君がいた世界の色

陽菜の笑顔は、まだどこか眩しかった。

 だけど、その背後には、誰にも見えない影がじわじわと広がっていた。



「陽菜、大丈夫?」

 教室の帰り道、葵はふと振り返った。陽菜は歩く速度を少し落としている。



 「うん、なんでもないよ。」

 陽菜はそう言って微笑んだ。

 けれど、その笑顔の裏側には、胸の奥でじわじわと広がる鈍い痛みが隠れていた。



 学校の授業中、彼女の手が机の上でわずかに震えるのを、葵は見逃さなかった。

 その時、陽菜の瞳はどこか遠くを見つめているようで、まるで今ここにいないかのようだった。



 廊下の隅で陽菜は壁にもたれ、深く息を吸い込んだ。

「こんなことで負けられない⋯⋯」

 彼女の小さな声が風に消えていく。



 その日から、陽菜の様子は少しずつ変わっていった。

 夜になると、ベッドの中で何度も寝返りを打ち、汗をかきながら目を覚ます。



 「葵⋯⋯」

 ある晩、陽菜が震える声で呼んだ。

 葵は飛び起きて彼女の隣に寄り添う。



「大丈夫、何かあった?」



「胸が痛いの⋯⋯息がしにくい⋯⋯」

 陽菜は目を閉じて苦しそうに呼吸を整えようとしている。



 葵は焦りながらも、優しく陽菜の手を握った。

「病院に行こう。ちゃんと調べてもらわないと⋯⋯」



 けれど陽菜は首を振る。

「怖いんだよ⋯⋯また悪いことが見つかったらどうしようって⋯⋯」



「俺がついてる。怖くないよ。」

 葵は必死に声を震わせながら言った。



 それから数日、陽菜は登校するとすぐに疲れた様子を見せるようになった。

 廊下で誰かと話す元気もなく、授業中は時折うつむいて目を閉じていた。



 そんな陽菜を見て、クラスメイトの間でも噂が広がった。



「あの子、病気なのかな?」

「最近、顔色悪いよね。」



 そんな視線に、陽菜はまた胸を締めつけられた。



 



 ある日の放課後、体育館で陽菜と葵は話していた。

「葵、私、もう限界かもしれない⋯⋯」

 陽菜の声は震えていた。



「そんなこと言わないで。俺たちは一緒だろ?」

 葵は強く陽菜の手を握り返す。



「でも、苦しいんだよ⋯⋯こんなに好きなのに、どうして体がついてこないの⋯⋯」

 涙がこぼれ落ちる。



 葵は言葉を失った。



 何もできない自分がもどかしかった。



 翌日、陽菜の容態はさらに悪化していた。

 授業中、急に胸を押さえて倒れ込む陽菜。

「陽菜!」

 葵は必死に支えながら叫んだ。



 すぐに保健室に運ばれ、先生たちも驚いた表情を見せていた。



 病院に駆けつける葵。

 陽菜の弱々しい手を握りしめながら。

「絶対に諦めない。陽菜、俺はずっと君のそばにいる。」



 陽菜は微かに目を開け、微笑んだ。

「ありがとう⋯⋯葵⋯⋯」



 そんな中、葵は心の中で誓った。

 どんな困難が待っていても、陽菜を守り抜くと。