「いやはや今日はすまない。5人共」
「気にすんなって角俣。っていうか俺的には感謝しかねーけど。こんな事ない限り海なんて来れねーし。なあ優斗」
「そうそう。でも、今回はいいのか? 角俣の叔父さんの民宿で一泊すんだぜ。しかも三食と、バイト代に最低でも二部屋埋まっちゃうけど」
「何を言っている都築。今回はこちらから住み込みバイトをお願いしている上に、バイト代は雀の涙程度しか提示してないのに来てくれたんだ。気にかける事ない」
「ならいーけど。まあせっかくの海来たことだしバイト終わったら海いこうーぜ」
『賛成!!』

 堂鈴祭も無事終わり、期末テストも乗り切り一ヶ月も経たずして夏休みに突入して一週間。自分は、角俣の親戚が経営している海岸沿いにある眼下に浜辺が広がる民宿の前で、全日、定時役員の全メンバーで訪れている。今は丁度チェックアウトの時間と重なってしまった為、客がフロントにごったかえしており、それが落ちつてから中に入る事にしたのだ。文化祭以降役員同士は最初の険悪感が嘘のように払拭され、普通に話し、互いで遊びに言ったりLINEで連絡を個々に取ってる。

(なんかちょっと嬉しいよな。最初が酷かったせいか)

 まあそんな間柄になった事で今回角俣が皆に話を持ちかけてきたのだ。それが、この周辺地区のお祭り限定で海の家を親戚がやるので手伝ってほしいという案件。毎年お手伝いしてくれるおばちゃん達が軒並み都合が悪くなってしまった為、困った親戚が角俣家に話をもちかけたようなのだ。まあ休みに入ると、大抵フルに働く感じになってしまうので、海とかで楽しむ時間がない。なので今回はある意味ご褒美に近い。

(今日、明日と天気も良さそうだし。海満喫するぜ!!)

 思いっきり両手を伸ばし、大きく息を吸う。その時自分の背後から女性客達の甲高い声が聞こえ思わず振り向く。すると、数人の女性に琉叶が囲まれ、色々と聞かれている。私服の琉叶は白のTシャツに紺のジャケットにチノパンスタイルで非常に落ち着いた好青年風であり、長身故に彼女達より頭一つ出ているせいで、表情が目視出来る状況だ。そんな彼は常日頃から繰り出されている営業スマイルで、女性陣をあしらっていた。自分は苦笑いを浮かべ、その情景を見てると、背後から伸也が自分の肩に手を置いた。

「羨ましい光景だよなーー っていうか何であいつだけモテんだよ!! おかしくね? しかも女子大生だよなぜってーにっ」
「じゃねえ? 民宿から出てきた客だし」
「なんだよーー おい、角俣っ、同性としてどうなんだ、っていうかあのハーレムの中心って学年長だろ? 二年生の長があれってやばいだろ?」
「そうか。まあ千納時学年長は老若男女関係なく、人を惹きつけるオーラがあるからな。うん。そうだ、海の家では客引きを学年長に頼もう」
「おい、俺の言ってる趣旨と変わってきてるぞ角俣ーー」
「ちったー落ち着けよ伸。気持ちは多少わかるかさ」
「多少かよっ。俺と優の仲だろ?」
「どんな仲だい?」

 自分の背後から声がしたと思いきや話にいきなり琉叶が入っていたのだ。すると、再度伸也に彼が問う。

「で、まず仲のいい基準は何? 橘は都築の事どのくらい知り得てるのかな?」
「何小難しい事言ってんだよっ、仲は仲に決まってるだろ?」
「あああっもう、それよりも、千納時。女性陣はどうなったんだよ?」
「帰っていったよ。思ったよりも話が長くなってしまってね」
「そりゃあーー あれだけ女子大生にちやほやされたら話も盛り上がるよな」
「いや、俺はすぐにでも終わりにしたかったが、あまり無碍な事をして民宿に泊まりに来てくれなくなると困るからね」
「橘。これは一本取られたな」
「角俣。お前っとこの長やっぱ俺とは馬合わねーー」

 その言葉に高笑いをする角俣に肩を叩かれた伸也が民宿の方へと歩き出す。肩を落とす彼の姿を笑みを浮かべ見つめていると、琉叶が自分の隣に立つ。

「賑やかな二日間になりそうだな。優斗」
「お、おいっ、名前呼びは2人の時にっていう話になっただろっ」
「周りには誰もいないけど?」
「だからってっ、これだけ人がいるんだぞっ。誰が聞いていてもおかしくないしっ」

 流石に周りに居ないとて、何の拍子で耳にはいるかわからないし、やはり気恥ずかしくてたまらないのだ。それは琉叶の名前呼びの定義を聞いてしまったのだから尚の事。自分は慌てて周りを見渡す。すると彼はどこかもの悲しそうな表情を浮かべる。

「…… そうだな。以後気をつける」

 そう言い彼は歩き出すも、先程の表情を見た後のせいだろうか。琉叶の背が何故だか哀しげに見えた。