私は某動画制作会社で、ある心霊系チャンネルの編集を担当している。安全を考慮し、仮に田中と名乗ることにする。
これから語るのは、ある二人組の動画配信者の失踪に関する記録の一部である。
だが、これは真実の断片に過ぎない。
私が見聞きし、受け取り、あるいは拾い集めた資料の束。その順序に沿って、私は彼らの動画編集者として提示する。
信じるかどうかは、あなたに委ねたい。

彼らのいた場所は、誰しも目にしたことがある、某動画配信サイト。チャンネル登録者が少なければ、底辺●●チューバーと比喩される。世論は厳しい。飽きられたら終わり。擦られ続けた企画をいかに面白く見せるか、既視感なく演出するか。突き抜けた者達だけが、たどり着ける世界。夢があると言えば嘘では無いが、私は散っていく背中を何度も見送った。総チャンネル数の上位0.02%の者だけが掴める称号。その瞬間、私は全身が震えるほど嬉しかった。
私が動画編集を請け負っている二人組●●チューバーの『境界線ラボ』のチャンネル登録数が、ついに100万人を超えた。

彼らのファンは、こう語る。
「『境界線ラボ』は、心霊スポットの探索だけでなく、その場所にまつわる歴史とか事件なども掘り下げて紹介してくれるんですよね。動画はドキュメンタリー的な構成で、単なる肝試しとは一線を画した内容になっており、考察系や検証系が好きな私にはピッタリなんですよ。コウさんは霊感が強いのか、引き寄せちゃうんですよね(笑)編集のクオリティも高くて、一本の動画をあっという間に見終えてしまう中毒性がありますね。知的な心霊動画を求める人に、まさにぴったりのチャンネルですよ 」

『境界線ラボ』愛称は略して境ラボ。彼らは、心霊配信を得意とし、着実に知名度を確立していった。ファンの話にも出てきたコウは、霊感が強く、何かを引き寄せてしまった時の、臨場感と緊張感がファンを掴む。その隣で、相方のアキは怖さに正直でありながらも、リアクションがコミカル。二人のバランスが絶妙なのだ。
大学を卒業してすぐに、配信者として活動を始めたコウとアキは、まだどこか子供っぽく、私と打ち合わせをする時に見せる笑顔は、動画の表情とは別物だった。
その日のうちに、彼らはこんな投稿をしている。