アルバム裏表紙に刷られていた「撮影:星野写真館」。

私はそこを訪ね、店主の田中陽介さん(68)に話を聞いた。

「これ、私の高校の卒アルなんですけど……同級生から合成じゃないかって言われたんです」

アルバムを差し出すと、彼はゆっくりと首を横に振った。

「合成なんてしないよ。卒業式は儀式だ。
 人数の空白があれば、列をずらして整える。それが私らの仕事だ」

しばらく、部屋にはページをめくる音だけが響いていた。

「このときのこと、覚えてますか」

「もちろん。活発な子が多かったね。みんなふざけて、表情も姿勢もなかなか揃わなかった」

「そういえば、そんなだったかも……。その節は、すみませんでした」

「いいんだよ。元気が一番」

彼は豪快に笑ったが、突然、表情を失った。

「……この子は知らないね」

三輪の写ったページだ。

「やっぱり、田中さんもご存知ないんですね」

「ああ。見覚えがない」

そう言ったあと、声を落とした。

「でもな、お嬢さん。気づいたのなら、気をつけなさい」
「えっ……」
「空白は、誰かに埋められるものだから」

たちまち険しい顔つきに変わり、帰るように促されてしまった。

田中さんは、何かを知っている?

違和感がしこりのように胸に残って、その夜はうまく眠れなかった。