その日の夜、大量のLINEが送られてきた。それは店のスタッフからの心配の声と共に、千納時からも具合が悪いのかというメールが来た。どうやら自分が帰った後に彼は来店したようだ。
本当の事を千納時には言えないが、体調のせいではない事を知らせたのち、スタッフ1人1人に返信する。いきなりの事で周りの人達は一様に驚きを隠せないようだった。
(まあ自分も同じ心境なんだけどね)
部屋のベッドで寝っ転がりながら天井を見上げる。その時、メールの届いた音がした。自分はスマホを取り画面を見る。
【明日。8時に店に来るように。近藤】
土曜日のせいかいつもより人が少ない歩道を歩く。今日は今朝方から雨の降る肌寒い日。自分は薄手のパーカーを羽織り、傘を差しながら店の前迄行く。昨夜メールの指示通り、指定した時間より10分程早めに到着した。自分は大きく息を吐き、店内に足を踏み入れる。
「おはようございます」
すると、近藤が視界に入ると同時に、2人の見たことのない男性が居た。自分の記憶を辿っても出会った事のない人物。そんな思考を巡らせている時だ。
「都築こちらに来い」
相変わらずの強い口調で自分を呼ぶと3人のいる場所まで足を運ぶ。すると、1人は白髪交じりの優しげな老人が、紺スーツを着て立っており、その隣にはカウンターで紅茶を飲んでいる人物が、こちらを見た。オールバックにた黒髪に端正な顔立ちに、グレーのスリーピースのスーツ。巷でいう、イケオジである。ただ格好からして、偉い人なのは間違いないと感じると同時に、ピリリとした空気が漂い、自分を思わず背筋を伸ばす。すると、ナイスミドルがこちらに鋭い眼光を向けると同じくして、口角を上げる。
「おはよう。都築君」
「おはようございす……」
この笑い顔とこの雰囲気がどこか感じた事のある感覚があったが、やはり今は体全体から感じる圧の方が勝っている為、これ以上の思考を巡らせる事は無理だ。すると、自分の背後に歩み寄っていた近藤が一回咳払いをした。
「こちらは、このカフェの親会社であるTITOKiコーポレーション会長の千納時忠義会長。そして秘書の基山さん」
一瞬息が止まり、すぐさま2人の方を見た。
(さっき感じた感覚、琉叶が最初に自分向けた視線と同じだったからか)
そう言われてみればどことなく、彼の雰囲気に似ているし、基山というワードも彼の口から聞いているわけで、明らかに目の前にいる人物達は琉叶の父と使用人。
(って事は、琉叶はこのカフェの経営者の跡取りってなるのか?)
今突きつけられた現実に愕然する中、琉叶父が再度自分を見た。
「都築君。今日は早朝からすまないが、色々と聞きたい事がりまして」
「はっい……」
「近藤店長からざっくりとした話しは聞きましたが、君からも話しを聞きたいんだが。単刀直入に聞く。君は両替を隠しのか?」
「い、いえ自分はやって、ません」
「嘘言えっ、なら何故あの場所にあると知っていたんだっ」
「近藤店長。私は君に聞いてるわけではないので黙っていてくれ。で、どうなんだ」
「そ、それは……」
言葉を探すも、何と言えばいいのだろう。本当の事を言って聞き入れてくれるのかもわからず、口を紡ぐ事暫し。
「では、質問を変えよう。どうしてあの部屋に入った」
「…… いつもの掃除の業者の人が、あの部屋にあるモップを回収したいと言っていて」
「成る程」
その時、いきなり勢いよく店のドアが空いたかと思った途端、息を切らしながら、琉叶が入店してきたとほぼ同時に、こちらに歩いて来ると、自分の前に立つ。すると視界には彼の背中が視界に飛び込む。所々服が濡れ、透けている。先の感じだと雨具もそこそこに走って来たのだろう。そんな彼の姿に思わず胸が苦しくなると同じくして高揚感を感じ自分のパーカーの裾を握る。そんな中、彼は実父に視線を送り続けていた。
「父さん。優斗をどうするつもりですか?」
「何で琉叶がそんな事を聞く。第一お前は事情をわかっているのか?」
「ある程度は。基山さんから聞きました。俺が贔屓している場所なので。だからわかるんです。彼がこの仕事に信念を持ってやってる事も…… それに彼自身大きなトラブルを起こすような人間ではないっ、だから父さん。優斗をっ」
「琉叶。何か勘違いしてないか? 今の状況化において琉叶が意見を言える立場ではない。ましてや言ったとてそれが通るとでも思っているのか?」
冷静に発せられた言葉ではあるが、まるで刃物のような鋭さを感じ、背筋に冷たいモノが走った。その直後、目の前の琉叶がその場からいきなり立ち去り、外へ出て行ってしまったのだ。
「お、おいっ琉叶っ」
自分はすぐさま踵を返すと共に、背後にいる2人を見た。
「ちょ、ちょっとすいません」
傘立てには二本の傘。一本は自分、もう一本はきっと琉叶のであり、傘も差さずに出ていったようだ。
(何やってんだよっ)
店に半分濡れながら駆け込み、来たと思えば父に抗議する。
(自分の為にっ、あのバカっ)
憤りもあるが、それ以上に先より増した胸の高鳴り。
(どこいったんだよっ)
雨は尚もシトシトと降っている。自分は一回足を止め、焦る気持ちを落ち着かせつつ、思考を巡らせた。すると、ある場所が浮かんだのだ。自分はすぐさますぐさまその場所へと向かうべく、足を進める。途中の下り坂は雨の為に滑りやすくなっているので、気をつけながら階段を下りた。そして辿りついた場所は、みはらし公園だ。自分は一回回りを見渡すと、展望付近に雨に打たれ佇む琉叶が、視界に飛び込む。
「琉叶っ」
思わず叫ぶ。すると彼はゆっくりとこちらを振り向いた。雨で髪からいくつもの水滴が、彼の顔を伝い流れる。
「優斗」
ゆっくりと自分は近づき彼に傘を差す。
「琉叶。びしょ濡れだぜ。まあ、水も滴るいい男っていうけどな」
ただ、彼は何の反応もしない。自分は傘を一本たたみ、2人で傘に入ると共に、彼の腕を掴み、紅葉の木の下まで連れて行くと、傘を畳む。枝のお陰であまり濡れる事がなかったからだ。そんな彼は、全身雨で濡れ髪から未だに大粒の水の玉が何粒も落ちていた。自分は着ていパーカーを彼に被らせる。
「いくら夏だっていっても風邪引くって」
そう言い、自分は軽くパーカーで琉叶の体を拭くと共に、彼の顔を見た。琉叶は瞬きもせず、じっとこちらを見つめる。ただ、その瞳は雨のせいなのかわからないが潤んで見えた。自分は彼の顔をフードで優しく水滴を拭う。だが、彼の目頭から一筋の線。
「琉、叶……」
指でそれを再度拭き取ると彼ゆっくりと口を開く。
「俺、泣いて、いるのか……」
「…… 琉叶」
すると、彼の顔が徐々に切ない表情へと変わる。
「悔しいだっ、優斗が真摯に仕事に向き合ってる事をっ、俺はっ、知ってるからっ。それなのに、俺はっ、何も出来ないっ」
「琉叶……」
自分はパーカーの上から彼の両頬を包む。
「ありがとな琉叶。その気持ちだけで、すげーうれしいからっ」
そして自分はゆっくりと彼の額に自分の額をつけた。濡れて冷えた額が自分の高くなりつつある体温と混じり程良い暖かみを感じる中、自分はやんわりと笑みを浮かべる。
「だから、そんな顔すんなよ。自分まで哀しくなっちゃうからさ」
雨が葉に当たる音が耳に届く中、自分は琉叶の顔を掴んだまま、立ち尽くす。そんな自分に彼は何も言わず、身を任せていた。
(また見たことない琉叶が見れたな)
しかも彼自身の事でなく自分の為にここまで思ってくれたのだから…… 暫くこのまま彼のその思いの余韻を味わいたいと思ってしまう。その矢先、スマホが鳴る。ゆっくりと彼の頬から手を離し、スマホを見ると、店の電話番号だった。名残惜しさを抱きながら、電話に出る。
本当の事を千納時には言えないが、体調のせいではない事を知らせたのち、スタッフ1人1人に返信する。いきなりの事で周りの人達は一様に驚きを隠せないようだった。
(まあ自分も同じ心境なんだけどね)
部屋のベッドで寝っ転がりながら天井を見上げる。その時、メールの届いた音がした。自分はスマホを取り画面を見る。
【明日。8時に店に来るように。近藤】
土曜日のせいかいつもより人が少ない歩道を歩く。今日は今朝方から雨の降る肌寒い日。自分は薄手のパーカーを羽織り、傘を差しながら店の前迄行く。昨夜メールの指示通り、指定した時間より10分程早めに到着した。自分は大きく息を吐き、店内に足を踏み入れる。
「おはようございます」
すると、近藤が視界に入ると同時に、2人の見たことのない男性が居た。自分の記憶を辿っても出会った事のない人物。そんな思考を巡らせている時だ。
「都築こちらに来い」
相変わらずの強い口調で自分を呼ぶと3人のいる場所まで足を運ぶ。すると、1人は白髪交じりの優しげな老人が、紺スーツを着て立っており、その隣にはカウンターで紅茶を飲んでいる人物が、こちらを見た。オールバックにた黒髪に端正な顔立ちに、グレーのスリーピースのスーツ。巷でいう、イケオジである。ただ格好からして、偉い人なのは間違いないと感じると同時に、ピリリとした空気が漂い、自分を思わず背筋を伸ばす。すると、ナイスミドルがこちらに鋭い眼光を向けると同じくして、口角を上げる。
「おはよう。都築君」
「おはようございす……」
この笑い顔とこの雰囲気がどこか感じた事のある感覚があったが、やはり今は体全体から感じる圧の方が勝っている為、これ以上の思考を巡らせる事は無理だ。すると、自分の背後に歩み寄っていた近藤が一回咳払いをした。
「こちらは、このカフェの親会社であるTITOKiコーポレーション会長の千納時忠義会長。そして秘書の基山さん」
一瞬息が止まり、すぐさま2人の方を見た。
(さっき感じた感覚、琉叶が最初に自分向けた視線と同じだったからか)
そう言われてみればどことなく、彼の雰囲気に似ているし、基山というワードも彼の口から聞いているわけで、明らかに目の前にいる人物達は琉叶の父と使用人。
(って事は、琉叶はこのカフェの経営者の跡取りってなるのか?)
今突きつけられた現実に愕然する中、琉叶父が再度自分を見た。
「都築君。今日は早朝からすまないが、色々と聞きたい事がりまして」
「はっい……」
「近藤店長からざっくりとした話しは聞きましたが、君からも話しを聞きたいんだが。単刀直入に聞く。君は両替を隠しのか?」
「い、いえ自分はやって、ません」
「嘘言えっ、なら何故あの場所にあると知っていたんだっ」
「近藤店長。私は君に聞いてるわけではないので黙っていてくれ。で、どうなんだ」
「そ、それは……」
言葉を探すも、何と言えばいいのだろう。本当の事を言って聞き入れてくれるのかもわからず、口を紡ぐ事暫し。
「では、質問を変えよう。どうしてあの部屋に入った」
「…… いつもの掃除の業者の人が、あの部屋にあるモップを回収したいと言っていて」
「成る程」
その時、いきなり勢いよく店のドアが空いたかと思った途端、息を切らしながら、琉叶が入店してきたとほぼ同時に、こちらに歩いて来ると、自分の前に立つ。すると視界には彼の背中が視界に飛び込む。所々服が濡れ、透けている。先の感じだと雨具もそこそこに走って来たのだろう。そんな彼の姿に思わず胸が苦しくなると同じくして高揚感を感じ自分のパーカーの裾を握る。そんな中、彼は実父に視線を送り続けていた。
「父さん。優斗をどうするつもりですか?」
「何で琉叶がそんな事を聞く。第一お前は事情をわかっているのか?」
「ある程度は。基山さんから聞きました。俺が贔屓している場所なので。だからわかるんです。彼がこの仕事に信念を持ってやってる事も…… それに彼自身大きなトラブルを起こすような人間ではないっ、だから父さん。優斗をっ」
「琉叶。何か勘違いしてないか? 今の状況化において琉叶が意見を言える立場ではない。ましてや言ったとてそれが通るとでも思っているのか?」
冷静に発せられた言葉ではあるが、まるで刃物のような鋭さを感じ、背筋に冷たいモノが走った。その直後、目の前の琉叶がその場からいきなり立ち去り、外へ出て行ってしまったのだ。
「お、おいっ琉叶っ」
自分はすぐさま踵を返すと共に、背後にいる2人を見た。
「ちょ、ちょっとすいません」
傘立てには二本の傘。一本は自分、もう一本はきっと琉叶のであり、傘も差さずに出ていったようだ。
(何やってんだよっ)
店に半分濡れながら駆け込み、来たと思えば父に抗議する。
(自分の為にっ、あのバカっ)
憤りもあるが、それ以上に先より増した胸の高鳴り。
(どこいったんだよっ)
雨は尚もシトシトと降っている。自分は一回足を止め、焦る気持ちを落ち着かせつつ、思考を巡らせた。すると、ある場所が浮かんだのだ。自分はすぐさますぐさまその場所へと向かうべく、足を進める。途中の下り坂は雨の為に滑りやすくなっているので、気をつけながら階段を下りた。そして辿りついた場所は、みはらし公園だ。自分は一回回りを見渡すと、展望付近に雨に打たれ佇む琉叶が、視界に飛び込む。
「琉叶っ」
思わず叫ぶ。すると彼はゆっくりとこちらを振り向いた。雨で髪からいくつもの水滴が、彼の顔を伝い流れる。
「優斗」
ゆっくりと自分は近づき彼に傘を差す。
「琉叶。びしょ濡れだぜ。まあ、水も滴るいい男っていうけどな」
ただ、彼は何の反応もしない。自分は傘を一本たたみ、2人で傘に入ると共に、彼の腕を掴み、紅葉の木の下まで連れて行くと、傘を畳む。枝のお陰であまり濡れる事がなかったからだ。そんな彼は、全身雨で濡れ髪から未だに大粒の水の玉が何粒も落ちていた。自分は着ていパーカーを彼に被らせる。
「いくら夏だっていっても風邪引くって」
そう言い、自分は軽くパーカーで琉叶の体を拭くと共に、彼の顔を見た。琉叶は瞬きもせず、じっとこちらを見つめる。ただ、その瞳は雨のせいなのかわからないが潤んで見えた。自分は彼の顔をフードで優しく水滴を拭う。だが、彼の目頭から一筋の線。
「琉、叶……」
指でそれを再度拭き取ると彼ゆっくりと口を開く。
「俺、泣いて、いるのか……」
「…… 琉叶」
すると、彼の顔が徐々に切ない表情へと変わる。
「悔しいだっ、優斗が真摯に仕事に向き合ってる事をっ、俺はっ、知ってるからっ。それなのに、俺はっ、何も出来ないっ」
「琉叶……」
自分はパーカーの上から彼の両頬を包む。
「ありがとな琉叶。その気持ちだけで、すげーうれしいからっ」
そして自分はゆっくりと彼の額に自分の額をつけた。濡れて冷えた額が自分の高くなりつつある体温と混じり程良い暖かみを感じる中、自分はやんわりと笑みを浮かべる。
「だから、そんな顔すんなよ。自分まで哀しくなっちゃうからさ」
雨が葉に当たる音が耳に届く中、自分は琉叶の顔を掴んだまま、立ち尽くす。そんな自分に彼は何も言わず、身を任せていた。
(また見たことない琉叶が見れたな)
しかも彼自身の事でなく自分の為にここまで思ってくれたのだから…… 暫くこのまま彼のその思いの余韻を味わいたいと思ってしまう。その矢先、スマホが鳴る。ゆっくりと彼の頬から手を離し、スマホを見ると、店の電話番号だった。名残惜しさを抱きながら、電話に出る。
