夏休みに突入している午後の町中はやはり行き交う人も多い。そんな状況もあり、なかなか思うように進めず、気持ちは焦っていた。というのも、琉叶と仕事帰りに待ち合わせをし買い物に行く運びになったからだ。何故そんな事になってしまったかと言うと、海の家のバイトの帰りにアパートの電気系統の故障の関係で、家で使っていた家電のいくつかが調子が悪くなってしまったのである。なので買いに行く予定だった矢先、いつものように、カフェに来ていた琉叶がその件について聞いてきたのだ。なのでそのままの話した所、彼自身ノートパソコンを購入したいと思っていたとの事。そんな背景から家電を一緒に買いに行く話になり、今に至るわけだが、約束の時間を5分程オーバーしていた。勿論遅れる事を彼に知らしてはいるが、働いているからといって、自分の希望に合わせてもらったのにも関わらず、遅刻は良くない。

(琉叶に久々に嫌み節を言われるかもっ)

 だが、それ以上に彼との約束を守れない自分が嫌なのだ。

(とりあえず、早く合流っ)

 小走りで待ち合わせ場所である、大型家電店へと急ぐ。すると、店の前にある、街路樹の前でスマホを見ている琉叶の姿が視界に入った。自分は彼の前へと直行し、少し上がる息を整える。

「わりーー 千納時っ、約束の時間遅れたっ」
「いや。問題ない」

 すると彼はいつものようにやんわりと笑う。最近見慣れてしまった彼の笑みだが、注視してみると、自分意外にはあまりしない表情だとはっきりしてきた。またそんな状況化での先日の寝顔である。なるべく顔に出さないようにはしているものの、気恥ずかしさを感じ彼からの視線を少々拗ねたような表情を浮かべて見せた。

「そ、そっか。じゃあ早速行こうぜ」
「そうだな。凡に都築は何買うんだい?」
「オーブントースターと、ドライヤーかな。千納時はパソコンだよな」
「ああ。ある程度目星をつけあるから、終わったら都築の所に行く」
「わかった。じゃあそういう流れで」

 自分達はその後、店に入店すると、各々の目的をのフロアに向かった。久々の家電選びと同時に、機能の充実具合に驚き吟味する。と、横に人影を感じ視線を向けた。

「どう、良いのあった?」
「はやっ、それとも結構時間経ってた?」
「いや、俺のはほぼ決まってたから」
「だとしても早いってっ、まだ自分ラインナップだって見終わってねーしっ」
「良いよ。そんなに慌てなくて。この後お互い何もないんだし。ゆっくり探せば。俺もそのつもりで来てるし気にかける事ない」
「わ、わかった。あんがとな千納時」

 そして、ほぼ彼同伴で、家電を選ぶ運びとなった。様々な機能に感心する自分に、彼はそれに説明を加えたりと、実に有意義な時間であり、千納時の助言が物を言い、良い買い物が出来た。互いに手に荷物を持つ中で、整える為、店内の休憩所に向かう。そこには丸いテーブルと椅子が数カ所置かれており、運良く誰もいない。自分達はそんな空間で荷物整理をしつつ、腰を下ろす。

「有り難う。助かったわーー これで髪の毛ちゃんと乾かせるっ」
「使えない時はどうしてたんだ?」
「天然乾燥。かーちゃんはすげー大変そうだったな。妹は朝、髪とかしてどうにかなったけど。まあ自分もくせっ毛ぽいとこあるからさ。今日も、この横の辺り変に跳ねててヤバくね?」

 自分は寝くせ付近を指差す。すると、彼は暫しじっと見た途端、その部分を彼の指先で弾くように触る。

「そうか? 俺はそんなに気にならない。元からこんな感じもあるからな」
「お、おいっ、いきなり何すんだよっ」
「悪気はないから」
「そりゃわかってるっ」
「思わず触りたくなった」
「っっ、あっ、もうっ」

 赤面しつつ、視線を落とす。まともに見れない自分に、自分の後頭部からクスリと笑う千納時の声が聞こえる。

「もしかて、照れてる?」
「べ、別に照れてなんかねーし」
「そう言う事にしておくよ」

 自分は顔を反らしたまま、未だに毛先を触る彼の手首を握り、ゆっくりと自分の頭部から離し、千納時の手首を解放した。その直後、千納時が自分の名を呼んだ。
「何だよっ」
「どうする。思ったより早く終わってしまったが」
「どうするって言ってもなーー 自分の用件は終わっし」
「うんーー 少し行きたい場所があるんだがつきあってくれないか?」
「良いぜ」

 すると、彼は笑みを浮かべる。

「じゃあ行こう。優斗」