その後はチェックアウトの客も収まり、自分達は民宿に荷物起き、早速海の家を設営作業に入った。まあ、初めての事とはいえ、伸也がいる事で思っていた以上に早めに海の家が完成した。自分等は一息つくものの、天気も良く、多くの人が砂浜に来ていた事もあり、開店を早める事になったのだ。
 案の定店は絶え間なく客が来店し、落ちつき始めたのは15時を回っていた。ただ、お祭りは夜であり、また忙しくなる。つかの間の休憩を順次取る事になったのだ。飲み物と、海の家で提供している焼きそばを手にし、休んでいた角俣と、住川の所へと赴く。

「すげーな海の家って」
「お疲れ様です。都築君」
「おーー 大変だっただろ」
「ほんと疲れたマジで」

 角俣が椅子を引いてくれたので、そこに腰を下ろす。すると、足がズンといきなり重たく感じた。先までずっと立ちっぱなしの上に、やり慣れない作業が多かったせいかもしれない。自分はペットボトルを開け、口に含む。

「いやーー 海の家って大変なんだな」
「うむ。今年は天気も良いので人出が多い。しかし、都築といい、橘、田沢は改めて凄いな。俺等より先に本格的に社会で活躍してる事もあって、手際が全く違う」
「本当。それは思う。でも最初はイメージ専攻してたせいで、三人に酷い事言ったりして…… 改めて人は見た目とか多少の言葉使いで判断しちゃいけないよねって思う」
「そう思ってくれるだけでも嬉しいっす」
「はははは。そうだな。互いに良い傾向だと思う。なあ住川」

 高笑いをする、角俣が彼女に視線を送る。が、隣に座る住川は振り向き海の家の会計の方を見ており、レジ対応をしているのは琉叶であった。その様子を伺う事暫し。彼女の表情は見えないが、尚も彼を目視している。まあ異性にモテる事は理解している。それは身近な異性でも変わる事のない。ただ、胸の奥に毛糸が絡まったような感覚を覚える自分いるのだ。理解に苦しむ中、彼女が慌ててこちらを向いた。

「ご、御免なさい」
「どうかしたか住川」
「い、いやそのっ、さっき見た目云々の話しをしたばかりなのにとはお思ったんですけど、やっぱり気になってしまって」
「千納時学年委員長?」
「はい。千納時君こういうの好んで出るような人じゃないと思っていたから、意外というか」
「確かに。俺も声をかけたが承諾してくれるとは実は思っていなかった。ただ、やはり彼は凄いな。ああやって何でもこなしてしまう」
「本当に。私達と同じ高校生とは思えないぐらいに」
「…… 千納時は自分等と同じ高校生っすよ」
「うん? 都築聞き取れなかったが?」

 思わず口走ってしまった。確かに琉叶は自分等よりも大人びている。でも少し拗ねてみたり、楽しそうに笑う彼がいるのだ。決して完璧に見えていても、彼もまた自分達の変わらない。それを目の当たりしているせいか、琉叶が変に崇められているのがどうも腑に落ちず、思わず発してしまった。

「い、いや、ははは。何でもないかなーー あ、そうだ角俣。祭りってどんな感じなの?」
「確か夕方ぐらいから地区の御輿が浜辺を練り歩いてから、海に灯篭を流して終了だ。まあ灯篭も環境に配慮した回収不要の物を使用している」
「おおーー 今時だな。っていうか灯篭流し初めてだぜ」
「私も」
「うむ。願い事を書く場所もあるからな。まあ楽しみにしていてくれ。と言うことで、都築俺等は先行くぞ」
「おう。自分ももう少し休んだら行くわ」

 そう言い、2人は席を立ちその場から離れていく。一人になった自分は白波立つ、海を見つめる。

(願い事かーー 何て書こう)

 すると朧気に浮かんだのは琉叶の屈託のない笑顔だった。思わず溜息をつく。やはり日頃のギャップがありすぎて少し絆されている所もあるのだろうか……

(でもどうして琉叶の笑い顔なんだよ)

 自分は再度深く息を吐いた。