…小さな都の真ん中の、この花荻野ノ国に、
桜花ははかノ花がたユまなく咲き乱れる…

…桜花ははか乃野があった…

…都の天土は柄杓で掬ったみたいに
綺麗な椀の形をした盆地になっていて、

桜千里がぐるりと山々を連ねる。

…夜は水を張った都の盆地に
星屑が落ちて、花が咲いたみたいに

…星空がうつった。

…桜花ははか乃野の奥…

桜花ははか乃野を…ずっと…

     …ずっと…
       …ずっと…
     …ずっと…

…行くと、奥宮につく。

   …彼名タの手をひいて…
       …むすんで…

     …彼名タの手をひいて…
       …むすんで…

    ‐…君二、出会った…‐


…ずっと、彼名タを好きなまま…

    …ててふの舞ふ…

…彼名タの心が手に入るのに…

   …つかもふか…
     …むすほふか…

    …ててふの舞ふ…

  …彼名タの心がすり抜けてユく…

       …つかもふか…
     …むすほふか…

   …もっと、彼名タを好きになる…

      …追いかけて…
         …こして…

       …彼名タが手をひいて…
           …むすんで…

      ‐…ユ夢めに、みる…‐

      …花の野の道を…
         …かけてユく…


      …おかげののったりンゴ飴…

    …隣に向いて、ぱくって
       …食べて少し傾いて笑う。

       「…おいしい?」って聞いて、
     笑う君は静かにうなずく。


宵宮に彩る花ノ火のなか
…桜花ははか乃花に覆われた桜夕宮。

…おかげの花小道の続く桜夕宮は
花畑に包まれており、小さなちいさな

石座があった…。

…朱と桜色でかけた桜紙の垂縄。
…榊の代わりに桜木の依る…。
…神座は砂浜で拾った貝の化石を使う。

宮中の子ども達のプレイルームの近く、
化石の砂場でフリアの100均のスコップを

使って、貝の化石掬いをする。

拾った貝の化石は、桜夕宮へ
持っていって石座にする。

花ノわたつ海(み)の底に眠る鳳宮。
…石の神庫。

…夕暮の宵宮にかけて月がかげりゆく。
…若宮は狐火の舞ふ花小道をてんてんと行った。

夕宵宮夜の花祭りの後、
花灯ロウの立ち並ぶ花道を抜けて、

のどけき春の花丘を越えると…
夕影ノ森から桜花ははか乃野につく。

桜花ははか乃野は1年中花が枯れない〈常世〉をさす。

…弧を描いた花並木は若野山の道を
つらねて花守をたづねん。

桜花ははか乃野につくと、
色とりどりの花野がしきつめられた

花絨毯が広がっており、遠くには
花野山がみえて、近くには煙の燃ゆる

田畑と家々があった。

…萌え出づる桜花ははかに火が揺らめく。

花野の奥、
鳳宮と呼ばれるお屋敷の花夕宮があった。

…たくさんの花畑で包まれた
野に舞ふ…宵宮にたゆたふ花夕宮。

行く花小道はおかげの花となりて夕宵をてらす。

…若宮が花夕空をかけてゆく。

…足元にくすぶる花畑をちらしながら
ねずと共に行く。

…花畑をふみけらし花ノわたつ海をゆく。

「…ねず。風向きはどうだ。」

…若宮が声を掛ける。

「…うん。丁度いい。」

ねずが風車を回しながら言う。

桜花ははか乃野のなかに倒れかかるような
枝垂れた枯木の桜が一本、古い神庫と共にあって、

その奥に鳳宮が見える。

…小川のたもとを渡り、目高や田螺のいる
春瀬川を若宮が飛び越えると、鳳宮へ行った。

…桜花ははか色に香るゆらめきのなか
桜木が炎のように燃え上がった。

…鳳宮は赤い金の羽でできた火ノ鳥のいる
苺のミルフィーユみたいなエトワール。

囲いみたいなのがあって、

古いガーデンがあり、全体が
薔薇園のなかに包まれた鳳宮。

桃色のクリームをしぼった塔に
ジェリーチェリー(砂糖シロップ漬けのチェリー)の飾り。

その桃色のケーキみたいな鳳宮が夢の海に
浮かんでいで、近くの町には大きな

苺の形をした家々があって、煙突から煙が出ていた。

夢の海は想い出でできていて、
苺のお家は妖精が住んでいた。

苺の家の周りに、コーヒーとピッチャーの
大きな建物があって、妖精たちがコーヒーを

入れて遊んでいた。

エトワールのなか、
壁に貝の化石を埋め込んだお城もあった。

「…火の鳥!」

…深い谷あいの尾根をくだった山々から
赤い金の羽の火の鳥が飛んできて、

若宮の上を舞った。

…夕宵に誰そ彼れる金の羽は
火に輝いて、尾は美しくいてふのように燃ゆ。

鳳宮に奉る天ノ乃御矛を
若宮は手に取る。

天ノ乃御矛を前にその桜木を
一本手折ると石ノ神庫に供えた。

手折った桜花ははか乃花の枝と矛を
赤い花紐で結いひとつにする。

枝垂れた桜花ははか乃枝とひとつになった
矛を神庫の前に立てかきまぜる。

…おころ。おころ。と…

…こおろ。こおろ。と…

…天ノ乃御矛をかきまぜると火ノ鳥が
花びらになって、火のように舞う。

…霊火を灯した花わたの中から、
火の鳥が姿形を持って抜け出てくる。

…若宮を乗せれるくらいのその大きな鳥は
燃え揺らめく炎の中でその瞳をくゆらせていた。

…ケェ!と一声鳴くと、鳳宮の上に止まった。

…若宮は火ノ鳥の上に飛び乗ると、
空に高く舞った。

…花夕空に赤い金の羽がちりゆく。