======== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 辻友紀乃・・・鍼灸師。柔道整復師。高校の茶道部後輩、幸田仙太郎を時々呼び出して『可愛がって』いる。
 絹田小五郎・・・辻鍼灸治療院の常連。
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 私の名前は辻友紀乃。
 辻は、所謂通り名。そして、旧姓。戸籍上は「大下」。
 旦那は「腹上死」した。嘘。
 本当は、がんだった。
 膵臓がん、って奴だ。
 私は、鍼灸師で柔道整復師だ。
 お馴染みさんは、これでも多い方だ。
 今日は、「お馴染みさん」の話。
 「絹田さん、終ったで。」
 私は、『起き上がりヘルパー』を絹田の前に置いた。
 前にインターネットで購入したものだ。
 今は、インターネットで色々買える。
 患者は、人によっては、ベッドより布団がいい、という人もいる。
 ここは、病院や診療所ではない。色々と患者に会わせる。
 ベッドに寝ると痛いと言う場合、布団を敷く。
 基本的に『風俗マッサージ』ではない。密室には違い無いが、暗黙のルールも公然のルールもある。
 絹田は、服を脱ぐ前に、同意書を荒田内科で貰って来て提出した。
 面倒なシステムだが、鍼灸の治療を保険医療で受診させるには、内科ほかの医師の「指導の下」治療していることになっている。
 外科・整形外科は「東洋医学」を真っ向から否定しているから、同意書は取れない。
 まあ、平たく言えば、外科・整形外科は「リハビリ」治療も出来る診療科目だから。詰まりは儲からないから、鍼灸院と組まない。
 患者は、保険医療の為に、一時出費など構う者はいない。
 ウルサイのは、患者の家族で、「東洋医学」否定派だ。大体、内科医に洗脳されている。
 リハビリが厚労省指導で始まる前は「首つり」なるものが外科・整形外科で使われていた。
 ウチに来る患者で、経験者が話した。「物体ちゃいますやん、ロボットちゃいますやん、人間の体は。クレーンで釣り上げるみたいなことして、骨がまっすぐなる訳ない。」と憤慨していた。鍼灸マッサージでもスポーツマッサージでも理学療法士マッサージでも、無理な伸張は禁じられている。骨や骨の周りの『神経』を傷つけるからである。
 外科等のリハビリは、医療事故の犠牲者があった後で始まったのである。
 医療事故があると、厚労省は過剰反応する。
 背中に乗ってツボを押す治療が中止になったのも、心臓近くに針が打てなくなったのも『無免許』の者が『見よう見まね』で行った、間違った治療なのに。
 柔道整復師がなかなか保険医療できないのも『偏見』の影響だ。
 アスリートで鍼灸治療を受け肯定する人が多いのに、『体制への忖度』で、マスコミはスルーしたり否定したりする。
 基本的に、体は『自分で』治すもの。医療者や準医療者は、その手助けをしているに過ぎない。
 絹田の着替えは終った。
 「その後、どうや。」「もう誰も何も言いません。言わせません。先生のおかげです。」
 絹田も、身内と色々あったのだ。
 私は、来月の絹田の予定を聞き、予約をカレンダーに書いた。
 メモ帳にも書くが、カレンダーに書くと、患者は納得する。
 コミュニケーションは大事や。

 絹田が帰った後、ふと思いついて冷蔵庫を開ける。納豆の期限が今日や。
 今夜、食べよう。カン。鍼灸師の必須条件や。

 ―完―