「都築いつも有り難う」
「べ、別に特別な事してるわけじゃねーし。っていうか千納時は客で来てるんだからっ」
「もしかして、照れてるの?」

 コーヒーを一口、口にした千納時が悪戯っぽく笑う。

「そ、そんな事!!」

 彼の言葉に咄嗟に反論しよと声を上げるも、少々大きかったようで、千納時が、人差し指を彼自信の唇前で立てる。自分は一回大きく溜息を溢す。

「ご、ごゆっくり、どうぞ」
「また、何かあったら都築にお願いするよ」
「コーヒー以外の御指名は聞かねーからな」

 少し彼の顔に自分の顔を寄せ小声で話すと同時に睨みを効かした。すると彼はやんわりと笑みを浮かべたのだ。

(コイツわかってねーだろ絶対!!)

 疑いの視線を送りつつ、自分はバックへと戻る。
 先日の絡み案件から一週間が過ぎ、時より楽しげな笑いが耳を掠めるといったいつもの日常に戻った店内。しかし怪我をした数日は、店や学校で、思いの外心配してもらった。と言うのも、警察が店や学校に訪れたのだ。また学生という事で、怪我の後遺症の有無諸々もあって警察側も少々過度に配慮した感じも受けた。が、それが少なからず大事になってしまい、店も学校もザワツく事となったのだ。今はその熱りも冷めた状況であり、通常通りの日々を送っている。まあそれはあくまでも、自分の身の上のみだが、千納時の場合は、かなりの事件になっていた。と言うもの、彼が暴力沙汰に巻き込まれたらしいとう話が定時制の生徒の間でも話題にあがったのだ。然う然う、全日制生徒の話題を定時制生徒はしないのにも関わらずだ。この現状からしても、千納時はだいぶ大変な事になっているのではないかと容易に想像がつく。

(まあ、例の一件後の数日は疲労感が滲み出てたもんな)

 だが今はだいぶ落ち着きを取り戻している。ただ、それ以降ある変化がおきているのだ。自分の名を呼び、会話し、笑うようになったのだ。
 あまり経験しないような事を一緒に乗り越えた事による親近感が沸いたのかよく分からない。ただ、以前とだいぶ雰囲気が違うので戸惑う自分がいた。なのでなるべく平常心を保とうとしているのだが、それが出来ないのだから非常に情けない。

(本当、千納時みたいにさりげなく出来ないもんかね)

 そんな事を思い、厨房に入る数歩手前で、英語が聞こえると共に、肩を数回叩かれた。俺は振り向くと、白い髭を蓄えた白髪の外国人が立っていたのだ。いきなりの事で数回瞬きをする中、白髪の主が口を開く。

「Excuse me」
「え、は、えきゅすきゅーみーってことはっ」

 明らかに英語であり、自分は思いっきりテンパる。というのも、自分は英語が大の苦手。なので、英語で質問されても、対応出来ないのだ。尚も、外人客は英語で話しかけられるものの、頭が真っ白になっていく。そんな中、自分の背中が叩かれ、振り向くと、多持が立っていた。自分が英語苦手を理解しているので、ヘルプに来てくれたのだ。自分はお礼を言うと、外人客に会釈し、バックに生還しる。すると、みこが自分にニタリと笑いかけた。

「最後の最後に地雷きたわね」
「本当。焦っちゃいました。多持さん感謝っす」
「にしてもインバンド客増えてびっくり」
「そうなんすよ。だから自分も英語覚えないといけないのわかってるけど、なかなか」

 今はインバンドも増加しているので、ある程度英語対応必須といっても過言ではない。

(でも何やっても入ってこないんだよな)

 しかも担任が網谷であり、英語教師という事で、いつも渋い顔されている状態なのだ。そんな顔が頭を過り再度溜息を突いた。