…鈴(レイ)が古ぼけた夜中のお店で、
たくさんの妖たちに見守られながら…
…青いチューリップをもなみに手渡す…
…これが月花藍草鈴
(つきはならんそうりん)と
…呼ばれる由縁である…
それは、こノ世で最も恋しい人に贈る、甘く薫る
二藍の淡桃にチューリップの咲く直衣(なおゐ)だった…
❀❀❀
…ゆら。ゆら。ゆら。 …桜天秤の重りが揺れる…。
…時空をこえた、渦をまいた花ノ疾風刻…
大気の壁に穴があいて、花の渦がとけた
御魂の霊花イ〈レイカイ〉になったもの…
このtimesliphallに行っては、桜天秤に揺れる。
ねじ曲がった時空のひずみにあるこの
…小さな都の真ん中の花荻野ノ国に、
桜花ははかノ花がたユまなく咲き乱れる…
…桜花ははか乃野があった…
空花世(うつしよ)とは、
水鏡に映ったこノ世のこと。
この花荻野ノ国は、幽花世(かくりはなよ)と
桜花ははか乃野にある常世と今の空花世(うつしよ)
の三つの世界がある。
花恋絵巻のなかの桜花ははか乃野には
timesliphallになっていて、
こノ世とあノ世の守り人が宮杜していた。
…空花世(うつしよ)の花夢月の四ッ刻…
…春先、庭に白い花の咲く宮中の
花畑で、幼いもなみと鈴(レイ)は
黄色い花ててふをとって、遊んでいた。
花の咲く春の宮中は面影を残して
よよらよよらとうららかな日の光に
照らされてやわらかい花風が吹いている。
その夢のような花宮は…
大人になった鈴の
空花世の姿を映し出していた…。
鈴は癖のある茶髪に藍墨色の瞳、
形のよい唇に
二藍に淡桃のチューリップ模様の
直衣(なおゐ)着ていた。
一方、もなみは
栗色の髪の毛に杏色の瞳、
berry colorのチークをつけたりんご頬に、
薄紫の花袖に
二藍にチューリップ模様の
キャミワンピを着て、
ピンクフレアなリボンシューズをはいていた。
…二人はAndroidを使って、今の東京から
平安時代までtimeslipする…。
「…魂に姿はあるの??」
「…神様って、結うんだよ。」
子どもの鈴は嬉しそうに答える。
「…僕、それになる!」
「…いいなぁ。」
もなみがうっとりとした目で眺めた。
「…じゃあ、霊王(レイオウ)に
ならないといけないな。」
二人が遊んでいる宮中の花池の水面に
ぬっと父親の影が落ちては、そう言った。
「…お父様!」
鈴ともなみが父親の腕に
抱きついてはぶら下がって二人とも肩車した。
「…霊王って??」
もなみが不思議そうに話しかける。
「…霊王は、花恋絵巻を描く神様だよ。」
「…花恋絵巻って??」
鈴は気になってお父様に声をかけた。
「…鈴の恋人さ。」
「…僕のお嫁さん…♥」
「…ふ‐ん。」
もなみがまたもや不思議そうに鈴の
にやけた横顔を見上げる。
「…僕のお嫁さん…♥」
花恋絵巻を抱きしめて
鈴が嬉しそうに微笑んだ。
「…もなみちゃんがいいな♥!」
「…花恋絵巻に描いてあげる!」
「…鈴…。」
「…鈴!
大好き♥!嬉しいッ!!」
もなみがふわっと鈴を抱きしめる。
「…二人とも、まだ遊んでな。」
父親が子どもたちを降ろして
宮中に帰ると、鈴は胸に抱いた
花恋絵巻を懐に入れて
桜花ははか乃野まで颯爽とでかけた。
山鳥が鳴いて、心地の良い
空気が辺りを包み、ゆらゆら舞う
桜花ははか乃野まで三人は来ていた。
蛙の鳴く春瀬川を飛び越えて、
蕨や蕗の薹の咲く野を越えて、
桜花ははか乃野の下に降り立つ。
お弁当を持って、三人は
桜花ははか乃野の裾野で食べた。
桜むすひにタコさんウィンナー♥、
鶉のゆで卵にほうれん草のおひたし、
ミートボールがおかずに並んでいる。
鈴はおかずのミートボールを
口いっぱいに頬張って、
もなみは桜んぼを口にくわえると
ぷちっとヘタを取って上手に食べた。
お昼ごはんを食べ終わると、
三人は桜花ははか乃野で花恋絵巻を
広げて読んでいた。
花恋絵巻で三人は
千年先の刻をみにいく。
✿✿✿
‐今‐ …東京…
渋谷の交差点でもなみは
Androidのなかに映った
待ち受け画像のアニメのキャラクターの
男の子に恋して歩いていた。
男の子は鈴に格好がよく似ている。
鈴は、癖のある茶の混じった黒髪に
藍墨色の瞳、
すらっと高い身長にドットの入った
女物のパーカーを着ている。
もなみはAndroidの画面に向かってこう叫んだ。
「…今すぐここから連れ出して♥!ダーリン♥」
携帯のAndroidの画面から、鈴を呼ぶと
魂がなかから抜け出してもなみの手をひく。
「…こっちだ!」
波ゆく人たちに押し流されながら
二人が手をひいて渋谷の交差点を走り抜ける。
「…待って!」
もなみがつないだ手を握り返す。
「…鈴。」
…走りながら鼓動が胸の奥で高鳴る。
…揺れる黒髪に、あなたを想いながら
道の真ん中で立ち止まったら、
「…あ‐もう!」
って髪の毛をかきむしりながら俯いて
頭を抱え込みながらしゃがみ込むと
なんだか妄想してた♥?!って、何を♥?!わら
って、そんな彼が大好きだから
立ち止まって握り返したこの手を、
ぎュう…♥って結んで、しゃがみ込んだ
彼の傍に同じようにしゃがみ込んで
ぎュう…♥って、抱きしめた。
夢来鳥が夢のなかをつたって
淡い声で鳴いている…。
「…大好きだよ♥!鈴!」
交差点で信号が青になったとき、
人があふれた道路の真ん中で
抱きしめた手を緩めると、あなたの
顔を下から見上げる。
「…恥ずかしい!」
癖のある髪の毛をがしがしかきながら、
鈴が抱きしめ返した。
「…あ‐もう!好きだから!」
って、そう、鈴が人混みの
なかの道路の真ん中で叫んだら
「…携帯のアイコンを
チューリップ模様に変えてってば!」
「…なにそれ!」
「…いいから、早く!」
「…ちょっと、何よ、もう…ッ!」
そう言われて、携帯のAndroid画面の
もなみはアイコンをチューリップ模様に変える。
すると、「…あ‐だから、そうだってば!」
って、頭をがしがし♥!
もなみが鈴の頭をなでながら
「…何がそうなのよ!」
って、答えかける。
待ち受け画像から抜け出てきた
彼の魂がもなみの手をひいて、
交差点を横切ると、そのまま
画面のなかに飛び込んで、
チューリップ模様のアイコン画面に映った
携帯のAndroidのなかに吸い込まれると、
平安時代にtimeslipした。
携帯の恋愛小説の〈花恋絵巻〉
ってゆ‐作品を読むと、なんだか、そんな感じって♥!
✿✿✿
‐平安時代‐ …宮中…
〈春の花の戸〉
ゆらゆらと桜花ははか乃花が
舞い咲(ち)るなか幼い鈴が筆を走らせる。
…今は昔、花園の若宮ありけり…
…君を、君を想ふ…
鈴の癖のある茶髪が揺れて、
その瞳に映るのは、てのひらに
花びらを浮かべて、占う…
若宮の姿を想い描いていく
小さな心だった。
…君を、君を愛(いと)う…
桜花ははか乃花がひらひら舞い咲(ち)って
夢のような花恋絵巻のなかを若宮はかけてゆく。
…若宮は素朴だけど整った容姿に、
花墨色の夕瞳、細身の長身に
鈴と似た癖のある黒髪をした
二十二、三の若舞だった。
鈴が黄色いててふを追いかけると、
もなみが手でてふてふをつかまえる。
若宮のそばを二人がかけぬてゆくと、
一瞬、花が舞い上がって
瞳のなかに映る君の姿を
描く僕は、魂だけでみえてないせいか
「…ちがわない。」
…って、花恋絵巻の花墨色に
そっと呟いた。
若宮の魂がふわっと花空に
浮いて、さぁっと桜の花がそれに
答えるように揺れる。
白い花畑のなかたくさんの花を
散らしながら黄色いててふを
若宮は追いかける。
…てふてふを、追いかけて…
…つかもふか…
…むすほふか…
…つかもふか…
…むすほふか…
‐…あなたに、会いたくて…‐
…仄かに匂ふ香のかほり…
かけよる私は、
…つかもふか…
…むすほふか…
…つかもふか…
…むすほふか…
…そうしたら…
…ててふが舞い込んでくる…
…そうしたら…
…そうしたら…
…つかまえた…
‐…抱きしめた…‐
…両手を広げて抱きしめた、あなた…
…私を、ててふを、
…抱きしめる…
…抱きしめる…
…抱きしめる…
…抱きしめる…
…抱きしめる…
…想ゐ出すあなたヲ…
あなたを、そう…想ふのに、
…てふてふのように…
…この手ヲ、すり抜けてユク…
…わたし、だけのもの…
‐…あなただけヲ想ゐ描いて、
いて…そう、いて ほしい…‐
…つかまえた…ててふヲ、
…抱きしめた…
…花夢月の空を舞う珍しいこの
黄色いむく鳥は季節の折りめを告げる。
黒い花渦の舞う霊花ゐ〈レイカイ〉のなかを
まろぶように鈴ともなみは平安時代にtimeslipしていた。
もなみと鈴は花野山に囲まれた
この花荻野ノ国の
桜花ははかノ野へと転送されていた。
…ドサッ!「…いたた。」
もなみは〈花恋絵巻〉ってゆ‐、
書物のなかにtimeslipしていた。
桜花ははかノ野って、描いてある。
確かに上を見上げれば
ざあっと、千の桜花ははかの揺れる
野がどこまでも続いてるのがみえる。
花曇りの空に雷のなる機嫌の悪い
空模様が甘い香りのする桜花ははかノ花を
千に散らしていた。
ゆらゆら舞う桜花ははかノ花が
目の前に咲(ち)って、桃色のそれが
野にかぎろゐ移りゆく。
timeslipするときにwarphallで拾った
黄色い小鳥のむくは
鈴の両手のなかでピィピィ鳴いては
何事か話しかけている。
桜花ははかノ野の花の枝に
古くて錆びた可愛い小鳥のかごを
取ってきて、むくを両手でそこに入れる。
「…鈴(レイ)!」
「…花恋絵巻のなかだから!」
「…ど‐ゆうこと、だよ?!」
鈴がびっくりして目を回しながら言う。
「…花恋絵巻‐ッ?!」
「…ほんとだ。〈花恋絵巻〉って描いてある。」
白い菊の花模様の赤い和紙で表紙を包んだ花恋絵巻。
この絵巻物のなかから肉体が抜け出て、
平安時代の桜花ははかノ野へとtimeslipしていた。
もなみは辺りをぐるって見回すと、
「…ここって、どこッ?!」
「…ちょっとォ‐?!!」
そう叫んで、鈴の腕を座って引っ張る。
Androidのなかをみてみると、
電源が落ちて切れていた。
「…あ!ど‐しよう?!」
携帯電話を握りしめて、
「…ここは平安時代だから。」
って、むくが言う。
「…平安時代って、鈴?!!」
花恋絵巻のなかから出ていくと、
体がふわっと軽かった。
鈴が優しく抱きしめて立たせてくれる。
「…鈴。うそ…。」
しぃんと水を張った湖の底のように
静かな桜花ははかノ野に緊張感が走る。
さぁっと、桜花ははかの花が千に揺れる。
「…やめてよ、離して。」
「…やめてって、ど‐ゆうことだよ!」
「…やめてよ、離してってば…!」
桜花ははかノ花が花風が吹くたび
千に揺れて淡い二人を包み込む。
抱きしめてくる鈴の腕を
突き放して、遠回りする。
「…友達だから!」
「…友達って、ど‐ゆうことだよ!」
雷の通る春空に夕立が降ってきて
ぐしゃぐしゃになった
涙に、友達って言葉が突き刺さる。
「…やめてってば!」
もなみが大きく突き放すと、
「…ちょっと、待てよ!
おい!もなみ!!」
むくが夕立の空にカゴのなかで話しかける。
「…追いかけるんだ!」
走り去るもなみの手を掴んで、
もう一度、強く抱きしめる。
「…好きなんだ!」
「…やめて!これ以上…」
抱きしめられた腕に力がこもって
強く否定しても抗えない。
「…もう少しだけ。」
「…これ以上、抱きしめないで!!」
「…泣くなよ!」
涙と夕立でぐしゃぐしゃになった頬に
鈴が手を置いて、拭ってくれる。
「…やめてよ、もう…。」
また溢れ出した涙が止まらなくなる!
「…好きだってば…。」
「…ん?」
鈴が下からもなみの顔を見上げては、
知らないふりする。
「…なんで、知らないふりするの。」
「…もう!」
抱きしめた彼の胸に手を置いて
強く叩きつける!
「…なんだよ!あっちいけよ!」
「…どうして!!!」
「…どうしてって、お前…。」
鈴が弱気になって言い淀む。
すると、鈴が突き放すように言った。
「…嘘つき!!!」
「…好きだ!誰よりも!!!」
夕立のなか二人が走り出す。
花小川の向こうを飛び越えて、
桜花ははかノ野の花を
散らしながら野をかけてゆく。
雷のなる夕立のなか、大雨が振りつける。
鈴の面影を想って、もなみは走り出した。
「…待って!鈴!!」
「…行くな!!!」
「…好きなんだ!!!」
鈴がもなみにfirst♥kissする。
何度も繰り返してkiss♥する。
❀❀❀
「…ど‐も、こ‐も!」
もなみがため息をつく。
「…花恋絵巻は過去と今と
未来をつなぐ役割を果たすんだ。」
小鳥のむくが言った。
「…timeslipするもんね!」
❀❀❀
…ゴロゴロ。
雲の隙間に雷がゆく。
晴れた春空から急に曇り空が立ち込める。
ゆらゆら舞う桜花ははか乃野で
火の灯火と同じように千の花が揺れる。
幼い二人は花恋絵巻に夢中になっていた。
「…花恋絵巻に‐宮中‐って、描いてある…。」
「…ほんとだ。」
花恋絵巻のなかで大人になった
鈴が宮中でもなみを抱きしめているのがみえる。
「…ふわぁ。」
…夢をみる。花夢を…。
竜胆地の青い搾りに花和柄の
パッチワークキルトをあてて、
膝丈までのミニドレスに
上から長いレースのフレアチュールを
ふわっとかけたウェディングドレスを
着て、もなみは宮中で結婚式を挙げていた。
「…鈴(レイ)??」
「…鈴だ!」
ブルーのチューリップのブーケトスを
ふわっと後ろに向けて花嫁が投げる。
「…もなみ!」
…トサっ!とブーケトスが
桜乃(ははの)の腕のなかに落ちた。
桜乃は親戚の子どもで
まだ五歳にもみたなかった。
和花柄の搾りのつく
白色の狩衣に
編み上げのブーツがよく似合う。
「…花恋絵巻を描き上げるって…。」
鈴が想い出すように呟く。
「…なんでですか。」
「…なんででも!」
もなみが言った。
「…ええっ?!そんなぁ!」
鈴があまりの理不尽さについ声を上げる。
「…結婚式だから、し‐ッ♥!」
桜乃の母親がし‐!と、指を立てる。
結婚式の華やかなパーティーが
宮中で広げられ、二人は花恋絵巻
のなかでそれをみていた。
若草に白いたんぽぽの咲く
桜花ははか乃野のなかで
鈴ともなみは夢から目を覚まし、
花の時空をかけていった…。
✿✿✿
…ててふとむく鳥と…。
同じ黄色いいきもの同士。
ふわふわの短くて黄色い毛並みの
ぽたっと丸く膨らんだ小鳥のむくは
鈴の両手に座って四角いビスケットを
口にはんでは鳴いていた。
むくが囀ってはもなみをついばむ。
…てふてふとむくと…。
…空を飛んで君を追いかけては
自由に空を飛ぶあたしを抱きしめて…。
…まぁるくお空にう‐かぁんだ
小鳥のそれは、あたしにならない。
つかんで、夢みて、なぁ‐らんだ
ててふのそれは、彼にならない。
…小鳥のそれと、ててふのそれと…
飛んで、まわって、なぁ‐らんだ
あたしのそれは、たなごころ。
鈴の小鳥を、あたしのててふを、
そっと、つかんで、まぁ‐わった♥
あたしのそれは、ゆめごころ。
…もなみはつかまえた花ててふを
手に幼い鈴に向かって、笑ってこう叫んだ。
…あなたをとても愛しいと想っている…
「…もう一回、寝たいゾ♥」
「…そ‐ゆう、人でしょ♥?!わら」
(…大好きだよッ♥…)
「…そ‐ゆうカンケ‐♥!わら」
…春花山に白雪の積もる十七年の
長い刻が経ち、二人は二十ニ、二十三に…
❀❀❀
‐…月の雫の垂れる夜に、一刻一刻
月がかげるごとに、桜花ははかの実がなる…‐
…桜花ははかノ花の舞い込む疾風ノ刻…
…おかげののった春風のなかを…
…鈴(レイ)ともなみ…
結ばれた二人が喜び合いながらかけてゆく…。
ねじ曲がった時空のひずみにある
桜花ははか乃野…このtimesliphallに行っては、
鈴は、小さく春息吹をついた。
「…恋しい人、あなたヲ
想い出さずにはいられなかった…。」
❀❀❀
さぁさぁ小雨の降る小道をゆくと、
鈴は勿忘草の咲く野の続く
…小屋の端を走っていった。
小屋の傍を抜けると、
楠の木の立ち並ぶ森につく。
鈴は水たまりの近くにどろんこになって
落ちた桜花ははかの実のイヤリングを拾って、
ポケットに突っ込んだ。
「…僕じゃないと、いけないんです♥!」
…夢輝星に瞬く、夜半の月夜のかげる日に、
桜花ははかの実を摘む。
そして、その桜花ははかの枝からとれる…
甘い花蜜を小瓶に入れ、その実を浸す。
人差し指を花の懐剣で切って、
その人差し指から流れ出た、
人魚の血を一滴垂らすと〈花血蜜〉なる秘薬ができる。
‐…その〈花血蜜〉を飲むと、永遠の恋が叶うという…‐
…… ……
… …
花荻野ノ国 AM10:00 -
〜Denmark . copenhagen . PM10:00 -
そこは、
christmasの夜に魔法がかかった
フランスの桃色の岩塩の入った
クロッククッキーやchocolateでできた
お菓子の家だった。
クッキーやビスケットでできたドアや
大きなアメの形をした小窓に
カラフルな作りの屋根、丸みを帯びた
デフォルメの小さな家だった。
春のおぼろ風(おぼろる)の
舞い込む夜に鈴はその家のドアを叩いた。
…カラリ‐ン。
薔薇の鉢植えのなかに眠っていた小人が
人が来るのをみて、ランタンのなかの火を消して
油入れの取っ手をとると、下に引っ張った。
この魔法のお菓子の家は、
カラクリが回ると、季節の扉が開く。
この花荻野ノ国ではtimesliphallの
修復がネジやバネを使った機械で
動いていることが多くて、
手作業の修理に時間がかかることが多い。
今回のクライアントも厄介だ。
christmasの魔法のかかった
クッキーを一口かじると、
timesliphallに無花果ジャムがつく。
可愛い茶色いくまちゃんのアイシングクッキーで
できたドアを開ければ、春から冬へ季節が変わった。
鈴のいる花荻野ノ国では、
このドアを開けると…
冬のcopenhagenへとつながっていた。
…copenhagen…
ボイラーの火が零れ落ちていて、
煙突から黒い煙が立ち上っている。
christmasのイルミネーションが
この街を飾る雪の夜に彼は叫んだ。
「…ど‐ゆう、ことですかッ?!」
部屋のなかに入ると、鈴は
体格のいいレティに噛みつくように
いうと、鈴はchristmasプレゼントの
一つを掴むと、近くのソファに放り投げた。
さっきいた小人にもらったものだ。
timesliphallを抜けてきたせいか、
まだ白雪の積もるこの街は
彼の纏う空気の、
春のおかげに違和感を感じていた。
「…僕じゃないなんて、考えられません!」
「…ほんとは僕だったって、彼女が言ってたんです!」
christmas marketのモミの木の下に
プレゼントがいっぱい置いてある街並みの
なかの一つの家に、人魚が海から歩いてきて
部屋のドアを開ける。
「…待って!」
彼女は赤毛のロングヘアーに栗色の愛夕瞳、
細身で華奢な姿にコリンヌという名前が
ついていた。
「…ミスレティ♥!」
レティは鈴の顔をじっと見つめると、
しばらく考えてゆっくりドアのほうをみた。
「…待ってたわ。」
まだ暗い真夜中の雪の降る中、
大きな体のレティは彼女の外套を取る。
彼は、
for youと描いたHEARTをもったくまちゃんの
アイシングクッキーのドアをコンコンを叩いた。
「…はい。」
…花荻野ノ国の秋のお部屋で
もなみは無花果のジャムに赤ワインを
入れて、ジャムを作っていた。
「…彼だけだったって、顔に描いてる。」
すると、もなみは小人からお菓子の家の
壁の砂糖漬けのサブレを1枚とって、
鈴の口に放り込んだ。
「…それで??」
もなみはクッキーにジャムを塗っていく。
作り立てのジャムクッキーに
手を伸ばしながら鈴はもなみの方をみて言った。
「…だから、ほんとは僕だってことでしょ♥??」
「…そうそう♥鈴だけだよ♥!」
もなみはもう一つ瓶に詰めたできたばかりの
苺ジャムをクッキーにおいて、鈴の口に突っ込んだ。
…ドアごしに隣の部屋をまたぎ、
レティは、部屋の暖炉の上にある
甘い香りのする〈花血蜜〉を
魔法の鍋のなかで、くるくるかき混ぜている。
「…それと、これと、どう関係が?」
…小人が話を聞いて、言う。
「…あら、可愛らしいイヤリングじゃない!」
レティが言う。
「…これ、桜んぼね…。」
レティがどろんこになった手からloop hallにあった
イヤリングを受け取ると、コリンヌが言った。
「…ちがう!」
「…loop hallはとても危ない!」
「…行ってはいけなかった!!!」
小人が鉢のなかの薔薇の花を摘んで、
花瓶に生けている。
「…そう。」
もなみは瞳を瞬かせて、
鈴の顔をじっとみる。
「…あなたにしか、
わからないことがあるんです。」
…ど‐ゆう、ことなんだろう。
「…大変!」
もなみは目を見開いて、
鈴の雨に打たれて
どろんこになった姿をみる。
かちゃかちゃと花血蜜の瓶の音がして、
レティがお薬を合わせていった。
「…やっぱり!」
「…悪魔が心臓を掴んでる!!!」
鈴のどろんこになった姿にタオルを
持ってくると、コリンヌが鈴に手を伸ばす!
「…あっ!」
悪魔がつながった魂の器を食い破っている!
鈴の心臓がそのままtimesliphallで
もなみの心臓につながっていた。
「…危ない!!!」
loop hallにtimeslipした玲斗の心臓は
泥だらけになった胸の砂の跡を
もなみの手で拭ってゆく。
「…心臓がすり替えられてる!!!」
悪魔の心臓は花血蜜を流すと、
悪魔との契約が切れるという。
「…危ない!!!」
「…きゃっ!」
悪魔が空を飛んできて、もなみの
背中に花紅色の薔薇の硝子の欠片を
…差し込んできた。
「…いたっ!!!」
「…それって、桜んぼってこと?」
小人さんが言う。
鈴がイヤリングにたわわになった
桜花ははかの実を摘み取り、レティに渡した。
「…じゃあ、花恋絵巻じゃない?」
すると、どろだらけの鈴が
花恋絵巻を広げると、
鍋にくべている花血蜜を掬いあげて、
花恋絵巻に一滴垂らして
筆で何か書き始めた。
「…うう。」
背中に硝子の欠片が食い込んでくる。
「…やめて!」
コリンヌが鈴のポケットのなかに
入った桜花ははかの実を掴むと、花血蜜を
くべている鍋に放り込む。
「…eat me♥!」
すると、ぐつぐつ火にかけた
魔法の鍋から悪魔がでてきて
スグリとベリーのパイが話しかけてくる。
かぼちゃのランタンみたいな尖った歯に
鬼灯みたいな目に黒いすすコケた姿、それに、
しっぽが生えてた愛らしい悪魔がパイにのっている。
お鍋の底に沈んだイヤリングがことこと煮詰まる。
いかにも可愛らしい姿とはいえない。
「…お前の大事な物と
引き換えに欲しいものをやろう。」
…らぁん。…らぁん。
雪が降るDenmarkの街並みを照らす
アメ色のビジューアテードに
常世にある…桜花ははかノ杜の鐘が鳴る。
もなみの魂が桜花ははかノ杜で
花鞠を転がして遊んでいる。
「…あっちの鞠は、一ノ宮さん…。
…こっちの花は、二ノ宮さん…。」
…水たまりの円を描いて、
鞠を放り投げては
遊び歌を、もなみが口づさむ。
…鈴の描いた花恋絵巻から
絵が飛び出してきては、人はそれを魂と呼ぶ。
花ノ墨で滲んだ花恋絵巻は物語のなかで桜の花の
舞い込む花吹雪になって、そうして淡い光に包まれる。
黒くすすけた悪魔の言葉に、
勿忘草色の雨が降り、ポツポツと
花恋絵巻にできたしみが黒く滲む。
花恋絵巻に琴ノ花(コトノハ)が浮かんでくる。
…あなたのほんとに大切なものは、なんですか?…
悪魔は意地悪そうに笑うと、
鈴の持っていた桜花ははかの実と
共に空色の雨になって消えた。
「…あっ!!!」
もなみの背中に薔薇の欠片が
刺さると、耳が聞こえなくなった。
…何も聴こえない!
「…あ‐ッ。」
美しい歌声が自慢だったもなみの声もでなくなった。
「…悪魔の心臓に花血蜜を流すといい。」
庭の綺麗な薔薇の花園が広がるところで
もなみが一輪花を摘み取ると、悪魔にばらまいた。
「…ちがう。」
「…世界中で誰よりも、あなたが欲しい…。」
花の懐剣で悪魔の心臓を一突きして、
心臓に流れた悪魔の血を一滴もなみは飲み込むと、
体中に痺れがきて、悪魔になった。
「…悪魔だッ♥!」
「…あたしが欲しいものは、
声でも音でもなくて、鈴(レイ)あなたなの!」
コリンヌが花血蜜を心臓に流して、
悪魔との契約を破棄すると、
悪魔になったもなみに鈴が
手を取ってぐるんと回ってdanceをする。
花血蜜の瓶に楠の葉と波ノ花と
わたの水、桜ノ穂をまぜて、
桜花ははかの実、くぐつ人形のもなみの
血をまぜて花血蜜を作る。
クロッククッキーの家は閉ざされた城のよう。
つながれた白い部屋は、積み木で遊ぶ
子どもたちの声がして、明るい灯火がする。
花茨でできたその城の大広間から入った
女王の部屋に魔法の鏡があって、
その魔法の鏡の中に入ると、勿忘草の
花畑の広がった野について、しばらく歩くと、
白い部屋はクロッククッキーの
香りがして、お菓子の家になった。
「…預かっていたあなたが選んだ指輪を渡すわ。」
「…うん。」
「…さぁ、頑張って♥!」
レティが鈴の背中を押す。
「…でも、本当に好きな人で
縁結びしないといけないから…
だから、それはお前ってことね。」
「…えぇ?!私ッ?!!」
コリンヌが慌てたように言った。
「…もなみ、あなたよ!」
「…つまり、私が愛してるって
想うのは、鈴、一人だけだよッ♥」
「…世界中で誰よりも♥!」
花血蜜のお鍋から離れて、
もなみが子ども達と一緒に
一個ずつクッキーを切っていく。
この生地がからまって、もみくちゃになる。
ハートの型を手にとって、子ども達に
くり抜いた生地にハートのクッキーを
プレートの上に置いてゆく。
「…そんなに好きなんだ。」
「…うん!」
「…まさかカクザトウじゃあるまいし!」
「…幽閉って、こと?」
「…そ‐じゃないけど!」
「…cafeに行けばい‐のよ♥!」
レティが困ったように言った。
「…そんなに捕まっちゃう人いないわ!」
「…手錠が指輪になって、
牢がお菓子の家になったら
ここから逃げ出せるわ♥!」
「…鈴、一緒に
ここから連れ出してあげるから!」
もなみは鈴の手を引いて、
花ブルーのエプロン姿のまま
お菓子の家を出ていく。
chocolateの煙突からわた菓子が
でていて、薔薇の花の咲く庭は
1枚の絵のようで、とても美しかった。
2時の振り子時計の鐘がなった
薔薇の花園のなかで、鈴がもなみに言う。
「…これから僕にどんなことがあっても、
愛しているのは、もなみだけだと想う。」
「…鈴…私も。」
空花世(うつしよ)を二人でみに行こう。
窓際からみえたbed♥の傍で
月明かりのなか指輪を交換する。
薔薇に飾られた城で魔法の鏡を覗くと、
汽笛の音と共にお菓子の家の周りを
白い鳩が空を飛び舞う。
そして、花恋絵巻を読んで
近い未来で二人が結ばれることを知った。
…鈴と甘いkissをする…。
花茨の森のなかで小鳥のさえずりを
聞きながら、眠り姫は…目が覚める…。
❀❀❀
チェックアウトが少し遅れたけど、
…もなみは花桃色の春コートを翻して、
近くのスタバに入ると、青いカップに入った
コーヒーを頼む。
鈴はカウンターにホテルのキ―を置いた。
スタバのマスターに入れてもらった
苺のキャラメルマキアートを
一口飲んでそれを机に置くと、
もなみは鈴にコーヒーを渡した。
「…またいつもみたいに笑って♥」
「…ダーリン♥」
…… ……
… …
…Denmark…
…Copenhagen…
〈Tivoli〉
…刻はかねて、12月24日。
…今日は、クリスマスイヴ。
…サンタクロースの雪降る夜…
…初雪の降るこの街にイルミネーションの光が輝く…。
…白や赤や緑に飾られた星屑の瞬くこの夜にゆく…
クリスマスマーケットが楽しげな笑い声のなかに揺れる。
厚手のコートにイチゴに
chocolate dipを食べて。
chocolate stickの入った
hot cocoaにchocolate viscuit cakeを添えて。
❀❀❀
金のイルミネーションのガーラントのなか、
ゲートが開く。真夜中の遊園地…。
ウェディングドレスを着て、幽体になった
妖たちと一緒に、メリーゴーランドに乗る。
コーヒーカップに乗って、
くるくるテーブルの上を回る。
後は、街中見下ろせる観覧車!
キラキラ光るイルミネーションに揺れる
街と観覧車はとても綺麗だった。
…ボーン。…ボーン。…ボーン。
……午前0時。
…振り子時計の鐘が鳴る。
「…結婚おめでとう!」
…チボリ公園の教会のミサ。
教会のなかにぽっくり浮かんだ花海に
幾千の魚たちの妖精の群れが人魚の歌声と共に祝福する。
星のクルクルキャンディ棒のstickを持った
天使たちが空を飛んで、カゴに入れた花束を
ふわ…っと花嫁にかけながら喜びの声をかけた。
正装した牧師が教典を手に教壇に立つ。
パイプオルガンの音が響く。
「汝、病めるときも健やかなるときも、
富めるときも、貧しきときも、互いに愛し、敬い、
支え合うことを誓いますか。」
竜王と王女は二人とも手を取り、誓い合う。
「はい、誓います。」
ケラケラ(一つ目小僧のお化け)や
ケセランパサラン(鼓草の小人のお化け)などの
妖たちが声を上げる。
竜王は言った。
「…結婚してほしい。」
栗色の腰まであるふわふわパーマのロングヘアの
王女は、美しい面顔と大きな瞳を振るわせて願った。
「…この結婚がいつまでも叶いますように。」
Frouxのサクラコフレをエンゲージリングの代わりに
…そっと彼女の目の前に渡して、竜王は、その草薙ノ剣に
…星や花やハート柄のダイヤモンドやビジューを
霊剣に埋め込んで飾った細長いスティック状の六角形の
クリスタルの形をした霊剣…に、
…誓いを立てる。
「…竜王一族の名において…。」
ゆるふわパーマの黒髪に頬に無数の三ツほくろ、
蘇芳色の直衣(なおゐ)を着た
竜王は、その美しい横顔をみせて言った。
…竜王はス咲乃オ乃ゐ琴、
王女は眠り姫と呼ばれていた。
胸元から肩にかけてクロスしたチュールが
花々を飾る腰元のリボンが華やかな夢色の
チュールドレスを着た王女が両手を握って祈りを込める。
白金の果物を形どった宝石でできたtiaraに白いレースの
チュールのベールをふわ…っと上げて、彼女は誓いの
…kissをする…。
…竜王と眠り姫は二人甘いkissをする…
頬を伝う涙が宝石となって、ポロポロと床にちらばった。
…たくさんの人たちに愛されて、
たくさんの妖たちに囲まれて、
お祝いの声と花畑とライスシャワーに
包まれて、二人バージンロードをかけてゆく…。
…バンッ!
…突然、教会のドアが開く。
ホテルのキーが桃色の天然石の床に
かちゃん!と、音を立てて落ちた。
黒いシャツに黒いスーツ、
癖のある黒髪に香水の香りのする
彼が、
…二人の目の前に立ちはだかる。
「…どうしても叶えたい、ものがある…。」
…ぼっこ(子どもの妖怪)たちがやんや言う。
「…お前、そうだろ!」
「…ちがわい!」
…片手をドアの横において倒れかかる
ようにして花嫁に話しかける。
「…私の嫁になってほしい。」
「…え?」
土でできたくぐつ人形が鬼にかわって、
二人の周りを取り囲む。
すると、
王女の前に天秤を持った、老婆の魔法使いが現れた。
妖おこじょが天秤に乗っている。
「…この天秤を揺らして!」
「…天秤?」
…老婆が声を張り上げると、
王女は天秤を揺らして、夢の重りをのせたら
眠りについてしまった…
‐…千年の眠りにつく…‐
「…この呪いは、千年は続くだろう。
それまで長い間王女は、眠り続けるだろう…。」
魔女が高笑いして、教会をでていく。
…竜王が手を伸ばす。
土鬼がそれをかわして、彼が腰をついた。
…ドスン!
竜王の腹に拳が届く。
竜王の意識が遠のいた…。
黒服の彼が王女を横抱きにすると、
…ガッシャーンッ!
ステンドグラスの窓を割って、
光の欠片の舞う粉雪の降るtivoliのなかを
サンタクロースのそりに乗って
土鬼とともに去ってゆく…。
ガラスの飛び散った教会のなかで
舞い込んだ雪風と共にロウ束の光が
…ふっとかき消えた。
…… ……
… …
…ゆら。ゆら。ゆら。ゆら。…カチリ。
…白金の桜天秤の重りが揺れ止まる。
‐…千年の刻をこえて、花恋絵巻が幕を開ける!…‐
たくさんの妖たちに見守られながら…
…青いチューリップをもなみに手渡す…
…これが月花藍草鈴
(つきはならんそうりん)と
…呼ばれる由縁である…
それは、こノ世で最も恋しい人に贈る、甘く薫る
二藍の淡桃にチューリップの咲く直衣(なおゐ)だった…
❀❀❀
…ゆら。ゆら。ゆら。 …桜天秤の重りが揺れる…。
…時空をこえた、渦をまいた花ノ疾風刻…
大気の壁に穴があいて、花の渦がとけた
御魂の霊花イ〈レイカイ〉になったもの…
このtimesliphallに行っては、桜天秤に揺れる。
ねじ曲がった時空のひずみにあるこの
…小さな都の真ん中の花荻野ノ国に、
桜花ははかノ花がたユまなく咲き乱れる…
…桜花ははか乃野があった…
空花世(うつしよ)とは、
水鏡に映ったこノ世のこと。
この花荻野ノ国は、幽花世(かくりはなよ)と
桜花ははか乃野にある常世と今の空花世(うつしよ)
の三つの世界がある。
花恋絵巻のなかの桜花ははか乃野には
timesliphallになっていて、
こノ世とあノ世の守り人が宮杜していた。
…空花世(うつしよ)の花夢月の四ッ刻…
…春先、庭に白い花の咲く宮中の
花畑で、幼いもなみと鈴(レイ)は
黄色い花ててふをとって、遊んでいた。
花の咲く春の宮中は面影を残して
よよらよよらとうららかな日の光に
照らされてやわらかい花風が吹いている。
その夢のような花宮は…
大人になった鈴の
空花世の姿を映し出していた…。
鈴は癖のある茶髪に藍墨色の瞳、
形のよい唇に
二藍に淡桃のチューリップ模様の
直衣(なおゐ)着ていた。
一方、もなみは
栗色の髪の毛に杏色の瞳、
berry colorのチークをつけたりんご頬に、
薄紫の花袖に
二藍にチューリップ模様の
キャミワンピを着て、
ピンクフレアなリボンシューズをはいていた。
…二人はAndroidを使って、今の東京から
平安時代までtimeslipする…。
「…魂に姿はあるの??」
「…神様って、結うんだよ。」
子どもの鈴は嬉しそうに答える。
「…僕、それになる!」
「…いいなぁ。」
もなみがうっとりとした目で眺めた。
「…じゃあ、霊王(レイオウ)に
ならないといけないな。」
二人が遊んでいる宮中の花池の水面に
ぬっと父親の影が落ちては、そう言った。
「…お父様!」
鈴ともなみが父親の腕に
抱きついてはぶら下がって二人とも肩車した。
「…霊王って??」
もなみが不思議そうに話しかける。
「…霊王は、花恋絵巻を描く神様だよ。」
「…花恋絵巻って??」
鈴は気になってお父様に声をかけた。
「…鈴の恋人さ。」
「…僕のお嫁さん…♥」
「…ふ‐ん。」
もなみがまたもや不思議そうに鈴の
にやけた横顔を見上げる。
「…僕のお嫁さん…♥」
花恋絵巻を抱きしめて
鈴が嬉しそうに微笑んだ。
「…もなみちゃんがいいな♥!」
「…花恋絵巻に描いてあげる!」
「…鈴…。」
「…鈴!
大好き♥!嬉しいッ!!」
もなみがふわっと鈴を抱きしめる。
「…二人とも、まだ遊んでな。」
父親が子どもたちを降ろして
宮中に帰ると、鈴は胸に抱いた
花恋絵巻を懐に入れて
桜花ははか乃野まで颯爽とでかけた。
山鳥が鳴いて、心地の良い
空気が辺りを包み、ゆらゆら舞う
桜花ははか乃野まで三人は来ていた。
蛙の鳴く春瀬川を飛び越えて、
蕨や蕗の薹の咲く野を越えて、
桜花ははか乃野の下に降り立つ。
お弁当を持って、三人は
桜花ははか乃野の裾野で食べた。
桜むすひにタコさんウィンナー♥、
鶉のゆで卵にほうれん草のおひたし、
ミートボールがおかずに並んでいる。
鈴はおかずのミートボールを
口いっぱいに頬張って、
もなみは桜んぼを口にくわえると
ぷちっとヘタを取って上手に食べた。
お昼ごはんを食べ終わると、
三人は桜花ははか乃野で花恋絵巻を
広げて読んでいた。
花恋絵巻で三人は
千年先の刻をみにいく。
✿✿✿
‐今‐ …東京…
渋谷の交差点でもなみは
Androidのなかに映った
待ち受け画像のアニメのキャラクターの
男の子に恋して歩いていた。
男の子は鈴に格好がよく似ている。
鈴は、癖のある茶の混じった黒髪に
藍墨色の瞳、
すらっと高い身長にドットの入った
女物のパーカーを着ている。
もなみはAndroidの画面に向かってこう叫んだ。
「…今すぐここから連れ出して♥!ダーリン♥」
携帯のAndroidの画面から、鈴を呼ぶと
魂がなかから抜け出してもなみの手をひく。
「…こっちだ!」
波ゆく人たちに押し流されながら
二人が手をひいて渋谷の交差点を走り抜ける。
「…待って!」
もなみがつないだ手を握り返す。
「…鈴。」
…走りながら鼓動が胸の奥で高鳴る。
…揺れる黒髪に、あなたを想いながら
道の真ん中で立ち止まったら、
「…あ‐もう!」
って髪の毛をかきむしりながら俯いて
頭を抱え込みながらしゃがみ込むと
なんだか妄想してた♥?!って、何を♥?!わら
って、そんな彼が大好きだから
立ち止まって握り返したこの手を、
ぎュう…♥って結んで、しゃがみ込んだ
彼の傍に同じようにしゃがみ込んで
ぎュう…♥って、抱きしめた。
夢来鳥が夢のなかをつたって
淡い声で鳴いている…。
「…大好きだよ♥!鈴!」
交差点で信号が青になったとき、
人があふれた道路の真ん中で
抱きしめた手を緩めると、あなたの
顔を下から見上げる。
「…恥ずかしい!」
癖のある髪の毛をがしがしかきながら、
鈴が抱きしめ返した。
「…あ‐もう!好きだから!」
って、そう、鈴が人混みの
なかの道路の真ん中で叫んだら
「…携帯のアイコンを
チューリップ模様に変えてってば!」
「…なにそれ!」
「…いいから、早く!」
「…ちょっと、何よ、もう…ッ!」
そう言われて、携帯のAndroid画面の
もなみはアイコンをチューリップ模様に変える。
すると、「…あ‐だから、そうだってば!」
って、頭をがしがし♥!
もなみが鈴の頭をなでながら
「…何がそうなのよ!」
って、答えかける。
待ち受け画像から抜け出てきた
彼の魂がもなみの手をひいて、
交差点を横切ると、そのまま
画面のなかに飛び込んで、
チューリップ模様のアイコン画面に映った
携帯のAndroidのなかに吸い込まれると、
平安時代にtimeslipした。
携帯の恋愛小説の〈花恋絵巻〉
ってゆ‐作品を読むと、なんだか、そんな感じって♥!
✿✿✿
‐平安時代‐ …宮中…
〈春の花の戸〉
ゆらゆらと桜花ははか乃花が
舞い咲(ち)るなか幼い鈴が筆を走らせる。
…今は昔、花園の若宮ありけり…
…君を、君を想ふ…
鈴の癖のある茶髪が揺れて、
その瞳に映るのは、てのひらに
花びらを浮かべて、占う…
若宮の姿を想い描いていく
小さな心だった。
…君を、君を愛(いと)う…
桜花ははか乃花がひらひら舞い咲(ち)って
夢のような花恋絵巻のなかを若宮はかけてゆく。
…若宮は素朴だけど整った容姿に、
花墨色の夕瞳、細身の長身に
鈴と似た癖のある黒髪をした
二十二、三の若舞だった。
鈴が黄色いててふを追いかけると、
もなみが手でてふてふをつかまえる。
若宮のそばを二人がかけぬてゆくと、
一瞬、花が舞い上がって
瞳のなかに映る君の姿を
描く僕は、魂だけでみえてないせいか
「…ちがわない。」
…って、花恋絵巻の花墨色に
そっと呟いた。
若宮の魂がふわっと花空に
浮いて、さぁっと桜の花がそれに
答えるように揺れる。
白い花畑のなかたくさんの花を
散らしながら黄色いててふを
若宮は追いかける。
…てふてふを、追いかけて…
…つかもふか…
…むすほふか…
…つかもふか…
…むすほふか…
‐…あなたに、会いたくて…‐
…仄かに匂ふ香のかほり…
かけよる私は、
…つかもふか…
…むすほふか…
…つかもふか…
…むすほふか…
…そうしたら…
…ててふが舞い込んでくる…
…そうしたら…
…そうしたら…
…つかまえた…
‐…抱きしめた…‐
…両手を広げて抱きしめた、あなた…
…私を、ててふを、
…抱きしめる…
…抱きしめる…
…抱きしめる…
…抱きしめる…
…抱きしめる…
…想ゐ出すあなたヲ…
あなたを、そう…想ふのに、
…てふてふのように…
…この手ヲ、すり抜けてユク…
…わたし、だけのもの…
‐…あなただけヲ想ゐ描いて、
いて…そう、いて ほしい…‐
…つかまえた…ててふヲ、
…抱きしめた…
…花夢月の空を舞う珍しいこの
黄色いむく鳥は季節の折りめを告げる。
黒い花渦の舞う霊花ゐ〈レイカイ〉のなかを
まろぶように鈴ともなみは平安時代にtimeslipしていた。
もなみと鈴は花野山に囲まれた
この花荻野ノ国の
桜花ははかノ野へと転送されていた。
…ドサッ!「…いたた。」
もなみは〈花恋絵巻〉ってゆ‐、
書物のなかにtimeslipしていた。
桜花ははかノ野って、描いてある。
確かに上を見上げれば
ざあっと、千の桜花ははかの揺れる
野がどこまでも続いてるのがみえる。
花曇りの空に雷のなる機嫌の悪い
空模様が甘い香りのする桜花ははかノ花を
千に散らしていた。
ゆらゆら舞う桜花ははかノ花が
目の前に咲(ち)って、桃色のそれが
野にかぎろゐ移りゆく。
timeslipするときにwarphallで拾った
黄色い小鳥のむくは
鈴の両手のなかでピィピィ鳴いては
何事か話しかけている。
桜花ははかノ野の花の枝に
古くて錆びた可愛い小鳥のかごを
取ってきて、むくを両手でそこに入れる。
「…鈴(レイ)!」
「…花恋絵巻のなかだから!」
「…ど‐ゆうこと、だよ?!」
鈴がびっくりして目を回しながら言う。
「…花恋絵巻‐ッ?!」
「…ほんとだ。〈花恋絵巻〉って描いてある。」
白い菊の花模様の赤い和紙で表紙を包んだ花恋絵巻。
この絵巻物のなかから肉体が抜け出て、
平安時代の桜花ははかノ野へとtimeslipしていた。
もなみは辺りをぐるって見回すと、
「…ここって、どこッ?!」
「…ちょっとォ‐?!!」
そう叫んで、鈴の腕を座って引っ張る。
Androidのなかをみてみると、
電源が落ちて切れていた。
「…あ!ど‐しよう?!」
携帯電話を握りしめて、
「…ここは平安時代だから。」
って、むくが言う。
「…平安時代って、鈴?!!」
花恋絵巻のなかから出ていくと、
体がふわっと軽かった。
鈴が優しく抱きしめて立たせてくれる。
「…鈴。うそ…。」
しぃんと水を張った湖の底のように
静かな桜花ははかノ野に緊張感が走る。
さぁっと、桜花ははかの花が千に揺れる。
「…やめてよ、離して。」
「…やめてって、ど‐ゆうことだよ!」
「…やめてよ、離してってば…!」
桜花ははかノ花が花風が吹くたび
千に揺れて淡い二人を包み込む。
抱きしめてくる鈴の腕を
突き放して、遠回りする。
「…友達だから!」
「…友達って、ど‐ゆうことだよ!」
雷の通る春空に夕立が降ってきて
ぐしゃぐしゃになった
涙に、友達って言葉が突き刺さる。
「…やめてってば!」
もなみが大きく突き放すと、
「…ちょっと、待てよ!
おい!もなみ!!」
むくが夕立の空にカゴのなかで話しかける。
「…追いかけるんだ!」
走り去るもなみの手を掴んで、
もう一度、強く抱きしめる。
「…好きなんだ!」
「…やめて!これ以上…」
抱きしめられた腕に力がこもって
強く否定しても抗えない。
「…もう少しだけ。」
「…これ以上、抱きしめないで!!」
「…泣くなよ!」
涙と夕立でぐしゃぐしゃになった頬に
鈴が手を置いて、拭ってくれる。
「…やめてよ、もう…。」
また溢れ出した涙が止まらなくなる!
「…好きだってば…。」
「…ん?」
鈴が下からもなみの顔を見上げては、
知らないふりする。
「…なんで、知らないふりするの。」
「…もう!」
抱きしめた彼の胸に手を置いて
強く叩きつける!
「…なんだよ!あっちいけよ!」
「…どうして!!!」
「…どうしてって、お前…。」
鈴が弱気になって言い淀む。
すると、鈴が突き放すように言った。
「…嘘つき!!!」
「…好きだ!誰よりも!!!」
夕立のなか二人が走り出す。
花小川の向こうを飛び越えて、
桜花ははかノ野の花を
散らしながら野をかけてゆく。
雷のなる夕立のなか、大雨が振りつける。
鈴の面影を想って、もなみは走り出した。
「…待って!鈴!!」
「…行くな!!!」
「…好きなんだ!!!」
鈴がもなみにfirst♥kissする。
何度も繰り返してkiss♥する。
❀❀❀
「…ど‐も、こ‐も!」
もなみがため息をつく。
「…花恋絵巻は過去と今と
未来をつなぐ役割を果たすんだ。」
小鳥のむくが言った。
「…timeslipするもんね!」
❀❀❀
…ゴロゴロ。
雲の隙間に雷がゆく。
晴れた春空から急に曇り空が立ち込める。
ゆらゆら舞う桜花ははか乃野で
火の灯火と同じように千の花が揺れる。
幼い二人は花恋絵巻に夢中になっていた。
「…花恋絵巻に‐宮中‐って、描いてある…。」
「…ほんとだ。」
花恋絵巻のなかで大人になった
鈴が宮中でもなみを抱きしめているのがみえる。
「…ふわぁ。」
…夢をみる。花夢を…。
竜胆地の青い搾りに花和柄の
パッチワークキルトをあてて、
膝丈までのミニドレスに
上から長いレースのフレアチュールを
ふわっとかけたウェディングドレスを
着て、もなみは宮中で結婚式を挙げていた。
「…鈴(レイ)??」
「…鈴だ!」
ブルーのチューリップのブーケトスを
ふわっと後ろに向けて花嫁が投げる。
「…もなみ!」
…トサっ!とブーケトスが
桜乃(ははの)の腕のなかに落ちた。
桜乃は親戚の子どもで
まだ五歳にもみたなかった。
和花柄の搾りのつく
白色の狩衣に
編み上げのブーツがよく似合う。
「…花恋絵巻を描き上げるって…。」
鈴が想い出すように呟く。
「…なんでですか。」
「…なんででも!」
もなみが言った。
「…ええっ?!そんなぁ!」
鈴があまりの理不尽さについ声を上げる。
「…結婚式だから、し‐ッ♥!」
桜乃の母親がし‐!と、指を立てる。
結婚式の華やかなパーティーが
宮中で広げられ、二人は花恋絵巻
のなかでそれをみていた。
若草に白いたんぽぽの咲く
桜花ははか乃野のなかで
鈴ともなみは夢から目を覚まし、
花の時空をかけていった…。
✿✿✿
…ててふとむく鳥と…。
同じ黄色いいきもの同士。
ふわふわの短くて黄色い毛並みの
ぽたっと丸く膨らんだ小鳥のむくは
鈴の両手に座って四角いビスケットを
口にはんでは鳴いていた。
むくが囀ってはもなみをついばむ。
…てふてふとむくと…。
…空を飛んで君を追いかけては
自由に空を飛ぶあたしを抱きしめて…。
…まぁるくお空にう‐かぁんだ
小鳥のそれは、あたしにならない。
つかんで、夢みて、なぁ‐らんだ
ててふのそれは、彼にならない。
…小鳥のそれと、ててふのそれと…
飛んで、まわって、なぁ‐らんだ
あたしのそれは、たなごころ。
鈴の小鳥を、あたしのててふを、
そっと、つかんで、まぁ‐わった♥
あたしのそれは、ゆめごころ。
…もなみはつかまえた花ててふを
手に幼い鈴に向かって、笑ってこう叫んだ。
…あなたをとても愛しいと想っている…
「…もう一回、寝たいゾ♥」
「…そ‐ゆう、人でしょ♥?!わら」
(…大好きだよッ♥…)
「…そ‐ゆうカンケ‐♥!わら」
…春花山に白雪の積もる十七年の
長い刻が経ち、二人は二十ニ、二十三に…
❀❀❀
‐…月の雫の垂れる夜に、一刻一刻
月がかげるごとに、桜花ははかの実がなる…‐
…桜花ははかノ花の舞い込む疾風ノ刻…
…おかげののった春風のなかを…
…鈴(レイ)ともなみ…
結ばれた二人が喜び合いながらかけてゆく…。
ねじ曲がった時空のひずみにある
桜花ははか乃野…このtimesliphallに行っては、
鈴は、小さく春息吹をついた。
「…恋しい人、あなたヲ
想い出さずにはいられなかった…。」
❀❀❀
さぁさぁ小雨の降る小道をゆくと、
鈴は勿忘草の咲く野の続く
…小屋の端を走っていった。
小屋の傍を抜けると、
楠の木の立ち並ぶ森につく。
鈴は水たまりの近くにどろんこになって
落ちた桜花ははかの実のイヤリングを拾って、
ポケットに突っ込んだ。
「…僕じゃないと、いけないんです♥!」
…夢輝星に瞬く、夜半の月夜のかげる日に、
桜花ははかの実を摘む。
そして、その桜花ははかの枝からとれる…
甘い花蜜を小瓶に入れ、その実を浸す。
人差し指を花の懐剣で切って、
その人差し指から流れ出た、
人魚の血を一滴垂らすと〈花血蜜〉なる秘薬ができる。
‐…その〈花血蜜〉を飲むと、永遠の恋が叶うという…‐
…… ……
… …
花荻野ノ国 AM10:00 -
〜Denmark . copenhagen . PM10:00 -
そこは、
christmasの夜に魔法がかかった
フランスの桃色の岩塩の入った
クロッククッキーやchocolateでできた
お菓子の家だった。
クッキーやビスケットでできたドアや
大きなアメの形をした小窓に
カラフルな作りの屋根、丸みを帯びた
デフォルメの小さな家だった。
春のおぼろ風(おぼろる)の
舞い込む夜に鈴はその家のドアを叩いた。
…カラリ‐ン。
薔薇の鉢植えのなかに眠っていた小人が
人が来るのをみて、ランタンのなかの火を消して
油入れの取っ手をとると、下に引っ張った。
この魔法のお菓子の家は、
カラクリが回ると、季節の扉が開く。
この花荻野ノ国ではtimesliphallの
修復がネジやバネを使った機械で
動いていることが多くて、
手作業の修理に時間がかかることが多い。
今回のクライアントも厄介だ。
christmasの魔法のかかった
クッキーを一口かじると、
timesliphallに無花果ジャムがつく。
可愛い茶色いくまちゃんのアイシングクッキーで
できたドアを開ければ、春から冬へ季節が変わった。
鈴のいる花荻野ノ国では、
このドアを開けると…
冬のcopenhagenへとつながっていた。
…copenhagen…
ボイラーの火が零れ落ちていて、
煙突から黒い煙が立ち上っている。
christmasのイルミネーションが
この街を飾る雪の夜に彼は叫んだ。
「…ど‐ゆう、ことですかッ?!」
部屋のなかに入ると、鈴は
体格のいいレティに噛みつくように
いうと、鈴はchristmasプレゼントの
一つを掴むと、近くのソファに放り投げた。
さっきいた小人にもらったものだ。
timesliphallを抜けてきたせいか、
まだ白雪の積もるこの街は
彼の纏う空気の、
春のおかげに違和感を感じていた。
「…僕じゃないなんて、考えられません!」
「…ほんとは僕だったって、彼女が言ってたんです!」
christmas marketのモミの木の下に
プレゼントがいっぱい置いてある街並みの
なかの一つの家に、人魚が海から歩いてきて
部屋のドアを開ける。
「…待って!」
彼女は赤毛のロングヘアーに栗色の愛夕瞳、
細身で華奢な姿にコリンヌという名前が
ついていた。
「…ミスレティ♥!」
レティは鈴の顔をじっと見つめると、
しばらく考えてゆっくりドアのほうをみた。
「…待ってたわ。」
まだ暗い真夜中の雪の降る中、
大きな体のレティは彼女の外套を取る。
彼は、
for youと描いたHEARTをもったくまちゃんの
アイシングクッキーのドアをコンコンを叩いた。
「…はい。」
…花荻野ノ国の秋のお部屋で
もなみは無花果のジャムに赤ワインを
入れて、ジャムを作っていた。
「…彼だけだったって、顔に描いてる。」
すると、もなみは小人からお菓子の家の
壁の砂糖漬けのサブレを1枚とって、
鈴の口に放り込んだ。
「…それで??」
もなみはクッキーにジャムを塗っていく。
作り立てのジャムクッキーに
手を伸ばしながら鈴はもなみの方をみて言った。
「…だから、ほんとは僕だってことでしょ♥??」
「…そうそう♥鈴だけだよ♥!」
もなみはもう一つ瓶に詰めたできたばかりの
苺ジャムをクッキーにおいて、鈴の口に突っ込んだ。
…ドアごしに隣の部屋をまたぎ、
レティは、部屋の暖炉の上にある
甘い香りのする〈花血蜜〉を
魔法の鍋のなかで、くるくるかき混ぜている。
「…それと、これと、どう関係が?」
…小人が話を聞いて、言う。
「…あら、可愛らしいイヤリングじゃない!」
レティが言う。
「…これ、桜んぼね…。」
レティがどろんこになった手からloop hallにあった
イヤリングを受け取ると、コリンヌが言った。
「…ちがう!」
「…loop hallはとても危ない!」
「…行ってはいけなかった!!!」
小人が鉢のなかの薔薇の花を摘んで、
花瓶に生けている。
「…そう。」
もなみは瞳を瞬かせて、
鈴の顔をじっとみる。
「…あなたにしか、
わからないことがあるんです。」
…ど‐ゆう、ことなんだろう。
「…大変!」
もなみは目を見開いて、
鈴の雨に打たれて
どろんこになった姿をみる。
かちゃかちゃと花血蜜の瓶の音がして、
レティがお薬を合わせていった。
「…やっぱり!」
「…悪魔が心臓を掴んでる!!!」
鈴のどろんこになった姿にタオルを
持ってくると、コリンヌが鈴に手を伸ばす!
「…あっ!」
悪魔がつながった魂の器を食い破っている!
鈴の心臓がそのままtimesliphallで
もなみの心臓につながっていた。
「…危ない!!!」
loop hallにtimeslipした玲斗の心臓は
泥だらけになった胸の砂の跡を
もなみの手で拭ってゆく。
「…心臓がすり替えられてる!!!」
悪魔の心臓は花血蜜を流すと、
悪魔との契約が切れるという。
「…危ない!!!」
「…きゃっ!」
悪魔が空を飛んできて、もなみの
背中に花紅色の薔薇の硝子の欠片を
…差し込んできた。
「…いたっ!!!」
「…それって、桜んぼってこと?」
小人さんが言う。
鈴がイヤリングにたわわになった
桜花ははかの実を摘み取り、レティに渡した。
「…じゃあ、花恋絵巻じゃない?」
すると、どろだらけの鈴が
花恋絵巻を広げると、
鍋にくべている花血蜜を掬いあげて、
花恋絵巻に一滴垂らして
筆で何か書き始めた。
「…うう。」
背中に硝子の欠片が食い込んでくる。
「…やめて!」
コリンヌが鈴のポケットのなかに
入った桜花ははかの実を掴むと、花血蜜を
くべている鍋に放り込む。
「…eat me♥!」
すると、ぐつぐつ火にかけた
魔法の鍋から悪魔がでてきて
スグリとベリーのパイが話しかけてくる。
かぼちゃのランタンみたいな尖った歯に
鬼灯みたいな目に黒いすすコケた姿、それに、
しっぽが生えてた愛らしい悪魔がパイにのっている。
お鍋の底に沈んだイヤリングがことこと煮詰まる。
いかにも可愛らしい姿とはいえない。
「…お前の大事な物と
引き換えに欲しいものをやろう。」
…らぁん。…らぁん。
雪が降るDenmarkの街並みを照らす
アメ色のビジューアテードに
常世にある…桜花ははかノ杜の鐘が鳴る。
もなみの魂が桜花ははかノ杜で
花鞠を転がして遊んでいる。
「…あっちの鞠は、一ノ宮さん…。
…こっちの花は、二ノ宮さん…。」
…水たまりの円を描いて、
鞠を放り投げては
遊び歌を、もなみが口づさむ。
…鈴の描いた花恋絵巻から
絵が飛び出してきては、人はそれを魂と呼ぶ。
花ノ墨で滲んだ花恋絵巻は物語のなかで桜の花の
舞い込む花吹雪になって、そうして淡い光に包まれる。
黒くすすけた悪魔の言葉に、
勿忘草色の雨が降り、ポツポツと
花恋絵巻にできたしみが黒く滲む。
花恋絵巻に琴ノ花(コトノハ)が浮かんでくる。
…あなたのほんとに大切なものは、なんですか?…
悪魔は意地悪そうに笑うと、
鈴の持っていた桜花ははかの実と
共に空色の雨になって消えた。
「…あっ!!!」
もなみの背中に薔薇の欠片が
刺さると、耳が聞こえなくなった。
…何も聴こえない!
「…あ‐ッ。」
美しい歌声が自慢だったもなみの声もでなくなった。
「…悪魔の心臓に花血蜜を流すといい。」
庭の綺麗な薔薇の花園が広がるところで
もなみが一輪花を摘み取ると、悪魔にばらまいた。
「…ちがう。」
「…世界中で誰よりも、あなたが欲しい…。」
花の懐剣で悪魔の心臓を一突きして、
心臓に流れた悪魔の血を一滴もなみは飲み込むと、
体中に痺れがきて、悪魔になった。
「…悪魔だッ♥!」
「…あたしが欲しいものは、
声でも音でもなくて、鈴(レイ)あなたなの!」
コリンヌが花血蜜を心臓に流して、
悪魔との契約を破棄すると、
悪魔になったもなみに鈴が
手を取ってぐるんと回ってdanceをする。
花血蜜の瓶に楠の葉と波ノ花と
わたの水、桜ノ穂をまぜて、
桜花ははかの実、くぐつ人形のもなみの
血をまぜて花血蜜を作る。
クロッククッキーの家は閉ざされた城のよう。
つながれた白い部屋は、積み木で遊ぶ
子どもたちの声がして、明るい灯火がする。
花茨でできたその城の大広間から入った
女王の部屋に魔法の鏡があって、
その魔法の鏡の中に入ると、勿忘草の
花畑の広がった野について、しばらく歩くと、
白い部屋はクロッククッキーの
香りがして、お菓子の家になった。
「…預かっていたあなたが選んだ指輪を渡すわ。」
「…うん。」
「…さぁ、頑張って♥!」
レティが鈴の背中を押す。
「…でも、本当に好きな人で
縁結びしないといけないから…
だから、それはお前ってことね。」
「…えぇ?!私ッ?!!」
コリンヌが慌てたように言った。
「…もなみ、あなたよ!」
「…つまり、私が愛してるって
想うのは、鈴、一人だけだよッ♥」
「…世界中で誰よりも♥!」
花血蜜のお鍋から離れて、
もなみが子ども達と一緒に
一個ずつクッキーを切っていく。
この生地がからまって、もみくちゃになる。
ハートの型を手にとって、子ども達に
くり抜いた生地にハートのクッキーを
プレートの上に置いてゆく。
「…そんなに好きなんだ。」
「…うん!」
「…まさかカクザトウじゃあるまいし!」
「…幽閉って、こと?」
「…そ‐じゃないけど!」
「…cafeに行けばい‐のよ♥!」
レティが困ったように言った。
「…そんなに捕まっちゃう人いないわ!」
「…手錠が指輪になって、
牢がお菓子の家になったら
ここから逃げ出せるわ♥!」
「…鈴、一緒に
ここから連れ出してあげるから!」
もなみは鈴の手を引いて、
花ブルーのエプロン姿のまま
お菓子の家を出ていく。
chocolateの煙突からわた菓子が
でていて、薔薇の花の咲く庭は
1枚の絵のようで、とても美しかった。
2時の振り子時計の鐘がなった
薔薇の花園のなかで、鈴がもなみに言う。
「…これから僕にどんなことがあっても、
愛しているのは、もなみだけだと想う。」
「…鈴…私も。」
空花世(うつしよ)を二人でみに行こう。
窓際からみえたbed♥の傍で
月明かりのなか指輪を交換する。
薔薇に飾られた城で魔法の鏡を覗くと、
汽笛の音と共にお菓子の家の周りを
白い鳩が空を飛び舞う。
そして、花恋絵巻を読んで
近い未来で二人が結ばれることを知った。
…鈴と甘いkissをする…。
花茨の森のなかで小鳥のさえずりを
聞きながら、眠り姫は…目が覚める…。
❀❀❀
チェックアウトが少し遅れたけど、
…もなみは花桃色の春コートを翻して、
近くのスタバに入ると、青いカップに入った
コーヒーを頼む。
鈴はカウンターにホテルのキ―を置いた。
スタバのマスターに入れてもらった
苺のキャラメルマキアートを
一口飲んでそれを机に置くと、
もなみは鈴にコーヒーを渡した。
「…またいつもみたいに笑って♥」
「…ダーリン♥」
…… ……
… …
…Denmark…
…Copenhagen…
〈Tivoli〉
…刻はかねて、12月24日。
…今日は、クリスマスイヴ。
…サンタクロースの雪降る夜…
…初雪の降るこの街にイルミネーションの光が輝く…。
…白や赤や緑に飾られた星屑の瞬くこの夜にゆく…
クリスマスマーケットが楽しげな笑い声のなかに揺れる。
厚手のコートにイチゴに
chocolate dipを食べて。
chocolate stickの入った
hot cocoaにchocolate viscuit cakeを添えて。
❀❀❀
金のイルミネーションのガーラントのなか、
ゲートが開く。真夜中の遊園地…。
ウェディングドレスを着て、幽体になった
妖たちと一緒に、メリーゴーランドに乗る。
コーヒーカップに乗って、
くるくるテーブルの上を回る。
後は、街中見下ろせる観覧車!
キラキラ光るイルミネーションに揺れる
街と観覧車はとても綺麗だった。
…ボーン。…ボーン。…ボーン。
……午前0時。
…振り子時計の鐘が鳴る。
「…結婚おめでとう!」
…チボリ公園の教会のミサ。
教会のなかにぽっくり浮かんだ花海に
幾千の魚たちの妖精の群れが人魚の歌声と共に祝福する。
星のクルクルキャンディ棒のstickを持った
天使たちが空を飛んで、カゴに入れた花束を
ふわ…っと花嫁にかけながら喜びの声をかけた。
正装した牧師が教典を手に教壇に立つ。
パイプオルガンの音が響く。
「汝、病めるときも健やかなるときも、
富めるときも、貧しきときも、互いに愛し、敬い、
支え合うことを誓いますか。」
竜王と王女は二人とも手を取り、誓い合う。
「はい、誓います。」
ケラケラ(一つ目小僧のお化け)や
ケセランパサラン(鼓草の小人のお化け)などの
妖たちが声を上げる。
竜王は言った。
「…結婚してほしい。」
栗色の腰まであるふわふわパーマのロングヘアの
王女は、美しい面顔と大きな瞳を振るわせて願った。
「…この結婚がいつまでも叶いますように。」
Frouxのサクラコフレをエンゲージリングの代わりに
…そっと彼女の目の前に渡して、竜王は、その草薙ノ剣に
…星や花やハート柄のダイヤモンドやビジューを
霊剣に埋め込んで飾った細長いスティック状の六角形の
クリスタルの形をした霊剣…に、
…誓いを立てる。
「…竜王一族の名において…。」
ゆるふわパーマの黒髪に頬に無数の三ツほくろ、
蘇芳色の直衣(なおゐ)を着た
竜王は、その美しい横顔をみせて言った。
…竜王はス咲乃オ乃ゐ琴、
王女は眠り姫と呼ばれていた。
胸元から肩にかけてクロスしたチュールが
花々を飾る腰元のリボンが華やかな夢色の
チュールドレスを着た王女が両手を握って祈りを込める。
白金の果物を形どった宝石でできたtiaraに白いレースの
チュールのベールをふわ…っと上げて、彼女は誓いの
…kissをする…。
…竜王と眠り姫は二人甘いkissをする…
頬を伝う涙が宝石となって、ポロポロと床にちらばった。
…たくさんの人たちに愛されて、
たくさんの妖たちに囲まれて、
お祝いの声と花畑とライスシャワーに
包まれて、二人バージンロードをかけてゆく…。
…バンッ!
…突然、教会のドアが開く。
ホテルのキーが桃色の天然石の床に
かちゃん!と、音を立てて落ちた。
黒いシャツに黒いスーツ、
癖のある黒髪に香水の香りのする
彼が、
…二人の目の前に立ちはだかる。
「…どうしても叶えたい、ものがある…。」
…ぼっこ(子どもの妖怪)たちがやんや言う。
「…お前、そうだろ!」
「…ちがわい!」
…片手をドアの横において倒れかかる
ようにして花嫁に話しかける。
「…私の嫁になってほしい。」
「…え?」
土でできたくぐつ人形が鬼にかわって、
二人の周りを取り囲む。
すると、
王女の前に天秤を持った、老婆の魔法使いが現れた。
妖おこじょが天秤に乗っている。
「…この天秤を揺らして!」
「…天秤?」
…老婆が声を張り上げると、
王女は天秤を揺らして、夢の重りをのせたら
眠りについてしまった…
‐…千年の眠りにつく…‐
「…この呪いは、千年は続くだろう。
それまで長い間王女は、眠り続けるだろう…。」
魔女が高笑いして、教会をでていく。
…竜王が手を伸ばす。
土鬼がそれをかわして、彼が腰をついた。
…ドスン!
竜王の腹に拳が届く。
竜王の意識が遠のいた…。
黒服の彼が王女を横抱きにすると、
…ガッシャーンッ!
ステンドグラスの窓を割って、
光の欠片の舞う粉雪の降るtivoliのなかを
サンタクロースのそりに乗って
土鬼とともに去ってゆく…。
ガラスの飛び散った教会のなかで
舞い込んだ雪風と共にロウ束の光が
…ふっとかき消えた。
…… ……
… …
…ゆら。ゆら。ゆら。ゆら。…カチリ。
…白金の桜天秤の重りが揺れ止まる。
‐…千年の刻をこえて、花恋絵巻が幕を開ける!…‐



