…らん。…らん。
…カらん。…コロん。

…らん。…らん。
…カらん。…コロん。

薄桃で覆った…それはそれは、
ちぎり絵のような…桜ノ花の舞ふ野のなかで

…常磐乃鈴が鳴る。

…花の都の真ん中、桜の花模様にくゥるりと
囲ォんだ桜よやねを連ねる天地…。

…都の空は柄杓で掬ったみたいに
花の水を逆さにひっくり返しタような…

…花屑のちる。

若宮ともなみは桜花ははか乃野に来ると、
その花畑で包まれたおかげの野で

…魂結いをする。

「…私と一生、添いとげてほしい。」

…若宮が琴ノ花に結う。

「…愛している。」

…そう言うと、桜花ははか乃枝に花文を
鈴と一緒に結わえる。

そうして、若宮は手折った
その桜花ははか乃枝をもなみに手わした。

…花文を広げて、文字を読む…

〈 …若紫の桜花ははか乃花が舞ふ…

…由良ゆら。…由良ゆら。
…由良ゆら。…由良ゆら。

…桜色にかげろふ。…ス咲乃オ乃ゐ琴…

…桜木の花鞠に…揺すらふ
誰名タの染めタ花頬。

…彼タ矢は若紫の桜ノ花…

   …誰名タに…

…染められて眠る、一と夜。

…はら。はら。…はら。はら。

…桜花ははかノ舞ふ桜色の
…誰名タを、見初めタ…

…頃の誰名タヲ…誰名タヲ想ふ…

…今もあの頃のままですか。
…今も美しいままですか。

…桜花ははか乃花の甘い香のかほり。

…彼タ矢は誰名タの
ちこしよせる力に頼りて、想ふ…

…はら。はら。…はら。はら。

…ちこし今もあの頃のままですか。
…ちこし今も変わらず好きなまま…

花鞠にてまり二…てまル。
…誰名タを。

…想って心めく永遠の一日…

若紫の桜花ははか乃花が舞ふ…

…由良ゆら。…由良ゆら。
…由良ゆら。…由良ゆら。

…桜色にかげろふ。…ス咲乃オ乃ゐ琴…

…桜木の花鞠二…揺すらふ
…誰名タヲ…想ひたす彼タ矢は…

…薄紫の桜花ははか乃花は、
この花鞠二、合わせて…

…おかげノ花に重ねる、一と夜。

…はら。はら。…はら。はら。

…はら。はら。…はら。はら。

…忘れなかった、彼名タの琴ノ花…

…想ひ出せそうで、でてこない…

…ユラ。ユラ。…ユラ。ユラ。

…たしか、こうだったかと…想ふ…


‐…彼名タ以外は、いないの、だと…‐

   …わたしの妻は…
      ゝ
     …わたしの妻は…
    …わたしの妻は…

   …わたしの妻は… 〉

…妖たちが串団子を頬張りながら、
二人の様子をみていた。

…そうして、二人口結ふと、
もなみの手や腕の体中に浮き出た

…下三日月エンドウの…

紅の花紋が一つずつ消えてゆく…。

…眠りにつくとき、君二想ふ…
…手ヲ握って、頬にふれて…

…優しく、口結ふ…

…嫌なんて、言わないで…
…桜ノ花の舞い散るなか…

…瞳を閉じて、いつも心に…
想い描くのは…彼名タ。

…恋しい、人…

…花夢をみて、何度も
  …想ひ出すよ…

…いつも彼名タに会いたくて、
…手を握れば、その…

…気持ちが知りたくて…

‐…大好きだよって…‐


…ギュウって、抱きしめタ。…

「…この勾玉に手を重ねて。」

「……。」

若宮は左手を、もなみは右手を
重ねて強く握った。

…桜花ははか乃花がはらはら舞い散る。

…玉結ゐヲ叶ゑからし
ふみつ、つみちつもの…

…春告鳥が鳴いて、桜花ははか乃花が
咲き誇るなか、宮杜で魂結うタ。

妖たちの食べ残したイカ焼きの跡と、
彼の桃の花の香のにほいが由良ゆら、残っていた…。

……                      ……
 …                      …

…花オ波に、揺られて。

…由良ゆら。ふね花舟。
…由良ゆら。ふね夕舟。

…オ恋二、焦がれて。

…しゅら。シュ。シュ。シュ。


…一度、回れば。


…夕オ波に、揺られて。

…由良ゆら。ふね花舟。
…由良ゆら。ふね夕舟。

…オ恋二、焦がれて。

…しゅら。シュ。シュ。シュ。