鍼灸師辻友紀乃

 私の名前は辻友紀乃。
 辻は、所謂通り名。そして、旧姓。戸籍上は「大下」。
 旦那は「腹上死」した。嘘。
 本当は、がんだった。
 膵臓がん、って奴だ。
 私は、鍼灸師で柔道整復師だ。
 日本の医学界は、まだまだ「お堅い」。
 医師によって、特に整形外科医だが、「東洋医学」自体を認めない。
 必然、保険医療として処置をする場合、内科医もしくは理解ある医師の「指導」の下(もと)施術する。
 鍼灸医は、立派な医療行為だが、マッサージ師と混同されている面もある。
 「同意書」という「建前」の「協力体制」で、患者には「同意書」を書いて貰える医師を紹介する。詰まり、「建前」では「医療助手」なのだ。
 外科、整形外科の医師は、学会の「お堅い」方針に従って、鍼灸師を敬遠することが多いので辟易する。
 患者にただ、「同意書」必要と言うと、大半は外科や整形外科に行って、断られてくる。
 だから、「内科の主治医」がない場合は、紹介することもある。
 外科では、今は、リハビリ科を置いたりしているが、昔は「猫背矯正」に「鞭打ち症用つり革」で引っ張ったりしていた。明らかに「筋」を痛める行為で、医療行為とは呼べないものだった。アホである。
 東洋医学を毛嫌いするが、外国のマラソンランナーやアスリートが鍼灸を利用していることは無視され続けている。有効な治療法は「湿布処方」だけだ。
 私の、「茶道部」後輩の幸田も患者の1人だが、「建前」や「お追従」ではなく、賛成してくれている。
 実際に体験したこともなく、批判しているのだから、非科学的でしかない。
 実際に治療した患者の調査もしていない。
 人間の体は、「微妙」であり、「繊細」だ。痛みの原因は、「痛いと感じる部位」ではなく、他の部位の関連で炎症を起こしたり痛みを感じたりするものなのだ。
 とにかく、彼らの「偏見」は半端ではない。
 今日も、「同意書」を書いて貰った患者がやって来た。
 「先生。これでいいんですか?何か変なシステムですね。」
 竹輪という名の患者は言った。
 「ええ。医師会がアホばかりなのと、世間で偏見持ちの人がいるせいでね。もう半世紀以上停滞している。東洋医学も漢方も、患者の方が心得ている。で、今日は腰?膝?」
 「両方です。」
 「了解した。」
 1時間後。竹輪は満足して帰って行った。
 1ヶ月に一度は柔道整復師として、「矯正」を施術する。
 こちらは、「保険が効かない」治療だ。
 実費である。
 それでも、私は治療を、施術をする。
 使命だから。
 ―完―