…… ……
… …
花汐入の海辺でさざ波が揺れる。
もなみと若宮は先ほど
花野山で白花を摘んできたところだった。
花を片手に浜まで歩いてきた
海亀の背にのって
人魚になったもなみが泳いでゆく。
もなみの家系は人魚の血を引いている。
陽の光が当たると、人の足になって
花海につかると人魚になった。
途中、桜ノ宮に会って
竜宮までの道案内をしてもらった。
小さな妖の青い
フウライチョウチョウウオにつかまって
若宮は小さくなって
珊瑚礁の花海に運ばれていった。
少し早い花潮の流れに泡が立つ。
道案内をする桜ノ宮は
ス咲乃オ乃ゐ琴の分け御魂だった。
宮中では魂のつながった
分け御魂が集まっていて、
それぞれの生活をしていた。
分け御魂でも、考えることも、
することも、姿形でさえ、違っている。
もなみは実際に宮中でいて、
戸惑いを隠せないことが多かった。
…両手に花とは、このことだろうか。
魂がつながっているんだったら、
…肉体も繋がっているのかしら?
…愛しい、ス咲乃オ乃ゐ琴。
恋したのは、同じ一人だったのに、
…世界がちがってみえた…
青や赤の小魚が光の差し込む海のなかを
泳いでおり、貝殻の死骸がたくさん
落ちている海の道を歩いてゆく。
桜ノ宮が桜餡のつまったたい焼きの
お化けにつかまって、海の中を一緒に
泳いでいった。
…… ……
… …
花杏は宮中の内親王の
桜ノ宮の娘だった。
桜ノ宮は甘い顔立ちに花杏と同じ桃茶髪で、
花海のなかで本を読んでいた。
「…お父さん。」
本から顔をあげて
桜ノ宮は花杏の顔をみる。
「…うん?」
宮中の内親王たちは
精霊になる力をもっている。
桜ノ宮たちは人から人魚の
姿になって、水浴びをしていた。
夕日に揺れる浅瀬の花海で
花杏は一人、泳いで遊んでいた。
…せっかくあげたのに…
まだ七才になったばかりの花杏は
この前誕生日に父親の桜ノ宮に
もらった海に眠る真珠貝のブレスレットを
つけて、ぶーぶーぼやいていた。
「…ありがとう!」
桜ノ宮は花杏を抱きしめて微笑む。
「…似合うよ。」
金のブレスレットが揺れる。
「…つけてやんない!」
骨貝に住む妖精が言った。
「…私からもお礼!」
それは、花や星柄のダイヤのついた宝石箱に
人魚の涙をいっぱいためて集めたものだった。
クリスマスにプレゼントをもらって喜んだ涙や
お母さんに怒られて泣いた涙などが詰められていた。
涙型のダイヤモンドにうつる
涙をもらって桜ノ宮は言った。
「…もらっておくよ。」
「…ねぇ、その涙をひとくち
食べてみて私のお願い事を叶えてよ。」
「…え?」
桜ノ宮が苦笑いする…。
…それは、ちょっと…
「…それは私のもの!」
赤茶髪のパーマのロングヘアして、
黒桃色の瞳をした母親のりい乃が
手にとって、ひとくち食べる。
…もぅ…
「…しょうがないな。」
って言って、優しく
花杏を抱きしめた。
…… ……
… …
…泡のような常立の竜宮…。
海豚の泳ぐ潮の流れに身を任せ、
人魚の家を垣間みる。
そして、桜ノ宮が呼び止めた。
「…もなみ。」
夕海のてる火がうつる坂道を
手をつないで歩いてゆく。
大きな珊瑚礁の林のなか、
花々の咲き乱れるグラバー園のような
ガーデンの竜宮城に行った。
薔薇のステンドグラスのみえる
階段を通って、中庭に出る。
竜宮ではkoasobiの〈幸い〉が流れて、
妖たちが歌って踊っていた。
みんなは大広間に通されて、
宴に加わった。
イカが墨で絵を描いたり、
タコのつぼ売りや鯛の踊りをみた。
海月の赤ちゃんのお化けが
ふわふわ泳いで話しかけてくる。
「…若宮!トランプしよう。」
「…トランプ?」
「…そ!妖トランプ!」
そう言って、竜宮にいる子ども達と一緒に
トランプをし始めた。
「…妖抜き。」
トランプのカードをくって、
カードをみんなに渡していく。
妖のカードを引いたら、
ばば抜きみたいにカードをひく。
「カードからハートマークがでてる!」
もなみはトランプのエースをひいた。
ハートの数だけハートマークが
カードのなかから飛び出した。
若宮はスペードのエースを引いて、
同じのを出すと、「…次。」と言った。
… …
花汐入の海辺でさざ波が揺れる。
もなみと若宮は先ほど
花野山で白花を摘んできたところだった。
花を片手に浜まで歩いてきた
海亀の背にのって
人魚になったもなみが泳いでゆく。
もなみの家系は人魚の血を引いている。
陽の光が当たると、人の足になって
花海につかると人魚になった。
途中、桜ノ宮に会って
竜宮までの道案内をしてもらった。
小さな妖の青い
フウライチョウチョウウオにつかまって
若宮は小さくなって
珊瑚礁の花海に運ばれていった。
少し早い花潮の流れに泡が立つ。
道案内をする桜ノ宮は
ス咲乃オ乃ゐ琴の分け御魂だった。
宮中では魂のつながった
分け御魂が集まっていて、
それぞれの生活をしていた。
分け御魂でも、考えることも、
することも、姿形でさえ、違っている。
もなみは実際に宮中でいて、
戸惑いを隠せないことが多かった。
…両手に花とは、このことだろうか。
魂がつながっているんだったら、
…肉体も繋がっているのかしら?
…愛しい、ス咲乃オ乃ゐ琴。
恋したのは、同じ一人だったのに、
…世界がちがってみえた…
青や赤の小魚が光の差し込む海のなかを
泳いでおり、貝殻の死骸がたくさん
落ちている海の道を歩いてゆく。
桜ノ宮が桜餡のつまったたい焼きの
お化けにつかまって、海の中を一緒に
泳いでいった。
…… ……
… …
花杏は宮中の内親王の
桜ノ宮の娘だった。
桜ノ宮は甘い顔立ちに花杏と同じ桃茶髪で、
花海のなかで本を読んでいた。
「…お父さん。」
本から顔をあげて
桜ノ宮は花杏の顔をみる。
「…うん?」
宮中の内親王たちは
精霊になる力をもっている。
桜ノ宮たちは人から人魚の
姿になって、水浴びをしていた。
夕日に揺れる浅瀬の花海で
花杏は一人、泳いで遊んでいた。
…せっかくあげたのに…
まだ七才になったばかりの花杏は
この前誕生日に父親の桜ノ宮に
もらった海に眠る真珠貝のブレスレットを
つけて、ぶーぶーぼやいていた。
「…ありがとう!」
桜ノ宮は花杏を抱きしめて微笑む。
「…似合うよ。」
金のブレスレットが揺れる。
「…つけてやんない!」
骨貝に住む妖精が言った。
「…私からもお礼!」
それは、花や星柄のダイヤのついた宝石箱に
人魚の涙をいっぱいためて集めたものだった。
クリスマスにプレゼントをもらって喜んだ涙や
お母さんに怒られて泣いた涙などが詰められていた。
涙型のダイヤモンドにうつる
涙をもらって桜ノ宮は言った。
「…もらっておくよ。」
「…ねぇ、その涙をひとくち
食べてみて私のお願い事を叶えてよ。」
「…え?」
桜ノ宮が苦笑いする…。
…それは、ちょっと…
「…それは私のもの!」
赤茶髪のパーマのロングヘアして、
黒桃色の瞳をした母親のりい乃が
手にとって、ひとくち食べる。
…もぅ…
「…しょうがないな。」
って言って、優しく
花杏を抱きしめた。
…… ……
… …
…泡のような常立の竜宮…。
海豚の泳ぐ潮の流れに身を任せ、
人魚の家を垣間みる。
そして、桜ノ宮が呼び止めた。
「…もなみ。」
夕海のてる火がうつる坂道を
手をつないで歩いてゆく。
大きな珊瑚礁の林のなか、
花々の咲き乱れるグラバー園のような
ガーデンの竜宮城に行った。
薔薇のステンドグラスのみえる
階段を通って、中庭に出る。
竜宮ではkoasobiの〈幸い〉が流れて、
妖たちが歌って踊っていた。
みんなは大広間に通されて、
宴に加わった。
イカが墨で絵を描いたり、
タコのつぼ売りや鯛の踊りをみた。
海月の赤ちゃんのお化けが
ふわふわ泳いで話しかけてくる。
「…若宮!トランプしよう。」
「…トランプ?」
「…そ!妖トランプ!」
そう言って、竜宮にいる子ども達と一緒に
トランプをし始めた。
「…妖抜き。」
トランプのカードをくって、
カードをみんなに渡していく。
妖のカードを引いたら、
ばば抜きみたいにカードをひく。
「カードからハートマークがでてる!」
もなみはトランプのエースをひいた。
ハートの数だけハートマークが
カードのなかから飛び出した。
若宮はスペードのエースを引いて、
同じのを出すと、「…次。」と言った。


