僕の明日が、きみで満たされますように。

あれから、もう2年が過ぎた。

 桜がまた、あの季節を連れてくる。



 今日は、高校の卒業式。



 僕は朝、鏡の前でネクタイを締めながら、小さく深呼吸をした。

 制服姿のまま、そっと机の引き出しを開ける。

 中にある、1枚の写真あの日、笑っていた陽菜。



「一緒に、卒業しよう」

 僕はその写真を、胸ポケットにしまい、家を出た。



 卒業証書を受け取るとき、自然と陽菜の姿を探していた。

 いないはずなのに、いる気がしてならなかった。



 陽菜が通っていた教室、歩いていた廊下、校庭。

 春風が吹き抜けるたび、彼女の声がどこかから聞こえてくるようだった。



 卒業式が終わって、校門の前で写真を撮った。

 ポケットから陽菜の写真を取り出し、そっとカメラの前に掲げる。



 陽菜の笑顔と、僕の笑顔。

 並んで写ったその1枚は、もう二度と増えることはない。



 だけど。

 それでもいいと、今の僕は思える。



 帰宅後、部屋に置かれた自分が気持ち込めて作った陽菜の人形を見つめる。

 ふと目が合った気がして、思わず。

 「ただいま」

 って言った。



 返事はない。けれど、心はなぜかあたたかい。



 僕は引き出しから、陽菜の日記帳を取り出す。



 最後のページ。

 そこに、陽菜の文字でこう書かれていた。

 「この物語の結末は、きっと葵が書いてくれる」



 僕はその下に、静かにペンを置いた。

 

 君と僕で書いた物語。

 やっと、最後までたどり着けたよ。

 陽菜、ありがとう。

 この物語は、ふたりの物語。

 君がいたから、僕はここまで来られた。

 そして今でも世界でいちばん、愛してる。



 書き終えたとき、ページの隅に、涙のあとがにじんでいた。



 窓の外では、夕陽がそっと沈もうとしていた。

 淡いオレンジ色の光が、部屋を静かに染めてゆく。



 僕は立ち上がり、そっと部屋を出た。



 ドアを閉める音が、小さく響いた。

 それきり、誰もいない部屋に、ただ陽菜の人形だけが残った。



 薄くなった夕暮れの空。

 窓の外で、ひらりと桜の花びらが舞い落ちる。



 ページを閉じるように。君が笑ってくれるように。



 何度生まれ変わっても、たぶん、僕はまた君を探してしまう。



 部屋を出るとき、僕は君の人形に声をかけた。

「陽菜⋯⋯君は、ほんとに……太陽みたいな人だったな⋯⋯」



 「また会おう、約束な⋯⋯」

 そう言いながら、僕は小さく笑った。