君がいた世界の色

月曜日の朝、学校に着くと、すでに俺たちの関係はみんなの知るところになっていた。

「お前、梛川と付き合ってるんだってな」

 クラスメイトたちの視線が一斉に俺に向けられ、まるで透明人間だった俺が突然スポットライトを浴びているようだった。



 陽菜は隣で少し微笑んでいるけれど、その目の奥には、不安や緊張が隠せないのが分かる。



 昼休み、いつもなら陽菜と話す時間が楽しみだったのに、今日は何かが違う。

 教室の外に出ると、背後から呼び止められた。

「西村、体育館の倉庫に来い」

 その声は冷たく、拒否する余地はなかった。



 倉庫に足を踏み入れると、待っていたのは坂口だった。



 彼の目は怒りで燃えていて、俺の存在を許せないかのように睨みつけていた。



「お前、陽菜に近づくなよ」

 その一言は重く、俺の胸にずしりと響いた。



 坂口が一歩踏み出し、腕を振り上げた。



 だけど、その瞬間。

 強い力が坂口の腕を掴んだ。



「やめろ」



 冷静で揺るぎない声。あのネッ友だった。

 その言葉には、俺にはない強さがあった。



 ネッ友の目は真剣そのもので、坂口に向けられている。

「騒ぎを大きくするな」



 坂口は一瞬、動きを止めてその声に釘付けになった。

「⋯⋯お前は誰だ」



 ネッ友はゆっくりと答えた。

「俺は、葵の友達だ」



 その言葉が、まるで盾のように俺を守ってくれている気がした。



 倉庫の冷たい空気の中、ネッ友は続けた。

「陽菜も葵も、誰にも傷つけさせない」



 その言葉に、俺の胸の奥にずっと閉じ込めていた何かが溶けていくのを感じた。



 坂口の目が揺れた。

 彼もまた、本当は強さの中に弱さを隠しているのかもしれない。



 静かな時間が流れ、坂口はため息をついて背を向けた。

「今回だけは勘弁してやる」



 ネッ友は腕を離し、俺の肩を軽く叩いた。

「大丈夫か?」



 俺はうなずいた。

「ありがとう、助かったよ」



「葵、お前は1人じゃない」

 そう言って、ネッ友は静かにその場を去った。

 その背中を見送りながら、俺は初めて自分は1人じゃない。心からそう思えた。



 倉庫での出来事から数日が過ぎた。

 学校の廊下を歩くと、誰かの視線を強く感じる。

 あのネッ友のことだった。

 名前も顔も知らないけれど、あの時、俺を守ってくれた彼は確かにここにいる。



 授業中、ふと窓の外を見ていると、視線が合った。

 その瞬間、何かが心の中で繋がった気がした。



「お前か……」

 俺は心の中で呟いた。



 放課後、陽菜と校庭のベンチで話していると、ふいに携帯が鳴った。

 画面には見覚えのない番号。

 メッセージが届いていた。



『気にするな。俺がいる。』

 その一言で、心が軽くなった。



 陽菜も、俺も、もう怖くない。



「葵、もっと自信持っていいんだよ」

 陽菜の笑顔が眩しくて、胸が熱くなる。



「ありがとう、陽菜」



 俺たちはゆっくりと手をつなぎ、未来へ歩き始めた。

 ⋯⋯。



 その夜、俺はふと思った。

「ネッ友は、いったい誰なんだろう?」

 けれど、今はそれよりも、大切な人を守る強さを身につけたい。

 そう決めた。



 これからも、2人で⋯⋯。