【映像:旧道の入口。街灯はなく、スマホライトと小型LEDのみ。二人がフレームに入る。背後に道の切れ目、その先に鉄骨だけが伸びる廃橋。】
コウ「……ここが旧道です。舗装が途中で終わっていて、その先は補修されず放置。橋は……見ての通り、半分まで作った状態で放置されてます」
アキ「近づくだけで足がすくむんだけど……マジで行くの?」
コウ「とりあえず手前まで。安全確認して、橋を撮るだけ。行けるところまでね」
【コメント:やば/画面暗すぎる/足元見える?】
コウ「大丈夫です。法的にも安全面でもラインは守ります。向こう側には行きません」
アキ「(遮って)いや、その向こう側って言い方やめて? 縁起でもないから」
コウ「……じゃあ行くよ」
【二人はゆっくりと歩く。砂利を踏む乾いた音。スマホライトに浮かぶ舗装されてない道。誰かの忘れ物だろうか? 黒いリュックが落ちている】
アキ「あのさ、足元、斜めってるよ。滑る、滑るって」
コウ「気をつけて。ゆっくりでいい。コメント、見えてる?」
アキ「見えてるよ。やめとけ、が9割。……俺も今すぐにやめたいよーー(泣きそうな顔)」
コウ「(笑いを作るが表情は強ばっている)みんなの代わりに見てくる、っていうのが僕らの役割だから」
【映像:二人の前方に、コンクリート造りの橋の入口。錆び付いた金属の支柱に、色褪せた「立入禁止」のプレートがぶら下がっている。赤い字は掠れ、半分ほどが剥げ落ちて判読できない。】
アキ「立入禁止って……思いっきり書いてあるじゃん」
コウ「安全上の理由でしょうね。橋は老朽化が進んでるし、渡るのはかなり危険です」
【映像:二人の足元。進路を塞ぐようにチェーンが渡されているが、中央部分が不自然に切れている。切断面は錆びで黒く変色しており、古くから断たれていたようにも見える。】
アキ「……おい、これ。チェーン、切れてるよな?」
コウ「……確かに。工具か、何か鋭利なもので切られたように見えますね」
アキ「いや、待てよ。こんなの人が勝手に入ったってことだろ? 誰かここに……」
【映像:カメラが揺れ、湖面の方へ。黒い水面に小さな波紋が広がるようにも見えるが、光が届かず判然としない。】
コウ「……あるいは、ここに出入りしている何かがやったのかも」
アキ「そういう言い方やめろって!」
【コメント︰チェーン切られてるとか怖すぎ/人為的? それとも……/いや普通に地元の不良とかじゃ?]
【映像:二人は息を呑み、ゆっくりとチェーンを跨いで橋の入口へと足を踏み入れる。靴音が乾いたコンクリートに反響し、わずかな残響を残して消える。ライトが足元を映す。コンクリートの舗装に、点々と濡れた跡が並んでいる。くっきりとした人の足跡の形。裸足に近い】
アキ「……おい、コウ。これ、見ろよ」
コウ「……足跡ですね。水に濡れた素足の跡。おかしいな、今日は雨は降っていないのに」
アキ「しかも、奥に向かってる……。これ、絶対に誰か渡ってるって」
コウ「もし誰かが、渡ったのなら……戻ってきてない」
【映像:カメラが足跡を追って進む。コンクリート部分はやがて途切れ、先は鉄骨がむき出しに。黒い湖の上に格子のように伸びている。ライトが当たると、鉄が濡れて鈍く光る。】
アキ「……先、鉄骨だけだぞ。足跡、どうなってんだ」
コウ「……こっち見てください。コンクリートの端から、鉄骨の上に続いている」
アキ「嘘だろ……どうやって歩いたんだよ。こんなとこ、普通無理だろ」
【映像:鉄骨の上に、濡れた足跡が数歩だけ続いている。しかし途中で途切れ、先は黒い闇に飲み込まれている。】
アキ「……途中で消えてる。いや、落ちた……?」
コウ「……消えたんです。そうとしか言えません。戻ってきた足跡がないんだから」
【コメント:足跡やばすぎる/途中で消えるとか絶対人じゃない/仕込み乙です/冷静に説明してるコウが逆に怖い]
【映像:二人は足元を映しながら立ち尽くす。湿った風が吹き抜ける。マイクに拾われるのは二人の呼吸音だけ。】
アキ「なあ……渡るとか言うなよ? 本気で」
コウ「……僕らのスタイルはちゃんと調べること。だから、少しだけ行きます」
アキ「お前、正気かよ。こんなの渡ったら……」
【映像:コウが一歩、鉄骨の上に足を乗せる。金属がわずかに軋む音。視聴者のコメントが一気に荒れる。】
【コメント:やめろって!危ない!/絶対にやめろって!/足場崩れるぞ!/事前に安全は確認済みだろwww/やばいやばいやばい]
コウ「……大丈夫です。踏み込めるかどうか、確認するだけだから」
アキ「おい、マジで無理すんなって……!」
【映像:鉄骨に置かれたコウの足。次の瞬間、ノイズが走る。カメラが勝手にピントを外し、画面がぶれる。その間に、鉄骨の先の闇の中に、濡れた子供のような白い影が一瞬立ち現れる。】
アキ「……いる!あそこ……子供立ってるって!」
コウ「……映りましたか? 橋の先に立つ影の証言があるんですが、事実みたいですね」
アキ「お前冷静ぶってるけど……震えてんぞ!」
【映像:影はすぐに消える。残るのは鉄骨だけ。カメラの明かりが揺れ、二人の呼吸が荒くなる。※ここで配信の画面はフリーズした模様。コメント欄には、なにか映った? と、コメントが溢れる】
アキ「……もう帰ろう。マジでやばい。これ以上は絶対やばい」
コウ「……まだ声を確認してないから」
アキ「お前、なんか変だぞ?」
【映像:沈黙。二人が息を整えた瞬間、マイクに小さな声が入り込む。】
『……おいで』
【映像:二人が同時に振り返る。背後には誰もいない。】
アキ「さすがに……今の聞こえたろ!? 子供だって!」
コウ「……うん、撮れた。これが橋の声の現象……」
【映像:生配信では、ここでコメントの流れが突然途絶える。通信が不安定になったサインが表示される。配信終了の画面。リスナーには声は聞こえていない模様。現場で回収したカメラは映像の続きが残っていた。ここから先は、彼らしか見ていない映像になる】
コウ「……接続が落ちた。でも録画はできてる」
アキ「……もう、戻ろう。マジで戻ろう」
【映像:二人が慌てて引き返そうとする。カメラが足元を映す。そこには、さっきまでなかった濡れた足跡が新たに浮かんでいた。二人の足跡と交差するように】
アキ「……足跡、増えてないか。誰かいる」
コウ「……誰かじゃない。何かだ。逃げるぞ」
【映像:二人が震える息を漏らしながら走り出す。映像は激しく揺れ、暗闇の旧道へと戻っていく。一瞬だが、白い影が確認できた】
アキ「……戻る、戻る、戻る!」
コウ「ライト、足元だけ照らして。走るな、でも早歩きでいい……いや、走れ」
【映像:カメラが激しく揺れる。画角の下半分に、濡れた素足の足跡が連なって映る。さっきまで数歩だった跡が、いまは“列”になっている。小さな踵、短い指。足幅は子どもそのもの。
音声:マイクに規則的な「とん、とん、とん」という低い衝撃音。足音なのか。コンクリートを叩くというより、板張りを叩く響きに近い。間は一定。ちょうど子どもが数を数えるようなテンポ。]
アキ「なぁ今の音……ついてきてないか? ついてきてるって!」
コウ「振り返るな、真っ直ぐ前だけ見ろ」
アキ「お前、なにか見えてるのか?」
【映像:コンクリートの上。誰も踏んでいないのに、新しい跡が目の前で増える。】
アキ「今、増えたよな? 見たよな!?」
コウ「だから、黙って走れって!!」
【音声:さきほどの「とん、とん」に、もう一つズレた拍が重なる。「とん、とん/とん、とん」。まるで二人ぶん。テンポはどちらも子供の歩幅】
アキ「増えてる、音が増えてるっ!」
コウ「聞かなくていい、自分の呼吸だけ数えてろ」
アキ「無理無理無理無理っ」
【映像:旧道の先に、夜色と同化した白いものが浮かぶ。レンタカーだ。距離にして百メートルほど。だがカメラは望遠気味で距離感が狂う。】
コウ「見えた、車。そこまで、そこまで振り返るな……」
[音声ノート:ここで音が増える。耳慣れない擦過の気配。砂利を引きずる布のような。濡れた足跡は道の左右からも合流してくる。舗装の隙間から、路肩の土から、点々と湧くように]
アキ「おい! 前にも出てる! どうやって先回り……」
コウ「横目で見るな。足跡は踏むなよ、絶対に踏むな」
【映像:濡れた足跡をまたぎ、ジグザグに走る。カメラが一瞬だけ右へ振れる。草むらの高さに、白い膝のような影が、一瞬浮かんでいる】
アキ「膝……今膝だけ見えた、膝だけ……!」
コウ「見てない、見えてない、前だけ見てろ」
【映像:視界の左上、朽ちた電柱標が一瞬写る。そこに貼られていた「工事予告」の紙が半分だけ残り、手書きの“××年8月”の文字がふやけて黒い線に崩れている。
音声:子どもの声。「ねぇ、あそぼ」「いっしょにあそぼ」と、複数の声。】
アキ「聞こえる、聞こえる、やめろってやめろって!」
コウ「相手にするな。相手にすれば近づく──」
【映像:カメラの前方、アスファルトの割れ目から水がじわりと染み出て、そこに足跡が現れる。何も踏んでいないのに、最初から、そこにいたかのように】
アキ「ねぇ待って、これ……出てくる、下から出てくる!」
コウ「踏まないで。絶対に」
アキ「足がもつれる、無理、転ぶ!」
コウ「肩、掴め。離れたら終わりだ」
【映像:アキの左手がカメラ外でコウの服を掴む。カメラが低くなり、地面の質感が近い。そこに新しい足跡が花のように咲く。はっきりと映っている】
アキ「なぁ、誰の声なんだよ。『あそぼ』って……誰が呼んでるんだよ」
コウ「向こう側から……」
アキ「やめろ!! 呼ぶなっ!!」
【映像:遠くに車の金属面が光る。あと七十メートル。手前、道の中央に、酷く小さな靴が一足、揃えて置かれている。白い靴。乾いた埃をかぶっているのに、靴底だけが濡れて黒く汚れている】
アキ「……なぁ靴、置いてある……。子供の……さっき無かったよな」
コウ「避けろ、触るなよ!」
【映像:靴の横をすり抜ける瞬間、カメラが靴底を捉える。底面いっぱいに“逆さ”の足跡がついている。靴の中から外へ踏み出したような痕跡。指先の印が、底の凹凸に重なっている。】
アキ「なあなあなあ、いまの見た!? 逆さ、逆さに──」
コウ「見えてるよ!!! だから逃げろって」
【音声:ささやくような声が微かに聞こえる。単語は短く、押し殺した笑いが混じる。「ふふふっ」「まって」「かえれないよ」「こっち」「おいで」など、一度に複数が確認できた】
アキ「嫌だって! こっちくんな」
コウ「アキ! 答えるなって!」
【映像:距離四十メートル。車体のサイドミラーがはっきり見える。だが旧道はここで僅かにカーブし、堆積した落ち葉で膝下が沈む。進みが鈍る。】
アキ「はぁ、はぁ、はぁ……やばい、足が……」
コウ「あと少し、国道に出れば追いつかれないはずだ」
アキ「よっ、よし! 信じるからな」
【映像:道の真ん中に濡れた足跡が輪を描く。大きさは直径一メートルほど。踏めば囲まれる配置。二人はギリギリで外縁を迂回する。カメラの端、輪の中心に一瞬だけ大人の背丈。白い女性のような影が映る。】
アキ「人……人だ……!」
コウ「やばい、やばい、やばいって」
アキ「来る来る来る来る来るっ!」
コウ「車に乗ったらすぐ閉めろっ」
【映像:車まで五メートル。突然、旧道の中央に“裸足の群れ”の濡れ跡が現れる。いままでの倍以上の密度。進行方向を塞ぐ形で扇状に広がる】
アキ「塞がれてる……!」
コウ「飛べ! 跨げ!」
【映像:画角が地面に倒れ込むように低くなり、二人の靴が次々に濡れ跡を跨いで飛ぶ。指先の列、踵の列。濡れた足跡は触れられる直前にじわりと位置を変え、当たらないコースを空けてはすぐまた埋める。まるで導線のようだ。】
アキ「いま、空いた……!!」
コウ「黙れ!」
【映像:コウが運転席側へ、アキが助手席側へ】
アキ「鍵は! 鍵開いてる!?」
コウ「開いてる、乗れ!」
【映像:アキがカメラを抱えたまま助手席へ飛び込む。画角は天井の布地、フロントガラスの黒、コウの横顔を経て、ダッシュボードへ転がる。
音声︰ドアが閉まる乾いた音の後。外側で手の鳴り。まずは静かに、車体の周囲を確かめるように、掌で撫でる。ペタ……ペタ……と】
アキ「閉めた閉めた閉めたっ! 鍵! ロック、ロック!」
コウ「全部閉じてる。落ち着け、落ち着けよ」
【映像:フロントガラスの外側に湿った掌の形がひとつ生まれる。内側から曇ったわけではない。外から、面に触れたところだけが濡れて浮き出る。小さな手、大きな手、指の短い手、細い手。大小が重なって、車の前面を埋めていく。】
ペタ、ッペタ、ペタ、ペタッ、ペタッ。バンバン!
【映像:サイドウィンドウにも同時に手形。運転席の窓、助手席の窓、リアクォーター。四方八方から手形が貼り付く】
アキ「……うわぁぁぁ、これ無理無理無理無理!」
コウ「目を閉じるな。閉じたら入ってくるぞっ」
【音声:バンッ! バンッ! バンバンバン!掌打がはっきり叩く音に変わる。薄い板を手のひらで叩く、乾いた破裂音が複数。一定ではない。子どもが遊ぶみたいに】
アキ「はやく、早く車だせ!」
コウ「わ、わかってる。わかってるから……」
アキ「やめろやめろやめろやめろ……!」
コウ「落ち着いて。まだ大丈夫だ、車内には入ってこない」
【映像:リアゲート側から鈍い衝撃。トランクに置いた機材の金属ケースが跳ね、カメラの音声にビーンと長い残響が入る。
音声:バンッ! バンッ! バンッ!と、外からの掌打に混じって、絹の擦れたような音。車の周りをぐるぐると回るように】
アキ「俺、もう外には出られない、無理……エンジン、エンジン! はやく!」
コウ「落ち着けって。待ってろ。すぐ……」
【映像:助手席側の小窓。三角窓に近いスペースに、ひときわ小さな手の形が重なる。ひらがなを書く練習のように、指の先で何かをなぞる動きが見える。拙い字で「●」「●」「●」と崩れた文字が並び、やがて“○○”の苗字が浮かび上がる】
アキ「いま、名前……書かれたぞ。お前の……!」
コウ「なんで……なんで知ってんだよっ」
【映像:運転席側の窓の下から、小さな足裏の形が二つ、逆さ向きに貼り付く。窓の外に誰かがよじ登って、逆さに立っているようだ。ただ、跡だけが残っている】
[音声︰●、●、●……あ、そ、ぼ】
アキ「逃げろっ!!」
コウ「わ、わかった!、すぐ、くそっ手が……震えて」
【映像:フロントガラス中央、息が乗る。外から吹きかけたような、丸い曇りがひとつ、ふたつ。そこに『た・の・し・い・ね』と書いたように見える】
アキ「楽し……? ふざけんなよ、ふざけんなよ!」
コウ「……相手にするなって、い、行くぞ」
【映像:コウが鍵を捻る。セルが一回転、二回転する。エンジン音が入り、少しホッとした空気が流れる。その直後、車体のどこかが短く沈むような感触が映像から伝わる。
音声︰パンッ、という乾いた衝撃音。タイヤの側でかすかな破裂が内側から裂けるように響く。カメラのマイクがそれを拾うが、ノイズの混ざった音質でよく判別できない】
アキ「え、なんだ今の……」
コウ「……タイヤか?」
【映像:車がわずかに斜めに傾き、フロントが左に落ち、室内の空気が一瞬止まる。】
コウ「……むり、かも」
アキ「うう、やめて、まじで……。もう心霊配信なんてしませんから」
【映像:外の暗闇がフロントガラスに揺れるだけ。窓の外、ライトに照らされたタイヤ付近に黒いゴム片が散らばるのがかろうじて見える。後の検証で「内側から裂けた断面」と注記したが、映像上ではただタイヤがペシャンと沈む様子だけが反復される。】
ペタ、ペタ、という小さな湿った音が窓越しに始まる。最初は一つ、次に二つ、同時にフロントガラスの左下へと、濡れた掌の形が浮かび上がる。
アキ「うわっ、なにこれ、もうめてくれ……」
コウ「触るな、見ないで。閉めろ、窓!」
『……あけてよ』
『カエシテ……』
声は一つではない。子どものような、高い声と、低く震える囁きが幾重にも重なり、スピーカーの帯域を不気味に震わせる。言葉は短く、命令のように聞こえる。
アキ「聞こえるよね……ごめんなさい、ごめんなさい」
コウ「聞くな! 答えるなって言ってるだろ!」
【映像:助手席側のドアが、外からラッチを操作されたかのようにガチャンと開く。内側のロックは働いていない。外的な力で引かれたわけでもない。ドアが、まるで見えない手に掴まれて引かれるようにゆっくりと開く。】
アキ「やべ、やべやべやべっ!」
【映像:開いた隙間から、何かが入り込んできたのか? 映像では確認できなかったが、二人は酷く怯えている。カメラのマイクは、接触音を鮮明に拾っている。指先が布を這うような、微かに擦れる音。コウはドアを閉めようと抵抗している】
コウ「閉めろ、閉めろって!!」
【映像:ドアは閉まらない。映像は揺れ、コウの腕がカメラの視界を一瞬遮る。】
アキ「助けて! 誰か! 頼む、助けて!」
【映像:シートベルトが外れるような金属音。コウの肩からシートベルトが滑り、彼の身体が強く外に引かれる。カメラがぶれ、顔が極端に大きく映る。彼の口が動き、言葉にならない叫び声が断続的に漏れる。】
『でておいで』
『いっしょに』
『あそぼ』
声が和音のように重なり、車内へ直接響く。それは空気振動というより、鼓膜の奥を揺らす個人的な呼びかけのように聞こえる。コウの指がカメラのマウントを掴んでいるのが見える。カメラがアキの方に向く。
【映像:助手席側のドアが大きく引かれ、△△の膝や腕が何かに掴まれて引きずり出される】
コウ「アキ! アキ……ぁっ!」
【映像:誰もいない車内。遠くで二人の叫び声が同時に割れて途切れる音声だけが、記録されていた】
ペシャン、という湿った衝撃とともに、ドアが勢いよく閉まる音がした。しばらくの間、何もない車内が映る。そしてバッテリーが尽きた。
【映像終了】
コウ「……ここが旧道です。舗装が途中で終わっていて、その先は補修されず放置。橋は……見ての通り、半分まで作った状態で放置されてます」
アキ「近づくだけで足がすくむんだけど……マジで行くの?」
コウ「とりあえず手前まで。安全確認して、橋を撮るだけ。行けるところまでね」
【コメント:やば/画面暗すぎる/足元見える?】
コウ「大丈夫です。法的にも安全面でもラインは守ります。向こう側には行きません」
アキ「(遮って)いや、その向こう側って言い方やめて? 縁起でもないから」
コウ「……じゃあ行くよ」
【二人はゆっくりと歩く。砂利を踏む乾いた音。スマホライトに浮かぶ舗装されてない道。誰かの忘れ物だろうか? 黒いリュックが落ちている】
アキ「あのさ、足元、斜めってるよ。滑る、滑るって」
コウ「気をつけて。ゆっくりでいい。コメント、見えてる?」
アキ「見えてるよ。やめとけ、が9割。……俺も今すぐにやめたいよーー(泣きそうな顔)」
コウ「(笑いを作るが表情は強ばっている)みんなの代わりに見てくる、っていうのが僕らの役割だから」
【映像:二人の前方に、コンクリート造りの橋の入口。錆び付いた金属の支柱に、色褪せた「立入禁止」のプレートがぶら下がっている。赤い字は掠れ、半分ほどが剥げ落ちて判読できない。】
アキ「立入禁止って……思いっきり書いてあるじゃん」
コウ「安全上の理由でしょうね。橋は老朽化が進んでるし、渡るのはかなり危険です」
【映像:二人の足元。進路を塞ぐようにチェーンが渡されているが、中央部分が不自然に切れている。切断面は錆びで黒く変色しており、古くから断たれていたようにも見える。】
アキ「……おい、これ。チェーン、切れてるよな?」
コウ「……確かに。工具か、何か鋭利なもので切られたように見えますね」
アキ「いや、待てよ。こんなの人が勝手に入ったってことだろ? 誰かここに……」
【映像:カメラが揺れ、湖面の方へ。黒い水面に小さな波紋が広がるようにも見えるが、光が届かず判然としない。】
コウ「……あるいは、ここに出入りしている何かがやったのかも」
アキ「そういう言い方やめろって!」
【コメント︰チェーン切られてるとか怖すぎ/人為的? それとも……/いや普通に地元の不良とかじゃ?]
【映像:二人は息を呑み、ゆっくりとチェーンを跨いで橋の入口へと足を踏み入れる。靴音が乾いたコンクリートに反響し、わずかな残響を残して消える。ライトが足元を映す。コンクリートの舗装に、点々と濡れた跡が並んでいる。くっきりとした人の足跡の形。裸足に近い】
アキ「……おい、コウ。これ、見ろよ」
コウ「……足跡ですね。水に濡れた素足の跡。おかしいな、今日は雨は降っていないのに」
アキ「しかも、奥に向かってる……。これ、絶対に誰か渡ってるって」
コウ「もし誰かが、渡ったのなら……戻ってきてない」
【映像:カメラが足跡を追って進む。コンクリート部分はやがて途切れ、先は鉄骨がむき出しに。黒い湖の上に格子のように伸びている。ライトが当たると、鉄が濡れて鈍く光る。】
アキ「……先、鉄骨だけだぞ。足跡、どうなってんだ」
コウ「……こっち見てください。コンクリートの端から、鉄骨の上に続いている」
アキ「嘘だろ……どうやって歩いたんだよ。こんなとこ、普通無理だろ」
【映像:鉄骨の上に、濡れた足跡が数歩だけ続いている。しかし途中で途切れ、先は黒い闇に飲み込まれている。】
アキ「……途中で消えてる。いや、落ちた……?」
コウ「……消えたんです。そうとしか言えません。戻ってきた足跡がないんだから」
【コメント:足跡やばすぎる/途中で消えるとか絶対人じゃない/仕込み乙です/冷静に説明してるコウが逆に怖い]
【映像:二人は足元を映しながら立ち尽くす。湿った風が吹き抜ける。マイクに拾われるのは二人の呼吸音だけ。】
アキ「なあ……渡るとか言うなよ? 本気で」
コウ「……僕らのスタイルはちゃんと調べること。だから、少しだけ行きます」
アキ「お前、正気かよ。こんなの渡ったら……」
【映像:コウが一歩、鉄骨の上に足を乗せる。金属がわずかに軋む音。視聴者のコメントが一気に荒れる。】
【コメント:やめろって!危ない!/絶対にやめろって!/足場崩れるぞ!/事前に安全は確認済みだろwww/やばいやばいやばい]
コウ「……大丈夫です。踏み込めるかどうか、確認するだけだから」
アキ「おい、マジで無理すんなって……!」
【映像:鉄骨に置かれたコウの足。次の瞬間、ノイズが走る。カメラが勝手にピントを外し、画面がぶれる。その間に、鉄骨の先の闇の中に、濡れた子供のような白い影が一瞬立ち現れる。】
アキ「……いる!あそこ……子供立ってるって!」
コウ「……映りましたか? 橋の先に立つ影の証言があるんですが、事実みたいですね」
アキ「お前冷静ぶってるけど……震えてんぞ!」
【映像:影はすぐに消える。残るのは鉄骨だけ。カメラの明かりが揺れ、二人の呼吸が荒くなる。※ここで配信の画面はフリーズした模様。コメント欄には、なにか映った? と、コメントが溢れる】
アキ「……もう帰ろう。マジでやばい。これ以上は絶対やばい」
コウ「……まだ声を確認してないから」
アキ「お前、なんか変だぞ?」
【映像:沈黙。二人が息を整えた瞬間、マイクに小さな声が入り込む。】
『……おいで』
【映像:二人が同時に振り返る。背後には誰もいない。】
アキ「さすがに……今の聞こえたろ!? 子供だって!」
コウ「……うん、撮れた。これが橋の声の現象……」
【映像:生配信では、ここでコメントの流れが突然途絶える。通信が不安定になったサインが表示される。配信終了の画面。リスナーには声は聞こえていない模様。現場で回収したカメラは映像の続きが残っていた。ここから先は、彼らしか見ていない映像になる】
コウ「……接続が落ちた。でも録画はできてる」
アキ「……もう、戻ろう。マジで戻ろう」
【映像:二人が慌てて引き返そうとする。カメラが足元を映す。そこには、さっきまでなかった濡れた足跡が新たに浮かんでいた。二人の足跡と交差するように】
アキ「……足跡、増えてないか。誰かいる」
コウ「……誰かじゃない。何かだ。逃げるぞ」
【映像:二人が震える息を漏らしながら走り出す。映像は激しく揺れ、暗闇の旧道へと戻っていく。一瞬だが、白い影が確認できた】
アキ「……戻る、戻る、戻る!」
コウ「ライト、足元だけ照らして。走るな、でも早歩きでいい……いや、走れ」
【映像:カメラが激しく揺れる。画角の下半分に、濡れた素足の足跡が連なって映る。さっきまで数歩だった跡が、いまは“列”になっている。小さな踵、短い指。足幅は子どもそのもの。
音声:マイクに規則的な「とん、とん、とん」という低い衝撃音。足音なのか。コンクリートを叩くというより、板張りを叩く響きに近い。間は一定。ちょうど子どもが数を数えるようなテンポ。]
アキ「なぁ今の音……ついてきてないか? ついてきてるって!」
コウ「振り返るな、真っ直ぐ前だけ見ろ」
アキ「お前、なにか見えてるのか?」
【映像:コンクリートの上。誰も踏んでいないのに、新しい跡が目の前で増える。】
アキ「今、増えたよな? 見たよな!?」
コウ「だから、黙って走れって!!」
【音声:さきほどの「とん、とん」に、もう一つズレた拍が重なる。「とん、とん/とん、とん」。まるで二人ぶん。テンポはどちらも子供の歩幅】
アキ「増えてる、音が増えてるっ!」
コウ「聞かなくていい、自分の呼吸だけ数えてろ」
アキ「無理無理無理無理っ」
【映像:旧道の先に、夜色と同化した白いものが浮かぶ。レンタカーだ。距離にして百メートルほど。だがカメラは望遠気味で距離感が狂う。】
コウ「見えた、車。そこまで、そこまで振り返るな……」
[音声ノート:ここで音が増える。耳慣れない擦過の気配。砂利を引きずる布のような。濡れた足跡は道の左右からも合流してくる。舗装の隙間から、路肩の土から、点々と湧くように]
アキ「おい! 前にも出てる! どうやって先回り……」
コウ「横目で見るな。足跡は踏むなよ、絶対に踏むな」
【映像:濡れた足跡をまたぎ、ジグザグに走る。カメラが一瞬だけ右へ振れる。草むらの高さに、白い膝のような影が、一瞬浮かんでいる】
アキ「膝……今膝だけ見えた、膝だけ……!」
コウ「見てない、見えてない、前だけ見てろ」
【映像:視界の左上、朽ちた電柱標が一瞬写る。そこに貼られていた「工事予告」の紙が半分だけ残り、手書きの“××年8月”の文字がふやけて黒い線に崩れている。
音声:子どもの声。「ねぇ、あそぼ」「いっしょにあそぼ」と、複数の声。】
アキ「聞こえる、聞こえる、やめろってやめろって!」
コウ「相手にするな。相手にすれば近づく──」
【映像:カメラの前方、アスファルトの割れ目から水がじわりと染み出て、そこに足跡が現れる。何も踏んでいないのに、最初から、そこにいたかのように】
アキ「ねぇ待って、これ……出てくる、下から出てくる!」
コウ「踏まないで。絶対に」
アキ「足がもつれる、無理、転ぶ!」
コウ「肩、掴め。離れたら終わりだ」
【映像:アキの左手がカメラ外でコウの服を掴む。カメラが低くなり、地面の質感が近い。そこに新しい足跡が花のように咲く。はっきりと映っている】
アキ「なぁ、誰の声なんだよ。『あそぼ』って……誰が呼んでるんだよ」
コウ「向こう側から……」
アキ「やめろ!! 呼ぶなっ!!」
【映像:遠くに車の金属面が光る。あと七十メートル。手前、道の中央に、酷く小さな靴が一足、揃えて置かれている。白い靴。乾いた埃をかぶっているのに、靴底だけが濡れて黒く汚れている】
アキ「……なぁ靴、置いてある……。子供の……さっき無かったよな」
コウ「避けろ、触るなよ!」
【映像:靴の横をすり抜ける瞬間、カメラが靴底を捉える。底面いっぱいに“逆さ”の足跡がついている。靴の中から外へ踏み出したような痕跡。指先の印が、底の凹凸に重なっている。】
アキ「なあなあなあ、いまの見た!? 逆さ、逆さに──」
コウ「見えてるよ!!! だから逃げろって」
【音声:ささやくような声が微かに聞こえる。単語は短く、押し殺した笑いが混じる。「ふふふっ」「まって」「かえれないよ」「こっち」「おいで」など、一度に複数が確認できた】
アキ「嫌だって! こっちくんな」
コウ「アキ! 答えるなって!」
【映像:距離四十メートル。車体のサイドミラーがはっきり見える。だが旧道はここで僅かにカーブし、堆積した落ち葉で膝下が沈む。進みが鈍る。】
アキ「はぁ、はぁ、はぁ……やばい、足が……」
コウ「あと少し、国道に出れば追いつかれないはずだ」
アキ「よっ、よし! 信じるからな」
【映像:道の真ん中に濡れた足跡が輪を描く。大きさは直径一メートルほど。踏めば囲まれる配置。二人はギリギリで外縁を迂回する。カメラの端、輪の中心に一瞬だけ大人の背丈。白い女性のような影が映る。】
アキ「人……人だ……!」
コウ「やばい、やばい、やばいって」
アキ「来る来る来る来る来るっ!」
コウ「車に乗ったらすぐ閉めろっ」
【映像:車まで五メートル。突然、旧道の中央に“裸足の群れ”の濡れ跡が現れる。いままでの倍以上の密度。進行方向を塞ぐ形で扇状に広がる】
アキ「塞がれてる……!」
コウ「飛べ! 跨げ!」
【映像:画角が地面に倒れ込むように低くなり、二人の靴が次々に濡れ跡を跨いで飛ぶ。指先の列、踵の列。濡れた足跡は触れられる直前にじわりと位置を変え、当たらないコースを空けてはすぐまた埋める。まるで導線のようだ。】
アキ「いま、空いた……!!」
コウ「黙れ!」
【映像:コウが運転席側へ、アキが助手席側へ】
アキ「鍵は! 鍵開いてる!?」
コウ「開いてる、乗れ!」
【映像:アキがカメラを抱えたまま助手席へ飛び込む。画角は天井の布地、フロントガラスの黒、コウの横顔を経て、ダッシュボードへ転がる。
音声︰ドアが閉まる乾いた音の後。外側で手の鳴り。まずは静かに、車体の周囲を確かめるように、掌で撫でる。ペタ……ペタ……と】
アキ「閉めた閉めた閉めたっ! 鍵! ロック、ロック!」
コウ「全部閉じてる。落ち着け、落ち着けよ」
【映像:フロントガラスの外側に湿った掌の形がひとつ生まれる。内側から曇ったわけではない。外から、面に触れたところだけが濡れて浮き出る。小さな手、大きな手、指の短い手、細い手。大小が重なって、車の前面を埋めていく。】
ペタ、ッペタ、ペタ、ペタッ、ペタッ。バンバン!
【映像:サイドウィンドウにも同時に手形。運転席の窓、助手席の窓、リアクォーター。四方八方から手形が貼り付く】
アキ「……うわぁぁぁ、これ無理無理無理無理!」
コウ「目を閉じるな。閉じたら入ってくるぞっ」
【音声:バンッ! バンッ! バンバンバン!掌打がはっきり叩く音に変わる。薄い板を手のひらで叩く、乾いた破裂音が複数。一定ではない。子どもが遊ぶみたいに】
アキ「はやく、早く車だせ!」
コウ「わ、わかってる。わかってるから……」
アキ「やめろやめろやめろやめろ……!」
コウ「落ち着いて。まだ大丈夫だ、車内には入ってこない」
【映像:リアゲート側から鈍い衝撃。トランクに置いた機材の金属ケースが跳ね、カメラの音声にビーンと長い残響が入る。
音声:バンッ! バンッ! バンッ!と、外からの掌打に混じって、絹の擦れたような音。車の周りをぐるぐると回るように】
アキ「俺、もう外には出られない、無理……エンジン、エンジン! はやく!」
コウ「落ち着けって。待ってろ。すぐ……」
【映像:助手席側の小窓。三角窓に近いスペースに、ひときわ小さな手の形が重なる。ひらがなを書く練習のように、指の先で何かをなぞる動きが見える。拙い字で「●」「●」「●」と崩れた文字が並び、やがて“○○”の苗字が浮かび上がる】
アキ「いま、名前……書かれたぞ。お前の……!」
コウ「なんで……なんで知ってんだよっ」
【映像:運転席側の窓の下から、小さな足裏の形が二つ、逆さ向きに貼り付く。窓の外に誰かがよじ登って、逆さに立っているようだ。ただ、跡だけが残っている】
[音声︰●、●、●……あ、そ、ぼ】
アキ「逃げろっ!!」
コウ「わ、わかった!、すぐ、くそっ手が……震えて」
【映像:フロントガラス中央、息が乗る。外から吹きかけたような、丸い曇りがひとつ、ふたつ。そこに『た・の・し・い・ね』と書いたように見える】
アキ「楽し……? ふざけんなよ、ふざけんなよ!」
コウ「……相手にするなって、い、行くぞ」
【映像:コウが鍵を捻る。セルが一回転、二回転する。エンジン音が入り、少しホッとした空気が流れる。その直後、車体のどこかが短く沈むような感触が映像から伝わる。
音声︰パンッ、という乾いた衝撃音。タイヤの側でかすかな破裂が内側から裂けるように響く。カメラのマイクがそれを拾うが、ノイズの混ざった音質でよく判別できない】
アキ「え、なんだ今の……」
コウ「……タイヤか?」
【映像:車がわずかに斜めに傾き、フロントが左に落ち、室内の空気が一瞬止まる。】
コウ「……むり、かも」
アキ「うう、やめて、まじで……。もう心霊配信なんてしませんから」
【映像:外の暗闇がフロントガラスに揺れるだけ。窓の外、ライトに照らされたタイヤ付近に黒いゴム片が散らばるのがかろうじて見える。後の検証で「内側から裂けた断面」と注記したが、映像上ではただタイヤがペシャンと沈む様子だけが反復される。】
ペタ、ペタ、という小さな湿った音が窓越しに始まる。最初は一つ、次に二つ、同時にフロントガラスの左下へと、濡れた掌の形が浮かび上がる。
アキ「うわっ、なにこれ、もうめてくれ……」
コウ「触るな、見ないで。閉めろ、窓!」
『……あけてよ』
『カエシテ……』
声は一つではない。子どものような、高い声と、低く震える囁きが幾重にも重なり、スピーカーの帯域を不気味に震わせる。言葉は短く、命令のように聞こえる。
アキ「聞こえるよね……ごめんなさい、ごめんなさい」
コウ「聞くな! 答えるなって言ってるだろ!」
【映像:助手席側のドアが、外からラッチを操作されたかのようにガチャンと開く。内側のロックは働いていない。外的な力で引かれたわけでもない。ドアが、まるで見えない手に掴まれて引かれるようにゆっくりと開く。】
アキ「やべ、やべやべやべっ!」
【映像:開いた隙間から、何かが入り込んできたのか? 映像では確認できなかったが、二人は酷く怯えている。カメラのマイクは、接触音を鮮明に拾っている。指先が布を這うような、微かに擦れる音。コウはドアを閉めようと抵抗している】
コウ「閉めろ、閉めろって!!」
【映像:ドアは閉まらない。映像は揺れ、コウの腕がカメラの視界を一瞬遮る。】
アキ「助けて! 誰か! 頼む、助けて!」
【映像:シートベルトが外れるような金属音。コウの肩からシートベルトが滑り、彼の身体が強く外に引かれる。カメラがぶれ、顔が極端に大きく映る。彼の口が動き、言葉にならない叫び声が断続的に漏れる。】
『でておいで』
『いっしょに』
『あそぼ』
声が和音のように重なり、車内へ直接響く。それは空気振動というより、鼓膜の奥を揺らす個人的な呼びかけのように聞こえる。コウの指がカメラのマウントを掴んでいるのが見える。カメラがアキの方に向く。
【映像:助手席側のドアが大きく引かれ、△△の膝や腕が何かに掴まれて引きずり出される】
コウ「アキ! アキ……ぁっ!」
【映像:誰もいない車内。遠くで二人の叫び声が同時に割れて途切れる音声だけが、記録されていた】
ペシャン、という湿った衝撃とともに、ドアが勢いよく閉まる音がした。しばらくの間、何もない車内が映る。そしてバッテリーが尽きた。
【映像終了】



