……                      ……
 …                      …

…八重桜の並木道を通りながら、
桜恋宮楼へ行く。

…ひらひら舞い落ちる
桜花ははかノ花の花道を行くと…

赤い檜皮色に木彫りの
桜花ははかの唐文様に覆われた

五重の楼閣があった。

桜恋宮楼に入ると、
桜透かしの和紙の張った花窓に

和桜柄のパッチワークキルトの絨毯…
桜漆の木机に桜椅子、桜ソファ、

桜づくしの色とりどりの和花柄の
搾りを欄間にはめ込んで、

桜ショールのレースのカーテンをかけていた。

待ち受けには、美人の桜の精二人がいた。

桜の精がTelをかける。

「…ティアラ様、もなみ殿
御一行様がお付きになりました。」

「…ちょっと、お待ちを!
すぐ行きますッ!」

ぴょぉ‐いと跳ね飛んで
ティアラがフロントまでやって来る。

…ドロン!と煙に巻いて
ティアラが現れた。

「…お待ちしてました。
もなみ殿。…ティアラです。」

「…ティアラ!」

「…桜想ふノ君とのdate♥は
どうでしたか?」

「…うん。楽しかったよ。」

「…よぉ、御座いました。」

…ティアラが言う。

「…桜想ふノ君はどうされますか。」

「…言うもがな。」

…桜想ふノ君が両手を後ろで組み、
嬉しそうに言った。

「…相席で準備させてもらいます。」

「…いいよ。」

「…先にいらした平家一族の
優人様と彦火様がお待ちしております。」

「…うん。分かった。」

「…もなみ殿には、

この〈矢車菊の野〉の
花宴の席に来ていただきます。

橘殿の小さな結納の祝の席だったの
ですが、困っておいででしたので、

もなみ殿に来ていただいて、
橘殿もさぞ喜ばれるでありましょう。」

「…うん。」

「…して、その男装は?」

……                      ……
 …                      …

〈矢車菊の野〉

桜型にくり抜いたカラフルな
ステンドグラスが透明なグラスに写っている。

グラスのなかに氷とレモンの欠片と
グラニュー糖を入れ、ミントとお水を注ぐ。

段座の桜座敷はカラフルな桜畳になっていて、
桜机に赤い桜模様の漆塗りの御膳が並んでいた。

御膳が運ばれて、しばらくすると、
華やかな宴の笑い声が聞こえてきた。

赤い桜椀に薄く濁った桃色の桜酒を注いで、
もなみは酔いの回った平家一族から話を聞いていた。

「…橘殿はまだかな。」

「…今宵の花宴は姫のために。」

…妖たちが言う。

「…替え玉って、何すればいいの?」

…隣の火海に体を傾けて言う。

「…しばらく待ってて。」

…平家一族の火海が言う。

…火海が親王の席まで聞き耳を立てると、
びっくりしたように言った。

「…〈夢〉を買うって。」

「…夢?」

「…ど‐ゆうこと?」

「…替え玉ってこと。」

…優人が耳をそば立てて言う。

「…つまり、」

「…本人って、こと。」

…彦火が言う。

「…結婚って、こと?」

「…ど‐ゆ‐こと?!」

平家一族が三人とも声を揃えて言った。

「…そ‐ゆ‐こと。」

桜恋宮楼で話の中の通り、
平家一族ともなみは〈夢〉を買う。

「…まいどあり‐。」

「…〈夢〉って何?」

「…結婚って、こと。」

「…つまり、そ‐ゆ‐こと。」

…妖たちが古銭を入れる。

「…結婚の〈夢〉をみる、ってこと?」

…妖たちが運ばれた
御膳のすき焼きを食べる。

「…ふぅん。」

…もなみが不思議そうに頷く。

「…夢に百円は重いなぁ…。」

「…一円や十円でいいよ。」

「…もらいすぎだから。」

古代の天使様が言う。

古代の天使様は、歴史上の偉人とか
古墳時代の大君とかを言う。

「…一円や十円でやってけるの?」

「…やってけない。」

「…ど‐ゆ‐こと?」

「…つまり、」

「…一円で百万に化けるってこと。」

「…裏金ってこと?」

「…ちゃんと、
働いてるってこと。」

「…つまり、神様ってこと。」

「…お宮の古銭?」

「…普段使いの社ロって、こと。」

「…やってけない!」

ティアラがやってきて、
もなみに言った。

「…宴もたけなわ!
もなみ殿には、お召し替えに

いってほしゅうございます。」

❀❀❀

竜胆の青い搾りの下地に花和柄の
パッチワークキルトをあてて、

薔薇や小花の搾り染めをおいて、

膝丈までのミニドレスに
上から長いレースのフレアチュールを

ふわっとかけたウェディングドレスを
着ながら、もなみは怪訝深そうに言った。

「…比重 10 liter。」

「…突然、ど‐ゆ‐こと?」

「…違う人ってこと。」

…平家一族の優人が言う。

「…くぐつ人形で?」

「…同じ人ってこと?!」

…回りに囃し立てられて、

「…違うに決まってる!」

指さされ、
笑い飛ばすあなたをみては、

「…そ‐ゆ‐こと。」

…叶わない願いと
諦めてゆくわたしに、

「…ど‐ゆ‐こと?!」

…そうして、
あなたが優しくする…。

「…そ‐ゆ‐こと。」

「…違う人だから断るってこと。」

「…結婚を?」

「…そ。」

彦火が唐花和柄のレースの厚手のコットン地
の花帯に、薄花色の大きな薔薇の花の咲いた

チュールレースの袱紗をいくつもリボンに
結んで言った。

「…花血蜜って、こと?」

火海と少し口喧嘩しながら優人が言う。

「…比重 10 liter?!」

「…困る‐!」

「…血液は駄目だから。」

「…血液‐?!」

「…捕まる!(全員)」

…酔いの回った妖たちの笑い声が響く。

「…お待たせしました。
橘殿にございます。」

「…おお!」

「…これはこれは。」

美しい橘殿の姿に
一同が感嘆の声を漏らす。

「…ほんとに美しいですねぇ。」

「…あっぱれ。あっぱれ。」

…妖たちが日の丸の扇子を
手で回わしながら言った。

「…お金は?」

…もなみがイラっとして、言う。

「…神様って、こと。」

「…うそ!腹黒‐い!」

…妖たちが言った。

「…ど‐ゆ‐こと。」

「…同じ人って、こと。」

「…血液なのに?」

「…10 liter?!」

「…抜き取るの?!」

「…お金は?!」

すると、平家一族が全員言った。

「…花の花弁を1枚とった、だけ。」

…桜想ふノ君が言った。

「…ど‐ゆ‐こと?」

もなみが眉をひそめて言った。

「…同じ人って、こと?」

「…桜は眠り姫が
持ってるって、こと。」

「…違う人なのに?」

「…そ。」

…心のなかでちがうって言う。

「…結婚って、こと?」

「…ど‐ゆ‐こと?!」

…もなみが嫌がって離れた。

…彼の手をすり抜けてゆく。

…どうしても、手に入れたくなる…。

…桜想ふノ君は
ごり押しするように言った。

「…すぐわかるでしょ?ね?」

…ぐいっと顔を前押しされる。

「…う、うん。」

…もなみが苦笑いする…。

「…口止め。」

「…えっ?」

…もなみが振り返る。

「…俺って、こと。」

「…素戔嗚尊。」

…桜想ふノ君がもなみの御魂にkissする。

「…稲田姫命なのに?」

「…そ。」

…妖たちがにこにこ笑いながら
手をたたいて嬉しそうに言った。

「…つまり、言い寄られたって、こと。」

…若宮を想い浮かべる…

「…じゃあ、
お宮で〈夢〉を買おうか。」

…古銭を入れて、〈夢〉を買う。

「…お断りする‐!」

…難しそうにもなみが言った。

「…宇宙理論で10 literって、こと。」

「…アップル?」

「…そ。」

今まで話半分に聞いていた
烏天狗の天ノ河が林檎を片手にかじって言った。

「…アップルの黄金比。」

「…ど‐ゆ‐こと?」

「…〈夢〉どろぼうってこと。」

「…そ。」

…桜想ふノ君が相槌を打つ。

「…捕まえる!」

「…君だけに!」

…彦火が言う。…君のことを想って、

「…君だけの?!」

…優人が言う。…君のことを考えて、

「…君だけに!」

…火海が言う。…君のために笑いかけること。

「…捕まえる‐!」

…もなみが言う。

「…がしゃ‐ン!」

「…結婚する‐♥!」

…一人占めしたい、
そんな気持ちでいっぱいになるよ…。

…伝わらないで…

…この胸の想ひを。