「都築が最初に選んでくれたようなマグカップが買えたな」
「あれ、なかなかいい感じだったし、結構たっぷり飲める形状だけど、千納時カフェイン取りすぎんなよ」
「ははは。それは基山さんにも言われてる」
あの後、どうにか似たような形状で手頃な商品を見つけ購入し、店を後にした。勿論オーナーのコーヒーを飲ませて貰ったが、サービスというレベルのコーヒーではなく琉叶の言った通り、本格的な良い味わいだった。自分的にはオーナーの方がうまく感じたくがらいだ。それこそ、人にコーヒーを淹れる事があっても、自分はあえて飲みに行く機会もない。また、あんな店雰囲気の店に行く事はまずないわけである意味良い刺激になった。
そんな思いが少し気持ちの高揚感として現れ、彼とのトークは盛り上がり、歩いて帰宅する事にした。量販店は自分の働くカフェからも近く、自分と千納時はその途中の道で別れる感じなのだ。ただ、少し坂なのが難儀である。その帰路の途中で、千納時がいきなり足を止めた。
「寄り道しないか?」
それは細く、丘の側面を歩くような外側に手すりのある坂道であり、2人並べば埋まる広さだ。ここから見てもかなりの坂道であり、使った事がない。だが、店に向かう時や、アパートに帰る時にはショートカットにはなりそうな雰囲気である。
「良いけど」
そう言い上っていく。やはり見た目通り急な坂であり、息が上がる。それ以上に真横が手すりがあるといえ、コンクリートで固められた絶壁で、民家の屋根が眼下に広がる状態なのだ。まず落ちたら怪我だけはすまない状況であり、高所恐怖症の人は足が竦むような感じに自分も気を張る。そんな中、視界に少し開けた場所がある事に気づく。息を整えつつ、その場所に辿りついた所で、再度周りを見渡す。するとそこには芝生に紅葉の木が植えられその根本には『みはらし公園』と書かれた看板。まあ確かにちょっとした遊具やベンチもあり、広さはないが公園といば公園なのかもしれない。そんな事を思っていると、千納時が自分の名を呼び、彼の方へと赴く。すると、眼の前に街が広がっていたのだ。確かにかなり登ってきたので、街並みを上から見えるのは理解出来るが、思っていた以上に圧巻の風景だった為、手すりに捕まり見入る。
「ここ、俺のお気に入りだんだ。あの道、坂が急であまり使う人がいなから、この場所知らない人がほとんどって感じなんだろうけど」
「確かに。あの坂きつかったな。でもこの風景見たら疲れ吹っ飛んだっ」
「だろ。あの坂登った人のご褒美的な場所。まあ実際は休憩場所かな、後もうちょっと登らないといけない」
「そっか。だとしても、この風景見れれば良いんじゃね。自分は大満足。でも良かったのか、千納時。お気に入りの場所自分教えちゃってさ」
「勿論。っと言うか…… 君だから知って欲しかった。俺の取り囲む殆どの人達は俺を変に買いかぶり過ぎて、本音を言ってくれないから。でも君は違う。俺を俺として見てくれてちゃんとぶつかってきてくれるだろ。だから、俺の事をもっと見て知って欲しいって思った。優斗。君に……」
どんな顔をして彼は言っているのだろうか? ただ、とてつもない事を言われている事だけはわかる。心臓が破裂するのではないかというぐらいの勢いで脳天まで響く鼓動。そしてそれに紛れてしまっているが、日溜まりのような暖かなうれしさが入り交じる。そんな心中を知る由もない彼は言葉を続ける。
「ただ、俺のこの思いは一方的で、きっと…… 友達以上の感情だと思う。でもその全てを君に受け止めてもらおうとは思わないし、返事も不要。だから安心して」
すると自分の毛先を触りつつ、頬に振れた。思わず千納時を見ると満面の笑みを浮かべ彼が、頬をゆっくり触りつつ、後頭部まで手を伸ばした所で、数回勢いよく自分の頭を撫で、髪をぐちゃぐちゃにする。
「な、何すんだよっ」
「一回やってみたかったんだ。優斗の髪。凄く触り心地良さそうだったから」
「もうっ、やめろよーー」
そう言い、横を向きつつ片方の腕で隠れるわけもない顔を隠す。そして彼の肩を軽くどつく。きっと顔は真っ赤だろう。ただもう日暮れを迎え周りが橙色に染まっているので、もし彼に突っ込まれたら、そのせいにしようと思った。
