鍼灸師辻友紀乃

 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 辻友紀乃・・・鍼灸師。柔道整復師。高校の茶道部後輩、幸田仙太郎を時々呼び出して『可愛がって』いる。
 菅谷保・・・辻鍼灸治療院の常連。

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 私の名前は辻友紀乃。
 辻は、所謂通り名。そして、旧姓。戸籍上は「大下」。
 旦那は「腹上死」した。嘘。
 本当は、がんだった。
 膵臓がん、って奴だ。
 私は、鍼灸師で柔道整復師だ。
 お馴染みさんは、これでも多い方だ。
 今日も、「お馴染みさん」の話。

 菅谷保の場合。1ヶ月に1度は

 「矯正」を行う。
 簡単に言うと、「体のゆがみ」を治し、元の状態に近づけることだ。
 「大丈夫です。」「大丈夫です。」「大丈夫です・・痛っ!!」」
 この「痛っ!!」のところの周りをほぐしていく。
 筋肉が部分的に萎縮しているのだ。
 体の「ゆがみ」は、本人は気づき難い。
 だが、家人も気づき難い。新婚さんで、毎日入浴や寝起きを共にしていれば、気づく場合もある。残念ながら、菅谷は独身だ。
 不思議なことに、所帯持ちで通院するのは、女性の場合が多く、男性の場合は滅多にない。
 恐らく「肩こりも整形外科で湿布貰えば済む」と思い込んでいるのだろう。
 以前、妻は自分の為に高級化粧品を買っても、夫にひげそり機すら買わず「T字カミソリ」を買う、と聞いたことがある。
 私は、亡くなった主人に、そんなつれないことはしなかった・・・と思う。忘れただけか?

 それにしても、憎っくき整形外科医どもは、矯正を「骨を折ってしまいがちな危険な治療」と決めつけている。
 実際は、筋肉に萎縮があるから、骨折しやすくなるのだ。マッサージ師とは違う、筋肉のほぐし方をしているに過ぎない。
 十津川先生のように、理解ある人もいるが、「砂浜に落ちた米粒を拾う」位の確率だ。
 鍼灸と違い、健康保険は効かない。だが、患者はそれでも救いを求めてくる。
 痛いのだ、つらいのだ。
 慎重に施術して30分。
 置き針を10分。
 矯正の日の針は、サービスだ。
 個人事業主の勝手な判断だ。
 針を抜き、立たせると、見違えるように直立だ。
 こいつの場合、股間にテントを張るから分かりやすい。
 「元気になったか?」「はい。先生のおかげです。」
 「べんちゃら言わなくていい。連休明けまで寒いらしい。カイロ、切れてへんか?買いだめしときや。3月に入ったら、寒くても「季節用品替え」で、ホームセンターも薬局も極端に減るからな。ネット通販も殺到して売り切れよる。季節内で余ったら、来年使ったらええねん。買いだめしとき。」
 「先生。」
 「惚れるなよ。高うつくさかいな。」
 「はい。」
 「予約お願いします。」
 精算時に予約させる。
 菅谷が帰ると、早めの昼休憩をした。
 ハムサンド、最高やな。
 ―完―