…宵の口に李ノ花殿からもなみと
子ども達は若宮の選んだ十二単衣と

直衣に着替え、一緒に牛車に乗った。

…春風を運ぶ牛車は
細道をゆく。

…細道から待宵道に出る。

…若宮は雪差しから外の景色をみて、
花小川の端をゆくのを静かにみていた。

「……。」

…ゴトゴト…
…ゴトゴト…

…揺れていく…

…牛車の車輪の下を、
花石が転がってゆく。

…若颯と花音は
積み木で遊んでいた。

…ガタン。

…花牛車が大きく傾いた
ときに若宮がその手をひく。

…もなみの手の中にある
花文を結んだ李の花の枝が

…手から溢れた。

…おもちゃの積み木が壊れる…

…気づいてしまった…

…若宮の気持ちに…

…子ども達が泣き声を出した…

若宮は手を絡めると、
そのままもなみを引っ張り

…抱きしめた。

もなみは崩した姿勢から
若宮の目をみた。

「…鬼が魂を喰らうって。」

「…こわい。」

…若宮の手をぎゅっと握り返す。

…溢れた李ノ花が春の宵に、
牛車のなかの二た人を、優しく結わえた…