああ!
 知ってて言わないとかクレイさん変態ですぅうう! やっぱり優しくないぃい!!」

だから初めから言ってるじゃないか。

俺は優しくないと。

顔を真っ赤にして、バスルームから出ていくラーナと入れ替わりでマットイさんが現れた。
手に持つ大量の鍵をじゃらじゃらさせて、俺に差し出してくる。

「いや~さすがクレイ殿下。これで悪霊問題は解決ですなぁ~~そして、この館はクレイ殿下のものですぞ」
「んん?この館は賃貸じゃないのか?」
「いえいえ、もとより私が臨時に所有していただけですぞ。クレイ殿下が領主となられたのですから、当然所有権は殿下にございますぞ」

「いや……俺は領主になるなんて一言もいってないんだが」

「は~はっはっ!まあ細かなことは良いではないですか。殿下はこのフロンドに腰を落ち着けられるのですから、館は必要ですぞ。それに他の物件は、ここに比べたらグレードがど~~んと落ちますぞ」

「落ちるってどのぐらい?」

「風呂無し、トイレ無し、の1Kですな」

ああ、風呂無しはキツイなぁ。トイレも欲しい。なんせ元王子だからそこら辺の感覚がませてるんだよなぁ。

「ふむふむ、やはりここしかないというお顔ですぞ」

なんかうまい事言いくるめられている気もするけど、さっさとポーション作りの環境は整えたいし。

「わかった、ではこの屋敷をもらおう。だが領主は嫌だぞ」

かなり我儘かもしれんが、嫌なものは嫌なのよ。

「は~はっはっ! もちろん日々の業務は私がやりますぞ。殿下は特殊案件に対応して頂ければそれで良いので」

一方的に言いたいことだけ言うと、マットイさんは去って行った。

まあ、たまのスポット業務ぐらいならいいか。



そして数時間後―――


「ふぁ~~ピカピカだぁああ! リタちゃんすごい!」

生まれ変わったかのような綺麗な浴槽。さらに脱衣所まわりも修繕されている。
すげぇな。こんな短期間でここまで変わるか? もしかしてこの子、とんでもない腕前なんじゃなかろうか。

「うむ、いい仕事をしたなリタ。楽しかったか?」
「はいです!」

お、いい顔だ。今日一でいい笑みだな。

浴槽どころか床も脱衣所もすべてが補修されたうえ、ピカピカに磨かれている。

まてよ?

すべてがピカピカだと?

「―――って! 風呂場に生えてたレア素材はどうしたんだ!!」

「え? キノコですか? 全部捨てましたです!」


「うわぁああぁあああ~~!!!」


俺は今日一の大声を放ちながら、ダッシュでゴミ箱に向かった。