……                      ……        
 …                      …

…由良ゆら。…ユラゆら。

…由良ゆら。…ユラゆら。


…舟由良に舞ふ。

…うららかな春の小川にたゆたふ
桜花ははかノ花が水面に揺れる。

鬼を追いかけた秋の夕暮れから
桜花ははか乃花の咲く春のおぼろ愛(る)

まで、花風に乗って舟をゆく。

秋空を渡って、春にかける花野を
摘みゆけば、玉の緒から

想いははせたる花淡のごとし…。

…刻をゆく、花舟にのって…

…花ユラに紅の跡が残る…

…花こぎ。…花こぎ。

…櫂を握り、舟の尾をゆく。

…ゆら小舟。…ゆら小舟。

…舟由良に舞ふ。

…花舟に重ねた花衣…
…揺れる花波しずく…

…きしむ舟音…

…抱きしめた手に香のかぐわい…

…若宮と花瞳を合わせると、
にじりよった手で結ふ。

…桜花ははかの薄様に、恋の花。

合わさると結んだ手が花と咲りゆく。

…もなみはちょっと
上向きになって、若宮をみる…。

…すると、
甘い香ほりに共に口結ふた。

花が開くように、舌が滑り込む。

❀❀❀

…昔、友達に聞いた…

…桜んぼノ枝を口の中で結ぶと
first kissが上手くできるっていう…噂話…

「…したした‐!」

「…遊びでしたね!」

…友達と一緒に口をもごもご
動かしながら、二人で笑った…

「…恋しい。」

…想ひ出す…夏のあの日…

❀❀❀

…桜んぼの枝を結ぶように、花紐を編む。

…編んだ花紐を少し裏切る。

…そうして、目をそらすと
手を添えて若宮はまた口結ふた。

…混ざり合った恋蜜に、唇をふるわせた…。

…花涙がほろほろ落ちてくる…

…若宮の狩衣の擦り合わさる音がする。

…若宮は手を花衣の中に入れて、
御火戸にさわった。

…ぬれている。

…花襲を抱いて、膝を割る。

…桜花ははかノ枝を御火戸に立て、かきなす。

…かきなす、かきなす、花ノ渦。

…突き立てる花ノ枝が無造作に乱れる。

…桜髪に水面も揺れて、花が咲る。

…花こぎ。…花こぎ。

…御火戸に染め色をおいて、
花筆でおかげを描く。

…染め色は藤、常磐、躑躅、山吹、桃、桜…

…花紅に染まった御火戸に
下三日月エンドウの花紋が浮き出る…

…妖たちが囃し立てる…

…夕凪に 花舟に揺れつつ君恋は
咲う笹弓の 想ゐゆらゆれに…



…由良ゆら。…ユラゆら。

…由良ゆら。…ユラゆら。


……                      ……        
 …                      …