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…鬼ノ城のなかにある
鬼ノ爪の跡まで冒険に行こう…

「…約束。」

…若宮が言う。

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…鬼ノ爪跡に行くまでの間の待ち合わせ…。

…1本の桜木が見える…

若宮が宮中をでて、牛車に乗って、
呉竹橋を渡り、玉の緒道を通って、

ゐてふの木立を通り、躑躅ヶ丘を抜けて、
伊予橋を横目に鵜飼のいる袖振り川を行き、

しばらくすると、一ノ宮森に囲まれた
鬼ノ城につく。

途中、鬼ノ城のなかにある
鬼ノ爪跡までへの道のりで、

若宮はもなみに会うと約束した。

小さな石の灯ロウと祠と桜木がある
千股で若宮は牛車から降り、もなみを待った。

…由良ゆら揺れる、

…秋に咲く…

…桜ノ花が花野道に舞ふ…

若宮は待っている間、桜木に登って、
桜花ははか乃花を摘んでいた。

若宮は、桜模様に若紫色の直衣を着ていた。

もなみが反対側の菜花の咲道から
歩いてやってきて、桜ノ花の下で待つ。

このとき、
桃色の桃ノ花の柄がしぼりで彩られた
若宮からもらった直衣を着ていた。

上からゆらゆら、ゆらゆらと
桜花ははか乃花が揺れおちる。

はらはら舞いおちる桜ノ花を
もなみは見上げると、

木の上の若宮と目が合った。

「…若宮!」

…あっ…

…若紫色に桜模様の直衣かぁ…

…お揃いで示し合わせたら良かったかなぁ…

「…なんで言ってくれなかったの‐!」

…もなみの声が森に木霊する。

「…し‐…。」

若宮が桜花ははか乃花をはらりと
手の平からおとしてもなみの上に降らせた。

若宮がふわっと桜花ははか乃木から
飛び降りてそのままもなみを抱きしめた。

上から飛び降りて来た若宮を
下で抱き留めてもなみが目を瞬く。

桜模様の直衣が桜花ははか乃花に揺らめく。

「…若宮!」

…若宮がそっと抱きしめる…

…重なった直衣が
桜花ははか乃花を綾どる…

若宮の腕の中でもなみが動く。

…あっ…

「…良いこと想いついた!」

「…若宮、ちょっと待ってて。」

もなみが若宮の腕の中から
抜け出して、牛車まで行く。

牛車に飛び乗ると、
水干姿の童に声をかけて、

牛車のなかにあった
十二単衣の若宮とお揃いの

桜模様に若紫色の羽織を
着て牛車を出た。

そのまま桜花ははか乃木の待ち合わせの
ところまで来て、こう言った。

「…お揃い‐!」

花袖をピンと両手で張って、
くるっと回ると…

若紫色の羽織がはらりと桜木に揺れる。

すると、若宮が待っている間、
使いの者に言ったのか、若宮は

桃色の桃ノ花のしぼりのつく
羽織を羽織っていた。

「…あっ!」

…桜花ははか乃花が
ざぁっと花風に揺れる…

…お揃い、じゃなかった…

…でも、お揃い…

「…同じこと考えてたんだっ♥!」

若宮が桜模様の若紫色の直衣をきて、
示し合わせたら良かったのに…

もなみが桃の花色の直衣を着てくると、

しばらくして、着替えてきた

羽織は二人、入れ替わった
若宮は桃の花のしぼりの羽織を…

もなみは桜模様に若紫色の羽織を…

きて、ばったり違った…。

…二人、抱きしめる…

…桜花ははか乃木のふもとで
若宮の護符がはらりと切れて落ちた…。