鍼灸師辻友紀乃

 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 辻友紀乃・・・鍼灸師。柔道整復師。高校の茶道部後輩、幸田仙太郎を時々呼び出して『可愛がって』いる。
 茶側伊智郎・・・辻鍼灸治療院の常連。
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 私の名前は辻友紀乃。
 辻は、所謂通り名。そして、旧姓。戸籍上は「大下」。
 旦那は「腹上死」した。嘘。
 本当は、がんだった。
 膵臓がん、って奴だ。
 私は、鍼灸師で柔道整復師だ。
 お馴染みさんは、これでも多い方だ。
 今日も、「お馴染みさん」の話。

 私の後輩、茶側伊智郎。高校の茶道部の後輩だ。
 私が卒業後、後輩の幸田は懸命に部員集めをした。
 だが、新1年性の茶側が、ある事件で幸田の顔を潰し、廃部に追い込まれた。
 口に出すのもおぞましいから、言わない。
 ある日、幸田は、茶側を連れてきた。今は区役所の職員をしているという茶側は、昔の面影が微塵もなかった。
 茶側は、巨漢だったから。当時のことは置いといて、30年以上経つと、こんなに変わるのか?と思った。
 茶側は、着膨れしているが、上着を脱いで行くと、足首サポーター、ふくらはぎサポーター、膝サポーター、太ももサポーター、腰サポーターがあらわになり、順に脱いで行く。
 そして、タイツ、パッチ。パッチとは股引のことだ。
 そして、パンイチになる。
 色々と治療を試したが、「お灸」が一番いいみたいだ。
 「天に昇る気持ち」と、うっとりしている。
 「お灸を据える」とは本来「灸で治療する行為」を指し、「きつく注意したり罰を加えたりしてこらしめる」という意味で使われて来た。
 誤解を招くことから、鍼灸師の団体からの申し入れをふまえ、本来の意味以外では使われなくなった筈だが、マスコミはアホな記者が多いから、未だに使っている。
 法律違反では無いが、ルール違反、マナー違反である。
 そんな誤用の為に「怖いことされる」という固定観念が生まれ、未だに「営業妨害」をしている。
 ウィキペディアに載っていたとしても、「慣用句」でも「諺」でもない。
 お灸は熱い=懲らしめる(罰を与える)は、あまりも短絡的な連想ゲームだ。
 茶側は、十津川先生によると、「脊柱管狭窄症」以外に、左膝の軟骨が、すり減って、もうあまりない。
 心筋梗塞も脳梗塞も経験している。十津川先生のカンでは、内臓もどこかやられている。
 物思いしている間に、もぐさが燃え尽きた。
 「起き上がりヘルパー」で起き上がって、着替えながら、茶側は言った。
 「先輩。今年度末で役所を辞めることになりました。」
 多分、体裁良くリストラされたのだろう。
 幸田曰く、「運の無い奴」だから。
 「今度から、月一でなくて、好きな時に来い。ただし、予約はせえよ。個人事業主やさかい、留守の時もあるし。」
 「はい。」
 茶側が帰った後、私は幸田に電話した。
 「幸田、私や。茶側のことやけどな。」
 ―完―