「…鬼が魂ヲ食らうって。」

村の子ども達は集まると、口々にそういった。
…ぼっこ達は言う。

「…鬼なんかに恋するからだ!」

…村の二花(にに)は追いかけっこの
足を止めると、ぼっこ達の目をみた。

「…恋って、どういうこと?」

「…鬼は胆ワタ食い破るのに?」

くりっとした、大きな目の二花は言った。

ぼっこにお腹をぼこんと蹴られて、
その痛みで二花は急に泣きたくなった。

心配そうに花梨は二花の顔を覗き込む。

花化野の近くには、夕木瓜という村があった。

今の時季、村の鎮守の杜の夏祭りで
村主たちが家々を走り回っていた。

二人の様子をみて、水色の衣ヲ着た薫衣(くぬえ)は
ラベンダーの花を二花にあげてなぐさめた。

「…鬼との恋は魂食われるって言うぞ。」

薫衣はラベンダーの花をさわってそう言った。

…ぼっこは二花にだっこされると、
嬉しそうに笑って、

「…いらないよ、ばーか!」

って言って、栗に化けてドロンて消えた。

ぼっこの少しまぬけな
走ってゆく背中がみえる。

二花と背の低い花梨は落ちた栗を
拾って、薫衣と三人で分けわけにして、持ち帰った。

「…鬼との恋って?」

…ぼっこ達の声が木霊する。
…山の精霊たちの声が聞こえる。

「鬼との恋って?」
「鬼との恋って?」
「鬼との恋って?」

花朱火の霊は天狗に言うと、
パン!っとその実を割った。

……                      ……
 …                      …

花畑の広がる花化野のなかで、
美しい顔立ちに鬼だった花茨ノ君は

そこに、立っていた。

…ぼっこ達は気まぐれだ。

…ぼっこ達は目に見えない。

彼は〈精霊〉をみて、鬼を操る。

ぼっこ(子どもの妖怪)は彼に栗をぶつけると
しゃがみ込んで泣いたフリをしていた。

彼が栗を手に取ると、
ぼっこがぶつけ返す。

ぼっこは栗を手に取ると、
どこかに走り去って行ってしまった…。

……                      ……
 …                      …