ぬばたまの宵に向かふ宮中の
花の遊宴へ行くための襲選びをする…。
…李ノ花殿の菫ノ対で若宮は
もなみにしつらえた花衣の準備をしていた。
…桜の襲を広げて几帳にかける。
…襲は綾織物に、
花草をあしらえた唐衣がある。
もなみは桜花ははかの襲をして、
白の表に桜花の裏、蘇芳の五つ衣を
合わせていた。
…子ども達の襲を選んでゆき、
花音は同じ桜の襲を、優人は表は薄色を
裏は萌黄色の藤を合わせた。
母屋にいたもなみは
渡殿をわたり、菫ノ対へ行くと
…若宮に会った。
「…この李の花の枝を。」
…想いたったように、
もなみは手に持った花文を
結んだ李の花の枝を 持って来ると、
…若宮に手渡した。
「…若宮‐!あげる‐♪」
ふわっと花束が贈られると、
若宮が捕まえたててふを届けた。
「…わっ!蝶!」
もなまの手から墨が飛び散る。
…ててから飛び出した蝶が
部屋をゆきかふ。
「…つかまえてみて。」
…若宮は花文を広げる。
…つかもふか。
…はたまた、結まいか。
…つかもふか。
「…つかまえる…なんて、
できない!」
若宮はもなみの手から…
花筆を取り上げて、
…花歌を綴った。
…もなみは負けじと
ずかずかと歩き、文机に
…どかっ!と座る。
「…つかまえて。」
「…できない!」
…この手を、すり抜けてゆく…
…もなみは、泣きそうになる。
…ててふを、結ふ。
「…つかまえた。」
…抱きしめた…
…恋しいあの人を、想い描く…
…泣きそうなった彼タ矢を、
…彼名タが抱きしめる…
…若宮は花机のところまで来ると、
そのまま抱きしめるように
…後ろから手を取り、
筆を執った。
〈…玉はころころ、おコろコロと…
花しすくに袖咲るらむ
今宵の歌方は…
…彼名タか…
…彼タ矢か…
花ふりつもるらむ…〉
…若宮は同じ李の花の枝に
花結びした文を三つ折りにして
そっと…結わえた。
「…私の花だ!」
…若宮はもなみを抱きしめると、
嬉しそうに抱きしめ返した。
春の李の花の枝は
…ゆらゆれに夜ノ御殿に結ふ。
二た人は秘密の恋の
…約束を交わして口結ふ…
…春のかすみに覆われた
若草の野に香る
…李の花の枝をたよりに…
…… ……
… …
花の遊宴へ行くための襲選びをする…。
…李ノ花殿の菫ノ対で若宮は
もなみにしつらえた花衣の準備をしていた。
…桜の襲を広げて几帳にかける。
…襲は綾織物に、
花草をあしらえた唐衣がある。
もなみは桜花ははかの襲をして、
白の表に桜花の裏、蘇芳の五つ衣を
合わせていた。
…子ども達の襲を選んでゆき、
花音は同じ桜の襲を、優人は表は薄色を
裏は萌黄色の藤を合わせた。
母屋にいたもなみは
渡殿をわたり、菫ノ対へ行くと
…若宮に会った。
「…この李の花の枝を。」
…想いたったように、
もなみは手に持った花文を
結んだ李の花の枝を 持って来ると、
…若宮に手渡した。
「…若宮‐!あげる‐♪」
ふわっと花束が贈られると、
若宮が捕まえたててふを届けた。
「…わっ!蝶!」
もなまの手から墨が飛び散る。
…ててから飛び出した蝶が
部屋をゆきかふ。
「…つかまえてみて。」
…若宮は花文を広げる。
…つかもふか。
…はたまた、結まいか。
…つかもふか。
「…つかまえる…なんて、
できない!」
若宮はもなみの手から…
花筆を取り上げて、
…花歌を綴った。
…もなみは負けじと
ずかずかと歩き、文机に
…どかっ!と座る。
「…つかまえて。」
「…できない!」
…この手を、すり抜けてゆく…
…もなみは、泣きそうになる。
…ててふを、結ふ。
「…つかまえた。」
…抱きしめた…
…恋しいあの人を、想い描く…
…泣きそうなった彼タ矢を、
…彼名タが抱きしめる…
…若宮は花机のところまで来ると、
そのまま抱きしめるように
…後ろから手を取り、
筆を執った。
〈…玉はころころ、おコろコロと…
花しすくに袖咲るらむ
今宵の歌方は…
…彼名タか…
…彼タ矢か…
花ふりつもるらむ…〉
…若宮は同じ李の花の枝に
花結びした文を三つ折りにして
そっと…結わえた。
「…私の花だ!」
…若宮はもなみを抱きしめると、
嬉しそうに抱きしめ返した。
春の李の花の枝は
…ゆらゆれに夜ノ御殿に結ふ。
二た人は秘密の恋の
…約束を交わして口結ふ…
…春のかすみに覆われた
若草の野に香る
…李の花の枝をたよりに…
…… ……
… …


