…カタン。
…カラ。カラ。…カラ。カラ。
…カタン。
…カラ。カラ。…カラ。カラ。
…日曜の昼下がり。
宮中をでて、呉竹橋を渡り、いてふの並ぶ
玉の緒道をゆくと、花小川と待割道との間の
野合に、竜胆野で包まれた水車屋の
小さなお宿があった。
鬼の穴からでて、伊予橋をわたり、
田畑の並ぶ家々の小道を抜けて、
その路地裏のお宿についた。
彼は…浜に打ち上げられた後、
人魚の花杏がつれてきたのだった。
…トントン。
お宿の戸をたたき、薬師を呼ぶ。
…人の言葉は難しい。
花杏は何とか身振り手振りで
村娘の花乃に状態を伝えると、
海へ帰っていった。
花茨ノ君は可愛い和室で静かに横になる。
「…死んでないかなぁ。」
…ぼっこが淋しそうに言う。
「…泣いてないやい!」
…別のぼっこが泣きはらした目で言った。
「…早く元気になってほしいよう。」
…小さな体でそうだ、そうだ、と言う。
「…しばらくは安静にしてください。」
花乃が頷く。
薬師が包帯を薬箱にしまいながら言う。
男は上半身を包帯で手当てしており、
その体からは素肌がみえていた。
男の体はくぐつ人形でできていた。
体中、護符で張り合わせられていた。
…こんなにも、無理してしまって…
…姫を守るために、
こんなにも無理されるとは…
…この体は、もろい。
「…少しかすっただけだよ。」
「…くぐつ人形のお体では、
くぐつ術師も人がもういないので…
危ない目にあったときなんかは、
治るものも治りませんよ、若。」
「…大丈夫。
自分でなんとか、治せる。」
花茨ノ君と呼ばれた男は、
ゆっくり体をおこした。
「…いててて。」
傷口から血がにじむ。
「…まだ休んでないといけません。」
花乃が立ち上がると、彼に言う。
「…もういい。」
花茨ノ君は妖狐の尾花を呼ぶ。
…ピュっと笛を鳴らす。
「…治せるか。」
妖狐の尾花は、くんくんと
護符に使われた薬草の匂いをかいだ。
「…この匂いは、よひらの草。」
「…そうだ。」
「…これだったら粟井神社に
お使いに行ったら、よひらの護符が
もらえるので、そこまで行ってみる。」
「…お使い頼むな。」
「…あい。」
そう言って、尾花はドロン!て
竜胆野のなかに消えた。
花茨ノ君が立ち上がろうとすると、
「…まだ早いです!」
花乃の止める声も届かぬまま、
上着を持って宿を出ようとする…。
秋の野のなかに踊り出ていった
尾花の走る影ゆらの後を、
追いかけるように男は
青い竜胆をおいて去っていった…。
…カラ。カラ。…カラ。カラ。
…カタン。
…カラ。カラ。…カラ。カラ。
…日曜の昼下がり。
宮中をでて、呉竹橋を渡り、いてふの並ぶ
玉の緒道をゆくと、花小川と待割道との間の
野合に、竜胆野で包まれた水車屋の
小さなお宿があった。
鬼の穴からでて、伊予橋をわたり、
田畑の並ぶ家々の小道を抜けて、
その路地裏のお宿についた。
彼は…浜に打ち上げられた後、
人魚の花杏がつれてきたのだった。
…トントン。
お宿の戸をたたき、薬師を呼ぶ。
…人の言葉は難しい。
花杏は何とか身振り手振りで
村娘の花乃に状態を伝えると、
海へ帰っていった。
花茨ノ君は可愛い和室で静かに横になる。
「…死んでないかなぁ。」
…ぼっこが淋しそうに言う。
「…泣いてないやい!」
…別のぼっこが泣きはらした目で言った。
「…早く元気になってほしいよう。」
…小さな体でそうだ、そうだ、と言う。
「…しばらくは安静にしてください。」
花乃が頷く。
薬師が包帯を薬箱にしまいながら言う。
男は上半身を包帯で手当てしており、
その体からは素肌がみえていた。
男の体はくぐつ人形でできていた。
体中、護符で張り合わせられていた。
…こんなにも、無理してしまって…
…姫を守るために、
こんなにも無理されるとは…
…この体は、もろい。
「…少しかすっただけだよ。」
「…くぐつ人形のお体では、
くぐつ術師も人がもういないので…
危ない目にあったときなんかは、
治るものも治りませんよ、若。」
「…大丈夫。
自分でなんとか、治せる。」
花茨ノ君と呼ばれた男は、
ゆっくり体をおこした。
「…いててて。」
傷口から血がにじむ。
「…まだ休んでないといけません。」
花乃が立ち上がると、彼に言う。
「…もういい。」
花茨ノ君は妖狐の尾花を呼ぶ。
…ピュっと笛を鳴らす。
「…治せるか。」
妖狐の尾花は、くんくんと
護符に使われた薬草の匂いをかいだ。
「…この匂いは、よひらの草。」
「…そうだ。」
「…これだったら粟井神社に
お使いに行ったら、よひらの護符が
もらえるので、そこまで行ってみる。」
「…お使い頼むな。」
「…あい。」
そう言って、尾花はドロン!て
竜胆野のなかに消えた。
花茨ノ君が立ち上がろうとすると、
「…まだ早いです!」
花乃の止める声も届かぬまま、
上着を持って宿を出ようとする…。
秋の野のなかに踊り出ていった
尾花の走る影ゆらの後を、
追いかけるように男は
青い竜胆をおいて去っていった…。


