…カチ。カチ。…カチ。カチ。
…白金の桜天秤が揺れる。
…〈花刻の疾風〉に運ばれて、
3.24㌘でくるくる桜天秤が揺れ止まった。
…3月24日…
澄み渡る花雲の間から花野山がまみゆ。
もなみは若宮と子らと別れ、花櫛笥と
懐紙をひとひら、花結した稲とを
平包みに入れると、杏ノ花屋敷の
くぐり戸を抜け、ただすの道に出る。
…つくづくしやさしも草が生える
細道をゆくと、雪どけの野の水田につく。
花稲田には若苗が立ち並び、
少し早い田植えの花が咲いていた。
春先、桜の花の咲く頃に…
植える田を春早苗と呼ぶ。
下げ髪に花小袖を着て、
早乙女らが田に入る。
もなみも草履を脱ぎ、水田に入った。
足首にかかる水が冷たくて、心地よい。
少しひんやりした水に、足の裏が泥に埋まった。
苗代から運んできた苗を苗籠に入れて、
早乙女らがかついでゆく。
たすきをかけて、前掛けを結び、
苗を持ち、歌を歌う。
〈…ふ二タ重ゑ椿の花の舞に…
…椿 コロコロ… …稲田 コロコロ…
…ふ二タ重ゑ椿の花の舞に…
…五十鈴 コロコロ… …水占に コロコロ…
…八重二ふるへ… …常磐二ふるへ…
田植え縄をピン!と張って…くるくるくる…
…泥の中をかき分けて、早苗を一つ…
‐…ふ二タ重ゑ椿の花の舞に…‐
‐…二つの〈美玉〉が一つになる…‐
…桜花二ふるへ… …由良ゆら…
…八重二ふるへ… …由良ゆら…
…ゐ二し古ゑより想ふは… …恋ノうた…
…ちこし今も、みた二たし…想ふか…
‐…苗ヲひ一とツ…‐
…桜の匂ひも彼ノ匂ひも…
‐…苗ヲふ二タツ…‐
…ちこし今も、みた二たし…香ルか…
…ふ二タ重ゑ鈴ノ花苗をたろみては…
…水の占二…コロコロ…
…花椿ノ苗二…ほろみる…
…桜二匂へ…常磐二ゆるへ…
…桜ノ匂二ふるへ…常磐二ゆるへ…
…穂二ふるへ… …稲田二ふるへ…〉
花苗歌に合わせて、舞を舞うように
田の中を踊りながら若苗を植える。
もなみは平包みに入れた花稲を手に取ると、
懐から取り出した花櫛ですく。
…すると、みるみるうちに
田の苗が実って稲穂に変わっていった。
…… ……
… …
…途中、若宮と折り合って水田をでて、
弥生ノ森を抜けると高御座へ出る。
…高御座では昨年の秋に、お供えした米が残っていた。
若宮はもなみの手を取って、歩いていく。
彼の横顔をみて、何か話して、少し笑う。
…つないだ手があたたかい…
…彼名タを想ふたび、
ギュうって胸がしめつけられる…
夕方の影がのびるなか一緒に続く…帰り道。
…彼名タを忘れたく、ない…
…君の名、は…
「…もなみ。」
「…ん?」
…夕恋に落ちて…ゆく。
「…なんでもない。」
静かな小道に歩幅が明るい。
…二人、誰そ彼れ野に
たゆたふは、夕花影にちりゆく。
…季節の花風が吹くとともに
〈花渦〉に吸い込まれるように、
この花荻野ノ国は、
ゆっくりと桜天秤の重りが揺れて
時空をtimewarpして、
雪どけの春の野から
初夏の香りのする田の景色を
おぼろ気ながら…かけてゆく。
…白金の桜天秤が揺れる。
…〈花刻の疾風〉に運ばれて、
3.24㌘でくるくる桜天秤が揺れ止まった。
…3月24日…
澄み渡る花雲の間から花野山がまみゆ。
もなみは若宮と子らと別れ、花櫛笥と
懐紙をひとひら、花結した稲とを
平包みに入れると、杏ノ花屋敷の
くぐり戸を抜け、ただすの道に出る。
…つくづくしやさしも草が生える
細道をゆくと、雪どけの野の水田につく。
花稲田には若苗が立ち並び、
少し早い田植えの花が咲いていた。
春先、桜の花の咲く頃に…
植える田を春早苗と呼ぶ。
下げ髪に花小袖を着て、
早乙女らが田に入る。
もなみも草履を脱ぎ、水田に入った。
足首にかかる水が冷たくて、心地よい。
少しひんやりした水に、足の裏が泥に埋まった。
苗代から運んできた苗を苗籠に入れて、
早乙女らがかついでゆく。
たすきをかけて、前掛けを結び、
苗を持ち、歌を歌う。
〈…ふ二タ重ゑ椿の花の舞に…
…椿 コロコロ… …稲田 コロコロ…
…ふ二タ重ゑ椿の花の舞に…
…五十鈴 コロコロ… …水占に コロコロ…
…八重二ふるへ… …常磐二ふるへ…
田植え縄をピン!と張って…くるくるくる…
…泥の中をかき分けて、早苗を一つ…
‐…ふ二タ重ゑ椿の花の舞に…‐
‐…二つの〈美玉〉が一つになる…‐
…桜花二ふるへ… …由良ゆら…
…八重二ふるへ… …由良ゆら…
…ゐ二し古ゑより想ふは… …恋ノうた…
…ちこし今も、みた二たし…想ふか…
‐…苗ヲひ一とツ…‐
…桜の匂ひも彼ノ匂ひも…
‐…苗ヲふ二タツ…‐
…ちこし今も、みた二たし…香ルか…
…ふ二タ重ゑ鈴ノ花苗をたろみては…
…水の占二…コロコロ…
…花椿ノ苗二…ほろみる…
…桜二匂へ…常磐二ゆるへ…
…桜ノ匂二ふるへ…常磐二ゆるへ…
…穂二ふるへ… …稲田二ふるへ…〉
花苗歌に合わせて、舞を舞うように
田の中を踊りながら若苗を植える。
もなみは平包みに入れた花稲を手に取ると、
懐から取り出した花櫛ですく。
…すると、みるみるうちに
田の苗が実って稲穂に変わっていった。
…… ……
… …
…途中、若宮と折り合って水田をでて、
弥生ノ森を抜けると高御座へ出る。
…高御座では昨年の秋に、お供えした米が残っていた。
若宮はもなみの手を取って、歩いていく。
彼の横顔をみて、何か話して、少し笑う。
…つないだ手があたたかい…
…彼名タを想ふたび、
ギュうって胸がしめつけられる…
夕方の影がのびるなか一緒に続く…帰り道。
…彼名タを忘れたく、ない…
…君の名、は…
「…もなみ。」
「…ん?」
…夕恋に落ちて…ゆく。
「…なんでもない。」
静かな小道に歩幅が明るい。
…二人、誰そ彼れ野に
たゆたふは、夕花影にちりゆく。
…季節の花風が吹くとともに
〈花渦〉に吸い込まれるように、
この花荻野ノ国は、
ゆっくりと桜天秤の重りが揺れて
時空をtimewarpして、
雪どけの春の野から
初夏の香りのする田の景色を
おぼろ気ながら…かけてゆく。


