鍼灸師辻友紀乃

 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 辻友紀乃・・・鍼灸師。柔道整復師。高校の茶道部後輩、幸田仙太郎を時々呼び出して『可愛がって』いる。
 茶側伊智郎・・・辻鍼灸治療院の常連。
 幸田仙太郎・・・辻の茶道部後輩。南部興信所所員。辻先輩には頭が上がらない。

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 私の名前は辻友紀乃。
 辻は、所謂通り名。そして、旧姓。戸籍上は「大下」。
 旦那は「腹上死」した。嘘。
 本当は、がんだった。
 膵臓がん、って奴だ。
 私は、鍼灸師で柔道整復師だ。
 お馴染みさんは、これでも多い方だ。
 今日も、「お馴染みさん」の話。

 私の後輩、茶側伊智郎。高校の茶道部の後輩だ。
 私が卒業後、後輩の幸田は懸命に部員集めをした。
 だが、新1年性の茶側が、ある事件で幸田の顔を潰し、廃部に追い込まれた。
 口に出すのもおぞましいから、言わない。
 「そうか。再就職出来て良かったな。」
 施術を終え、服を着た茶側に私は言った。
 そして、「少ないけど、とっとき。」と全国共通商品券をやった。
 「すみません、先輩。」「で、どんな仕事?」
 「保険の紹介する事務所です。特定の保険会社の保険を勧めるんやなくて、各保険会社の種類特徴を紹介するんです。」
 「そんなんで、儲かるんか?」「どこかの保険会社の保険契約が成立すると、その利益の一部が還元されるんです。詐欺やないですよ。まあ、しゃべりの付いた広告です。」
 「上手いこと言うな。あんたは人当たりがええから、見込まれたか。」
 「はい。先輩のご存じの通り、僕は色んな病気持ちですから、その苦労話から入るんです。給料は、役所と違って歩合ですけど、今のところイジメはありません。」
 「そうか。幸田も心配しとったわ。名前で損してるとこもあったし、って。」
 「はい。あの頃も、茶側やったら、茶道部以外ないやろ』とか言われたりしていました。」
 「まあ、ゆっくり治療していこう。な!」
 「はい。」
 その後。彼と再会したのは遺影だった。
 お通夜の帰り、幸田に送って貰った。
 「何があったんや、幸田。」「どの業界も、1番手が得をして2番手以降は競争、過当競争になると、倒産か合併。茶側はまたリストラされました。でも、退職金はちゃんと貰ったし、イジメじゃなくて交通事故で亡くなったのは、不幸中の・・・やっぱり不幸か。被疑者は、犯人は無免許の那珂国人です。やっぱり、ついてない奴やった。俺は、明日の告別式もでますわ。」
 「そうしてくれ。」
 私のハンカチはぐしょぐしょになった。
 ―完―