…季節が過ぎ、花夏が来た。
…さらさら。…さらさら。
…さらさら。…さらさら。
…甘い花血蜜に誘われて、
花紅小瓶が揺れる。
…栓を外して飲み干すと、
…花ノ呪ゐをかけられて、
‐…千年の眠りにつく…‐
…さらさら。…さらさら。
…さらさら。…さらさら。
…若宮は掬矢名タ姫ノゐ琴を
横抱きにすると、花夏空を舞った。
…… ……
… ·…
…カラン。…コロン。
…カラン。…コロン。
…宵月の綺麗な…
…宮中の庭先で、
花夏風鈴のなる音がなる。
…幾千もの風鈴が涼風を揺らす。
…夕宵にせまる宮中から
生温かい風に吹かれて闇夜をかける。
若風と共に耳鳴りがして、
若宮が空を走る。
風を切ったねずが灯ロウの
黒い光を照らしながら、
…星空をゆく。
ぽぅぽぅと仄のあかる
蛍の舞ふ夏川は草葉の影から
虫の音が聞こえてきて
…いと、をかし。
…いといみじゆものなり。
…星のきらめき。
…天ノ川の流れるなか
機織りの娘がゆく。
年に一度だけ会える日に
牛飼いが約束をして
天ノ川をわたる。
夜風を切る夏衣は
透き通った千夢の端に
…結んで薫る。
…天地に降り立つ若宮。
…若宮は袖をはためかせながら
宮中までの道をゆく。
素足に水たまりを踏んで
跳ね返った水が指貫の裾に揺れる。
…若宮は〈夏の橘ノ戸〉の閂を
抜くと、車宿りの側を通る。
牛車がしまっている
宿りの前をかけてゆく。
高欄を飛び越えて、
宮中に忍び込むと、かのこ廂に出る。
渡殿を渡って、塗籠まで来ると
枢戸を開けて中へ入る。
朱で彩った花の冠箱から
花紅小瓶を取り出す。
…目に見えない霊花で覆われた
甘い花血蜜を注いだ花紅小瓶…。
…カシーン。
…カラン。…カラン。
…その花紅小瓶をかじって栓を抜く。
…花紅小瓶に入った花血蜜を
飲み干すと、若宮の鼻先から
甘い香りがした。
宵宮を照らしながら夏衣が
夜空をかざる。
若宮は血だらけになって
助け出したもなみを抱きしめた。
…そして、若宮は
掬矢名タ姫を横抱きにして
空を舞った…。
❀❀❀
‐…若宮は千年の眠りにつく…‐
…ふりさける…
染める花夕の 刻越えて
結ふき面影は 藤にかかるかも…
…さらさら。…さらさら。
…さらさら。…さらさら。
…甘い花血蜜に誘われて、
花紅小瓶が揺れる。
…栓を外して飲み干すと、
…花ノ呪ゐをかけられて、
‐…千年の眠りにつく…‐
…さらさら。…さらさら。
…さらさら。…さらさら。
…若宮は掬矢名タ姫ノゐ琴を
横抱きにすると、花夏空を舞った。
…… ……
… ·…
…カラン。…コロン。
…カラン。…コロン。
…宵月の綺麗な…
…宮中の庭先で、
花夏風鈴のなる音がなる。
…幾千もの風鈴が涼風を揺らす。
…夕宵にせまる宮中から
生温かい風に吹かれて闇夜をかける。
若風と共に耳鳴りがして、
若宮が空を走る。
風を切ったねずが灯ロウの
黒い光を照らしながら、
…星空をゆく。
ぽぅぽぅと仄のあかる
蛍の舞ふ夏川は草葉の影から
虫の音が聞こえてきて
…いと、をかし。
…いといみじゆものなり。
…星のきらめき。
…天ノ川の流れるなか
機織りの娘がゆく。
年に一度だけ会える日に
牛飼いが約束をして
天ノ川をわたる。
夜風を切る夏衣は
透き通った千夢の端に
…結んで薫る。
…天地に降り立つ若宮。
…若宮は袖をはためかせながら
宮中までの道をゆく。
素足に水たまりを踏んで
跳ね返った水が指貫の裾に揺れる。
…若宮は〈夏の橘ノ戸〉の閂を
抜くと、車宿りの側を通る。
牛車がしまっている
宿りの前をかけてゆく。
高欄を飛び越えて、
宮中に忍び込むと、かのこ廂に出る。
渡殿を渡って、塗籠まで来ると
枢戸を開けて中へ入る。
朱で彩った花の冠箱から
花紅小瓶を取り出す。
…目に見えない霊花で覆われた
甘い花血蜜を注いだ花紅小瓶…。
…カシーン。
…カラン。…カラン。
…その花紅小瓶をかじって栓を抜く。
…花紅小瓶に入った花血蜜を
飲み干すと、若宮の鼻先から
甘い香りがした。
宵宮を照らしながら夏衣が
夜空をかざる。
若宮は血だらけになって
助け出したもなみを抱きしめた。
…そして、若宮は
掬矢名タ姫を横抱きにして
空を舞った…。
❀❀❀
‐…若宮は千年の眠りにつく…‐
…ふりさける…
染める花夕の 刻越えて
結ふき面影は 藤にかかるかも…


