(誰もいなかったからって、サラっと名前言うなよ)
未だに少し鼓動が早い中、自分は彼の隣で歩道を歩く。途中までは大通りに面していたせいもあり多くの人が行き交っていたが、今は横道に入ったせいか、人も疎らだ。ただ、自分はあまりこない場所の為、周りを見回す。
「なあ、さっきも聞いたけど、どこ行くか教えろよっ」
「ここだけど」
「へ?」
いきなりの目的地到着で、思わず変な声をあげると同時に目の前の店を見る。古びた洋館の建物であり非常に赴きがある外装で、小さな立て看板には『幸香堂』という名が記載されていた。ただ敷居が高く感じられ、自分がもし1人で歩いていても入店する感じにはなれない。すると、琉叶が躊躇する事なく、ドアを開けた。
「お、おいっ」
「どうした?」
「い、いや、ここ入って良いのか?」
「勿論。きっと都築も興味持つ筈だ」
すると微かにコーヒーの匂いがしたのだ。自分はその匂いと彼の言葉に促され、恐る恐る薄暗い店内に足を踏み入れた直後、息を飲む。
「ここ…… って?」
外観で抱いたイメージ通りの重厚でクラシカルな店内。年期の入った家具が、センス良く配置され、店内中央に木製のショーケース、壁には棚があり、ティーカップやマグカップなどが陳列されていた。そして奥には初老がこちらを見て頭を下げると、コーヒーを淹れていたのだ。
「ここ、喫茶店…… ではないよな……」
「確かに。オーナーがコーヒー淹れてるからそう思っちゃうかもしれないけど違う。カップ専門店」
「はあ…… こんな店あるんだ、すげーー 結構いろんなカップあって面白いな」
「ここのオーナー海外からも買い付けしてるから、個性的な商品が多くてね。選べる種類があった方が良いだろう?」
「確かに。でもなんでコーヒー淹れてんだ?」
「ああ。購入してくれた客にオーナーが振る舞ってる」
「へーー そうなんだ。結構本格的に淹れてるよな」
「ああ。美味しいね」
するといきなり、彼が自分の耳元に近づく。
「でも、都築の方が淹れ方はうまい」
「はあ?」
思わず大きめの声が出てしまい、すぐさま口を紡ぐ。相変わらずの彼行動に、落ち着き始めていた胸の高鳴りが一気に上昇するも、彼はそんな事はお構いなしといった感じで、店内を見渡し始めた。
(全く何なんだよーー)
一々反応していては通常生活に支障をきたすのは理解出来ているが、わかっていても、なかなか割り切れない。だが、自分なりに平常心を装う。
「っで、結局ここに何しに来たんだよっ」
「家で使うカップを新調したくてね。それを都築に選んで欲しいんだ」
「自分が千納時のを選ぶのか?」
「ああ。俺が選ぶといつも同じような物になってしまうから」
「ふーん。まあそれはあるかもしんねーけど、自分が選んだので良いわけ本当に」
「構わない」
「わかった」
そして自分は周りを見渡す。
「千納時は日頃どんなの使ってんだ?」
「ソーサーセットだな」
「家でもソーサー使ってのかよ」
「ああ。でも、高校に入ってからは飲む回数も増えたせいかマグカップでも良いように感じているだが」
「うんーー じゃあそうだな。店だと白基調だし、これ良いんじゃね。シンプルな形だし模様も派手じゃない。色もモカ色で気軽に飲めそう」
「クロニーデンか」
「メーカー名?」
「ああ。デンマークの工房だが、閉釜した」
「うん? ちょっと待て閉釜ってっ、いくらだよっ」
慌てて値札を見ると、マグカップとは思えない値段に驚愕し、ゆっくりと品を置く。
「違うの選ぶ」
「さっきので良いけど」
「はあ? 千納時は良いかもしんねーけど、自分のポリシーに反するからナシ。だいたいちゃんと就職してから買う代物だからな。まあだからって、学生だから高価な物使っちゃいけねーわけじゃあねえけど、今だから楽しめる物もるし。第一に自分的にはうまいコーヒーを気軽に飲んで貰いたい」
すると、千納時が自分をじっと見つめたかと思うと、クスリと笑う。
「そうか。ならまたの機会にする」
「うんそうしよう、いやそうしてもらわないと自分が困る。流石にあの値段のやつ買わせるの嫌だからな」
そして自分は再度、品物を物色するも、値段を確認してから彼に薦める事に決めた。
未だに少し鼓動が早い中、自分は彼の隣で歩道を歩く。途中までは大通りに面していたせいもあり多くの人が行き交っていたが、今は横道に入ったせいか、人も疎らだ。ただ、自分はあまりこない場所の為、周りを見回す。
「なあ、さっきも聞いたけど、どこ行くか教えろよっ」
「ここだけど」
「へ?」
いきなりの目的地到着で、思わず変な声をあげると同時に目の前の店を見る。古びた洋館の建物であり非常に赴きがある外装で、小さな立て看板には『幸香堂』という名が記載されていた。ただ敷居が高く感じられ、自分がもし1人で歩いていても入店する感じにはなれない。すると、琉叶が躊躇する事なく、ドアを開けた。
「お、おいっ」
「どうした?」
「い、いや、ここ入って良いのか?」
「勿論。きっと都築も興味持つ筈だ」
すると微かにコーヒーの匂いがしたのだ。自分はその匂いと彼の言葉に促され、恐る恐る薄暗い店内に足を踏み入れた直後、息を飲む。
「ここ…… って?」
外観で抱いたイメージ通りの重厚でクラシカルな店内。年期の入った家具が、センス良く配置され、店内中央に木製のショーケース、壁には棚があり、ティーカップやマグカップなどが陳列されていた。そして奥には初老がこちらを見て頭を下げると、コーヒーを淹れていたのだ。
「ここ、喫茶店…… ではないよな……」
「確かに。オーナーがコーヒー淹れてるからそう思っちゃうかもしれないけど違う。カップ専門店」
「はあ…… こんな店あるんだ、すげーー 結構いろんなカップあって面白いな」
「ここのオーナー海外からも買い付けしてるから、個性的な商品が多くてね。選べる種類があった方が良いだろう?」
「確かに。でもなんでコーヒー淹れてんだ?」
「ああ。購入してくれた客にオーナーが振る舞ってる」
「へーー そうなんだ。結構本格的に淹れてるよな」
「ああ。美味しいね」
するといきなり、彼が自分の耳元に近づく。
「でも、都築の方が淹れ方はうまい」
「はあ?」
思わず大きめの声が出てしまい、すぐさま口を紡ぐ。相変わらずの彼行動に、落ち着き始めていた胸の高鳴りが一気に上昇するも、彼はそんな事はお構いなしといった感じで、店内を見渡し始めた。
(全く何なんだよーー)
一々反応していては通常生活に支障をきたすのは理解出来ているが、わかっていても、なかなか割り切れない。だが、自分なりに平常心を装う。
「っで、結局ここに何しに来たんだよっ」
「家で使うカップを新調したくてね。それを都築に選んで欲しいんだ」
「自分が千納時のを選ぶのか?」
「ああ。俺が選ぶといつも同じような物になってしまうから」
「ふーん。まあそれはあるかもしんねーけど、自分が選んだので良いわけ本当に」
「構わない」
「わかった」
そして自分は周りを見渡す。
「千納時は日頃どんなの使ってんだ?」
「ソーサーセットだな」
「家でもソーサー使ってのかよ」
「ああ。でも、高校に入ってからは飲む回数も増えたせいかマグカップでも良いように感じているだが」
「うんーー じゃあそうだな。店だと白基調だし、これ良いんじゃね。シンプルな形だし模様も派手じゃない。色もモカ色で気軽に飲めそう」
「クロニーデンか」
「メーカー名?」
「ああ。デンマークの工房だが、閉釜した」
「うん? ちょっと待て閉釜ってっ、いくらだよっ」
慌てて値札を見ると、マグカップとは思えない値段に驚愕し、ゆっくりと品を置く。
「違うの選ぶ」
「さっきので良いけど」
「はあ? 千納時は良いかもしんねーけど、自分のポリシーに反するからナシ。だいたいちゃんと就職してから買う代物だからな。まあだからって、学生だから高価な物使っちゃいけねーわけじゃあねえけど、今だから楽しめる物もるし。第一に自分的にはうまいコーヒーを気軽に飲んで貰いたい」
すると、千納時が自分をじっと見つめたかと思うと、クスリと笑う。
「そうか。ならまたの機会にする」
「うんそうしよう、いやそうしてもらわないと自分が困る。流石にあの値段のやつ買わせるの嫌だからな」
そして自分は再度、品物を物色するも、値段を確認してから彼に薦める事に決めた。
