白城の医療事務所は、島国の霧が窓を曇らせる黄昏、共感の残響に震えていた。深山蓮は机に肘を支え、白い髪を指で払いながらカルテを睨む。屈強な体躯に白い瞳が鋭く輝き、赤ピンクのネクタイが胸で静かに息づき、黄緑と赤ピンクのマフラーが肩を優しく覆う。彼は白城の医療の共鳴者として、他者の感情がもたらす自我の崩壊を記録する。患者の名は蒼龍——白城の白の上級保安官。三笠への重度片想いが、過剰同調の毒を呼び起こした。
深山はペンを走らせ、カルテに克明に記す。手は確かだが、瞳に微かな光の残像が宿る。

症例番号：WC-0264
 患者名：蒼龍

性別：男性 / 職業：白城の上級保安官

主訴：感情過同調、鼻耳出血、瞳光帯び、進行性自我崩壊

既往歴：特記事項なし。三笠（同僚）への重度片想いを自認（詳細非開示）
診断名：
光感性崩壊症候群（Luminal Collapse Syndrome: LCS）
•他者感情過剰同調による自我境界崩壊症。光化消滅の致死性精神疾患。
発症経過：
患者は約1ヶ月前、三笠への想いが過共感を誘発し発症。初期：感情入力過密（他者の悲嘆を自認）、不眠・動悸・頭痛。患者自陳「三笠の影が、僕の心に染みる」との記述あり。進行：鼻耳出血、瞳に青色光帯び。共鳴指数上昇、他者記憶内在化。末期：未処理感情吸収、自我喪失、発光・粒子化（光化）
進行の特徴：共感過剰が神経負荷を増大、救いと破滅の両義性。社会的駆除対象例多し。
治療経過：
共鳴遮断技術施行（共感喪失）無効。共鳴調律装置試行も、臨界到達で失敗。予後不良。
予後：
進行性・不可逆。光化による完全消滅。共感の美徳が、死を招く。
所見：
本症は人間性の病——感情兵器の恐れと救済の可能性。白城の霧のように、共感は光を散らし、自我を溶かす。追跡調査要。
担当医：深山蓮

深山はカルテを閉じ、事務所の奥室へ向かう。患者のベッドは霧の淡光に浮かび、蒼龍は白いシーツに横たわる。かつての屈強な保安官の体は今、微かに発光し、白い髪が光の粒子に揺らぐ。白い瞳は黄金の輝きを帯び、虚空の感情を吸収するように広がる。深山はベッド脇に座り、黄緑のマフラーを調整しながら観察する。赤ピンクのネクタイが彼の胸に、共鳴の影を落とす。
「蒼龍くん、感じるかな。三笠くんの想いを」
深山の声は穏やかだが、患者の鼻から血が滴り、耳が赤く染まる。蒼龍は呟く。
「先生……彼の悲しみが、僕の記憶に…光が、溢れる」
瞳の光が強まり、他者の感情が融合——三笠の片鱗が、蒼龍の自我を溶かす。深山は共鳴指数を測り、臨界の兆しを記録。装置の調律がわずかに安定させるが、過剰同調が加速。
「遮断して、人間性を、守って」
深山は促すが、蒼龍の体が発光を始め、粒子化が始まる。霧の夜が深まり、光化の輝きが部屋を満たす。
霧の闇が明ける頃、蒼龍の体が光の粒子となり、拡散した。白い瞳は消え、自我の残響だけが空気に溶ける。深山は空のベッドを眺め、カルテに「病死」と記す。光感性崩壊症候群は、共感を光に変え、存在を奪う。白城の医療事務所に、また一つの輝きの喪失が刻まれた。
（終）