王女が子ども達と城を抜け出して、
…鬼ノ城の裏にある
薔薇の花園の花野道を抜けて、
人気のない坂をずっと行くと、
鬼ノ爪の跡につく。
鬼ノ爪の跡は、大きな洞穴に
なっていて、すっぽりと三人の体を包んだ。
…岩の影目からすっぽりと体を
入りこませて、妖とかくれんぼをする。
…も‐いいかい。
…ま‐だだよ。
…も‐いいかい。
…岩の影から、外に出る。
…み‐つけた!
…洞穴のなかを前かがみになって、
這い進んでいくと…鬼ノ門の上にでた。
…鬼ノ門の上には花荻ノ野が
ずっとずっと広がっていて、とても
綺麗な場所だった。
「…鬼の隠れ家だね。」
「…うん!」
「…うん!」
夕焼けに染まる…荻野ノ畑のなかを、
ゆゆら…ゆゆらとドレスの裾が揺れながら
行くと、鳥居がみえる。
…ゐ二し古ゑノ夕宮…
…… ……
… …
…子どもの頃の想い出…
…みつけてもらえずに、
鬼ノ穴のなかで眠りこけてた…。
…ぅとぅと…
…ぅとぅと…
まどろみの…なか
…彼名タを想ふ…
そぅして、
秋宵夢の端ヲ…ゆク。
…ユク。
…ユク。
…ユク。
…想ひ出の彼名タわ…
…ただ、…ただ、
…ただ、
…愛しくて、
…想ひ出すだけで
胸が切なくなる。
…想ふ出の彼名タわ…
…ただ、…ただ、
…ただ、
…恋しくて、
…声を聞くだけで
胸が苦しくなる。
…想ひ出の彼名タ…
…… ……
… …
…傷だらけでボロボロだった彼タ矢を、
…ただ、…ただ、
‐ … 抱きしめてくれた … ‐
…鳥居をくぐると、
奥に桜ノ花の野が広がっていた…。
…花曇り。
…宵宮の風が吹く。
…夕宵に続く、鬼ノ〈火〉影。
…夕夜にせまる鬼たちのこゑ。
…ゐ二し古ゑノ夕宮。
…あふ坂の 約束。花ヲたよりに…
〈会いたい〉の琴ノ花。
宵宮をてらす夕映えの…なかを、
…鬼が かけてユク。
…ぽぅぽぅと仄のあかる
淡くたなびく光の筋を
…宵宮をてらしながら、
荻乃宮までの…小道ヲゆく。
…途中、薄紫した
淡い光のなかを またたく
…ように 〈鬼カミ〉さまたちの
いノち…〈鬼ノ火〉が揺らめく。
…甘い香りとともに
たゆたふ〈鬼ノ火〉の灯びわ…
ついてはまたたき、
またたいてわ きえて…
…光の綾を 織りなす。
桜の花のように 揺らめく
…光の〈鬼ノ火〉のなかを…
…かげろふのさな 行く。
その〈鬼ノ火〉の玉の
ひ1とッを手にとり、
…ふぅっと 息を吹き込んだ。
‐ … 彼タ矢に会いに、来ないといけない … ‐
…若宮は言ふ。
‐ … 彼タ矢に会いに、来てほしい…‐
…オコロ。…オコロ。と
…コオロ。…コオロ。と
…結ふ、花のわたクモ。
淡い桃色をした〈火〉が…揺らめく。
〈鬼ノ火〉は、少しずつ
小さな光にとけて、
…やがて 大きな〈火ユら〉に
…なりゆく。
その〈鬼ノ火〉の影は、
花の面影をうつすと
尾を誘い、ちる花の穂わ
若宮の…琴ノ花を伝えた。
鬼ノ〈火ユら〉は少し
灯りて、花の影を…うつして
由良ゆら揺らめいた。
…〈鬼ノ火〉のカゲに 若宮がうつる…
‐ …ゐ二し古ゑノ夕宮へ…
彼名タに 会いにユク。‐
…カらん。…コロん。
…風とともに鳴る 絵馬の音。
…揺れル お守りの鈴。
…〈鬼カミ〉さまに祈りや。
…灯る…花のろふ。
…舞ふ…おかげの花夕。
荻のあぜ道に ただよふ
…アメやわた菓子の香り。
鳥居のまわりをかけよる…
…子ども達の足音。
夕宮から誘ふ、
鬼やもののケの類い。
花小道をてんてんとゆく〈鬼ノ火〉
…ゆく 狐火の鬼列。
…宮杜の小道を
ゆっくりと 行く。
なり入れた 小銭の音。
…柏手の なる…
くりかえす 荻の礼。
…祈りのさなか…
…眠り姫。
とじた 目蓋。
‐…決して…
さめわしない 夢を みせる…‐
…祈りヲ こめて。
…唱えた。
…ただ、…ただ、
…ただ、
…恋しくて。
…君を、抱きしめた…
‐…ふいに、抱きしめられた…‐
こもる …腕に力の〈鬼ノ火〉…
アメやわた菓子の匂いに
まざってする 香のかほり。
…花風とともに 夕鈴がなる。
…らん。…らん。
…カらん。…コロん。
…らん。…らん。
…カらん。…コロん。
…夕宵宮夜の 荻ノ宮。
…たくさんの 花の穂が咲いてゆくなか…
…花荻乃杜を かけてゆく。
…おかげの花が 舞い込む
花荻風が…ふゎっと 体を
包み込むように 花がちる。
…想ひ出のなか、
想ひ出す 彼名タわ…
…花、かげろふ。
…祈りのさなか…
…ふい、に。
‐…抱きしめた…‐
…花荻風に…
…花風に…
…花荻風に…
… 抱きしめられた …
‐… わたしの 言ふことを
きかないと いけない …‐
…そぅ、唱えて。
‐… 彼タ矢の 言ふことを
きかないと いけない …‐
…かほる 香のにほい。
…抱きしめた 手に力ヲ こめて…
…彼名タの温もり。
優しくつないだ 手名ゴこロ。
‐… 彼タ矢の 言ふことを
きかないと いけない …‐
…はらはら。
…はらはら。
…桜の花が 揺らめく。
…桜の花が 舞いちるなか…
叶いゆくわ お願いコト。
…はらはら。…はらはら。
…桜の花が 揺らめく。
…御符が はラはラ と
切れて ゆく。
…想ふ出を 封じ込めゆく。
…桜の花の美玉に
…封じ込めてユク。
…まみゆ。…花空。
…くユ。…夕空。
…琴ノ花が 舞いちる。
…舞いちる。
…舞いちる。
…舞いちる。
…舞いちる。
‐… 彼名タの 名わ、
ス咲乃オ乃ゐ琴 …‐
…幽界中の 妖が
振り向かなくても。
…彼名タが、振り向く。
…彼名タわ 鬼カミさま…
‐…抱きしめた…‐
…幽界中で 彼名タ、
ヒとり キり…
…彼タ矢ヲ 抱きしめた…
…抱きしめた…
…抱きしめた…
…抱きしめた…
…抱きしめた…
…つないだ
タなごこロ と タなごこロ。
…ふ二たツでひ一とツ。
…由良ゆら 揺レる…掬矢美玉…
…薄紫の美玉のかほり。
…トク。トク。
…はねる 矢んノ誰ふ(しんノぞう)。
…琴ノ花ごと 包み込んで…
…魂の端を ゆく…
…ユク。
…ユク。…ユク。
…ユク。
…夕宵宮夜ノ花しらべ。
…もののケの 花列。
…舞ふ、鬼ノ狐火。
…水ノ占に星屑が瞬き、
花ノ占をウラのうてみる。
…振り返った 彼名タ…
…琴ノ花ごと 抱きしめて…
…抱きしめて…
…抱きしめて…
…抱きしめて…
…抱きしめて…
流れ星のように行き交う〈鬼ノ火〉
ち…じりじりと、芯がたなびく。
淡い薄紅色をした…
〈火ユら〉わ淡雪のように
…粉をちらして その火を消した。
…〈鬼カミ〉さまは
この娘が好き、恋しい、
という気持ちでいっぱいになり
…琴ノ花が胸につまる。
…夕宵宮夜に 灯る
千の〈鬼ノ火〉わ、花の結ひの
まにまに 花小道をてらしゆく…
金色に染まる 夕日わ…
花の杜を背にその花の
おかげの野をちりゆく…
…千の桜の花の〈鬼ノ火〉わ
花風とともに、舞い上がり
細く高く たなびいてゆく。
…妖に かゑられてしまった
〈鬼カミ〉さまと
…娘との 魂乞い。
淡い光に包まれた〈鬼ノ火〉わ
その〈火〉に面影の景色を…うつし出す。
…〈鬼ノ火〉わ言ふ。
‐… 小娘なのに
わたしに 逆らおうたか …‐
…妖の炎が 舞ふ。
…暴れる彼ノ者の魂。
‐… 鬼はいけない …‐
…かんたんに人を化かしてしまう…
…彼名タは言ふ。
…若宮が琴と火菊。
…花のりとで 花のようにちりゆく。
…ちらちら と。
…ちらちら と。
…揺らめく〈鬼ノ火〉わ
淡く たなびき、…千の桜の花を
焦がしてユク。
…この桜ノ花の咲く舞いちる野のなかで
彼名タをさらって、鬼が子どもの魂をほふる。
…王女の長い睫毛が揺れる…。
…私に、逆らってはいけない…
…鬼ノ城の裏にある
薔薇の花園の花野道を抜けて、
人気のない坂をずっと行くと、
鬼ノ爪の跡につく。
鬼ノ爪の跡は、大きな洞穴に
なっていて、すっぽりと三人の体を包んだ。
…岩の影目からすっぽりと体を
入りこませて、妖とかくれんぼをする。
…も‐いいかい。
…ま‐だだよ。
…も‐いいかい。
…岩の影から、外に出る。
…み‐つけた!
…洞穴のなかを前かがみになって、
這い進んでいくと…鬼ノ門の上にでた。
…鬼ノ門の上には花荻ノ野が
ずっとずっと広がっていて、とても
綺麗な場所だった。
「…鬼の隠れ家だね。」
「…うん!」
「…うん!」
夕焼けに染まる…荻野ノ畑のなかを、
ゆゆら…ゆゆらとドレスの裾が揺れながら
行くと、鳥居がみえる。
…ゐ二し古ゑノ夕宮…
…… ……
… …
…子どもの頃の想い出…
…みつけてもらえずに、
鬼ノ穴のなかで眠りこけてた…。
…ぅとぅと…
…ぅとぅと…
まどろみの…なか
…彼名タを想ふ…
そぅして、
秋宵夢の端ヲ…ゆク。
…ユク。
…ユク。
…ユク。
…想ひ出の彼名タわ…
…ただ、…ただ、
…ただ、
…愛しくて、
…想ひ出すだけで
胸が切なくなる。
…想ふ出の彼名タわ…
…ただ、…ただ、
…ただ、
…恋しくて、
…声を聞くだけで
胸が苦しくなる。
…想ひ出の彼名タ…
…… ……
… …
…傷だらけでボロボロだった彼タ矢を、
…ただ、…ただ、
‐ … 抱きしめてくれた … ‐
…鳥居をくぐると、
奥に桜ノ花の野が広がっていた…。
…花曇り。
…宵宮の風が吹く。
…夕宵に続く、鬼ノ〈火〉影。
…夕夜にせまる鬼たちのこゑ。
…ゐ二し古ゑノ夕宮。
…あふ坂の 約束。花ヲたよりに…
〈会いたい〉の琴ノ花。
宵宮をてらす夕映えの…なかを、
…鬼が かけてユク。
…ぽぅぽぅと仄のあかる
淡くたなびく光の筋を
…宵宮をてらしながら、
荻乃宮までの…小道ヲゆく。
…途中、薄紫した
淡い光のなかを またたく
…ように 〈鬼カミ〉さまたちの
いノち…〈鬼ノ火〉が揺らめく。
…甘い香りとともに
たゆたふ〈鬼ノ火〉の灯びわ…
ついてはまたたき、
またたいてわ きえて…
…光の綾を 織りなす。
桜の花のように 揺らめく
…光の〈鬼ノ火〉のなかを…
…かげろふのさな 行く。
その〈鬼ノ火〉の玉の
ひ1とッを手にとり、
…ふぅっと 息を吹き込んだ。
‐ … 彼タ矢に会いに、来ないといけない … ‐
…若宮は言ふ。
‐ … 彼タ矢に会いに、来てほしい…‐
…オコロ。…オコロ。と
…コオロ。…コオロ。と
…結ふ、花のわたクモ。
淡い桃色をした〈火〉が…揺らめく。
〈鬼ノ火〉は、少しずつ
小さな光にとけて、
…やがて 大きな〈火ユら〉に
…なりゆく。
その〈鬼ノ火〉の影は、
花の面影をうつすと
尾を誘い、ちる花の穂わ
若宮の…琴ノ花を伝えた。
鬼ノ〈火ユら〉は少し
灯りて、花の影を…うつして
由良ゆら揺らめいた。
…〈鬼ノ火〉のカゲに 若宮がうつる…
‐ …ゐ二し古ゑノ夕宮へ…
彼名タに 会いにユク。‐
…カらん。…コロん。
…風とともに鳴る 絵馬の音。
…揺れル お守りの鈴。
…〈鬼カミ〉さまに祈りや。
…灯る…花のろふ。
…舞ふ…おかげの花夕。
荻のあぜ道に ただよふ
…アメやわた菓子の香り。
鳥居のまわりをかけよる…
…子ども達の足音。
夕宮から誘ふ、
鬼やもののケの類い。
花小道をてんてんとゆく〈鬼ノ火〉
…ゆく 狐火の鬼列。
…宮杜の小道を
ゆっくりと 行く。
なり入れた 小銭の音。
…柏手の なる…
くりかえす 荻の礼。
…祈りのさなか…
…眠り姫。
とじた 目蓋。
‐…決して…
さめわしない 夢を みせる…‐
…祈りヲ こめて。
…唱えた。
…ただ、…ただ、
…ただ、
…恋しくて。
…君を、抱きしめた…
‐…ふいに、抱きしめられた…‐
こもる …腕に力の〈鬼ノ火〉…
アメやわた菓子の匂いに
まざってする 香のかほり。
…花風とともに 夕鈴がなる。
…らん。…らん。
…カらん。…コロん。
…らん。…らん。
…カらん。…コロん。
…夕宵宮夜の 荻ノ宮。
…たくさんの 花の穂が咲いてゆくなか…
…花荻乃杜を かけてゆく。
…おかげの花が 舞い込む
花荻風が…ふゎっと 体を
包み込むように 花がちる。
…想ひ出のなか、
想ひ出す 彼名タわ…
…花、かげろふ。
…祈りのさなか…
…ふい、に。
‐…抱きしめた…‐
…花荻風に…
…花風に…
…花荻風に…
… 抱きしめられた …
‐… わたしの 言ふことを
きかないと いけない …‐
…そぅ、唱えて。
‐… 彼タ矢の 言ふことを
きかないと いけない …‐
…かほる 香のにほい。
…抱きしめた 手に力ヲ こめて…
…彼名タの温もり。
優しくつないだ 手名ゴこロ。
‐… 彼タ矢の 言ふことを
きかないと いけない …‐
…はらはら。
…はらはら。
…桜の花が 揺らめく。
…桜の花が 舞いちるなか…
叶いゆくわ お願いコト。
…はらはら。…はらはら。
…桜の花が 揺らめく。
…御符が はラはラ と
切れて ゆく。
…想ふ出を 封じ込めゆく。
…桜の花の美玉に
…封じ込めてユク。
…まみゆ。…花空。
…くユ。…夕空。
…琴ノ花が 舞いちる。
…舞いちる。
…舞いちる。
…舞いちる。
…舞いちる。
‐… 彼名タの 名わ、
ス咲乃オ乃ゐ琴 …‐
…幽界中の 妖が
振り向かなくても。
…彼名タが、振り向く。
…彼名タわ 鬼カミさま…
‐…抱きしめた…‐
…幽界中で 彼名タ、
ヒとり キり…
…彼タ矢ヲ 抱きしめた…
…抱きしめた…
…抱きしめた…
…抱きしめた…
…抱きしめた…
…つないだ
タなごこロ と タなごこロ。
…ふ二たツでひ一とツ。
…由良ゆら 揺レる…掬矢美玉…
…薄紫の美玉のかほり。
…トク。トク。
…はねる 矢んノ誰ふ(しんノぞう)。
…琴ノ花ごと 包み込んで…
…魂の端を ゆく…
…ユク。
…ユク。…ユク。
…ユク。
…夕宵宮夜ノ花しらべ。
…もののケの 花列。
…舞ふ、鬼ノ狐火。
…水ノ占に星屑が瞬き、
花ノ占をウラのうてみる。
…振り返った 彼名タ…
…琴ノ花ごと 抱きしめて…
…抱きしめて…
…抱きしめて…
…抱きしめて…
…抱きしめて…
流れ星のように行き交う〈鬼ノ火〉
ち…じりじりと、芯がたなびく。
淡い薄紅色をした…
〈火ユら〉わ淡雪のように
…粉をちらして その火を消した。
…〈鬼カミ〉さまは
この娘が好き、恋しい、
という気持ちでいっぱいになり
…琴ノ花が胸につまる。
…夕宵宮夜に 灯る
千の〈鬼ノ火〉わ、花の結ひの
まにまに 花小道をてらしゆく…
金色に染まる 夕日わ…
花の杜を背にその花の
おかげの野をちりゆく…
…千の桜の花の〈鬼ノ火〉わ
花風とともに、舞い上がり
細く高く たなびいてゆく。
…妖に かゑられてしまった
〈鬼カミ〉さまと
…娘との 魂乞い。
淡い光に包まれた〈鬼ノ火〉わ
その〈火〉に面影の景色を…うつし出す。
…〈鬼ノ火〉わ言ふ。
‐… 小娘なのに
わたしに 逆らおうたか …‐
…妖の炎が 舞ふ。
…暴れる彼ノ者の魂。
‐… 鬼はいけない …‐
…かんたんに人を化かしてしまう…
…彼名タは言ふ。
…若宮が琴と火菊。
…花のりとで 花のようにちりゆく。
…ちらちら と。
…ちらちら と。
…揺らめく〈鬼ノ火〉わ
淡く たなびき、…千の桜の花を
焦がしてユク。
…この桜ノ花の咲く舞いちる野のなかで
彼名タをさらって、鬼が子どもの魂をほふる。
…王女の長い睫毛が揺れる…。
…私に、逆らってはいけない…


