======== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 辻友紀乃・・・鍼灸師。柔道整復師。高校の茶道部後輩、幸田仙太郎を時々呼び出して『可愛がって』いる。
 当麻優雅・・・辻鍼灸治療院の常連。
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 私の名前は辻友紀乃。
 辻は、所謂通り名。そして、旧姓。戸籍上は「大下」。
 旦那は「腹上死」した。嘘。
 本当は、がんだった。
 膵臓がん、って奴だ。
 私は、鍼灸師で柔道整復師だ。
 お馴染みさんは、これでも多い方だ。
 今日も、「お馴染みさん」の話。

 当麻優雅の場合も1ヶ月に1度は「矯正」を行うが、問題は、身内・親族。
 治療にケチはつけないが、自転車にケチをつける。
 遠回しの攻撃だ。
 自宅から、ここまで約5キロ。
 それで、自宅から300メートルくらいの病院を勧める。
 その病院には、確かに整形外科もリハビリ科もある。
 だが、当麻が通っている、4キロ先の診療所や、私のところ程の治療は出来ない。
 それに、「歩行移動(ウォーキングを含む)」と「自転車移動」は違う。
 タクシー移動は、とんでもないと怒るくせに、電動アシスト自転車は反対らしい。
 タクシー移動禁止は理解出来るが(料金高いから)、何故自転車移動はダメなのか。
 「健康には歩くのが一番」は、健康な人の場合で、「病気にならない為の予防」である。
 30分歩けとか何キロ歩けとかは、マナー講師のマナーと同じ。後付けの理屈。
 当麻は、病気なのだ。例え地理的に近くても、自転車移動は必須。
 「脊柱管狭窄症」や「座骨神経痛」は、当人以外は分かり辛い(義足していないし)。
 歩行移動すると、腰や膝に負担がかかるのだ。上下に動いて重心が動くから。
 私は、当麻が服を着ている間に、十津川先生の医院に電話した。
 事情を説明すると、「ああ、成程ね。鍼灸の推奨は出来ないが、体重移動の話なら出来るよ。水曜日以外なら、診察時間外でも構わない。スタッフに伝えておく。それと、通院している外科には、事情を話して、当院に通院して貰おう。患者さんの名前は?」
 私が当麻の名前を告げると、「了解。」と言って、先生は電話を切った。
 十津川先生は、開業した時が、ほぼ同時だった為か親しくしてくれる。
 だが、鍼灸は大っぴらには認められない。整形外科の組合が煩いからだ。
 先生は、整形外科医だが、東洋医学には理解がある。
 「私的な、持ちつ持たれつ」は存在する。
 体が重く感じるから、ふと見ると、当麻が私に抱きつき、涙を流している。
 「押し倒しても、その気にならへんで。」
 わざと、そう言ってやる。
 帰り際。私の名刺を渡し、水曜日以外に訪れるように示唆した。
 水曜日は、十津川先生の医院の定休日だ。

 「ありがとうございます。」米つきバッタは帰って行った。
 次の患者は、私に両手を合せた。
 「先生は神様です。」「アホ。私は鍼灸師や。」
 ―完―