00:00 ──ノイズ
00:02 久遠A「……あ、聞こえますか? こんばんは、久遠Aです」
00:08 コメント欄:「聞こえるよー」
00:12 久遠A「ありがとうございます。えっと……まずは、受賞のご報告から。まさか自分が選ばれるとは思っていなくて」
00:25 コメント欄:「おめでと!」「当然だよ!」
00:28 久遠A「いえいえ、ほんとに、運がよかったというか……。まだ信じられないんですよ。ずっと他の人の作品を読んでた側なので」
00:40 コメント欄:「謙虚w」「選ばれるべくして選ばれた」
00:44 久遠A「恐縮です。今日は……作品の裏話をちょっと話そうと思ってます。聞きたい人がいれば、ですが」
00:52 コメント欄:「聞きたい!」
01:00 久遠A「今回の作品は“記録の矛盾”を題材にしました」
01:05 少し間を置いて、「どうしてそんなテーマにしたか」という語り口になる。
01:09 久遠A「資料を集めていて、不思議に思ったんです。……同じ出来事が、人によって全然違う形で残されている。たとえば古い新聞。ある年の記事には“転落事故”、でも翌年のまとめには“落石事故”。同じ日付、同じ現場。どちらも“公式”に載っている」
01:38 コメント欄:「え、それやばくね」「普通にあるんだ」
01:42 久遠A「戸籍にもあります。同じ人物が、二度、別の帳簿に書かれてるんです。たぶん書き写しのミス。でも、残ってしまえば、消せない」
01:58 久遠A「こういう“矛盾した記録”をつなぎ合わせたら、何が見えるのか……それが出発点でした」
02:10 コメント欄:「地味に怖いw」「リアリティやばい」
—(間をとって水を飲む音)—
03:00 久遠A「それで……小説の中では、証言が少しずつズレていく様子を淡々と並べました。怪異を書いたつもりはなかったんです」
03:14 コメント欄:「いやいや怪異だろw」「階段のとことか超怖かった」
03:19 久遠A「……階段? えっと、それは……僕の原稿には、なかったはずですけど」苦笑
03:30 久遠A「他の受賞者さんの作品ですかね」
03:42 コメント欄:「え?」「でも段数数えた描写の記憶ありますけど」
03:46 久遠A「うーん……読んだ方がそう思ったのなら、それは“記録の読み違え”なのかもしれないですね」と、苦笑するが、やや声が揺れている。
04:12 コメント欄:「受賞祝いは何食べた?」
04:41 久遠A「普通ですよ、普通。チェーン店で牛丼を特盛で」
【10分を過ぎたあたり】
10:12 コメント欄:「作品のモデルの場所って?」
10:16 久遠A「場所……ですか。ちゃんと取材したわけじゃないんです。ただ、親戚からある“峠”の話を聞いたことがあって」
10:27 久遠A「そこは昔から“行くな”と言われていた道らしくて……。あくまで参考程度に思い浮かべただけなんですけど。地元では都市伝説があるらしいんですが……」
10:38 コメント欄:「◯◯峠?」「旧△△川沿い?」と具体地名が並ぶ。
10:44 久遠A「い、いや、具体名は避けますね(笑)……みなさん、すごいですね」
「怪しすぎw」「地元民震えてる」などコメントが流れる。
11:10 久遠A「……ただね、不思議なことに。今こうして話していると、映像のように浮かんでくるんです。段差を登っていく感覚とか、湿った空気とか」
11:28 久遠A「あれ、おかしいな。でも、行ったことはないんですよ」
11:34 コメント欄:「どうした?」「久遠Aさん、様子がおかしい」
11:44 小さくため息をつく。しばし、無音が続く。コメント欄は少し荒れている。
20:05 久遠A「……さっきから、数を数えている気がする。九十九……百……あれ?」
20:18 コメント欄:「階段きたw」「赤い光マジでやめろ危ないぞ」「コメント欄、何言ってるの?」
20:24 久遠A「赤い光……?」
20:34 久遠A「でも、目の端で……光ってる……赤い」
20:40 マイクに小さなノイズ。声のようだが聞き取れない。
21:00 久遠A「“止まれ”……。止レ?……トマ」
21:10 コメント欄:「声入った!」「後ろ見ろ」「今の誰の声?」
21:16 久遠A「……今、誰かに呼ばれました。でも、僕の名前じゃない」
21:26 息が乱れ、言葉が途切れがちになる。
21:34 コメント欄:「鳥肌やばい」「マジで怖い」「大丈夫か?」
22:00 久遠A「……すみません、今日はここまでにします」
22:04 久遠Aは止めると言いながらも、なぜかマイクを切らない。沈黙が続く。
22:18 囁き声のように「帰レ、ないヨ……」と聞こえる。
22:24 雑音。マイクに衝撃音が入り、画面が暗転。
22:30 配信が唐突に終了する。
00:02 久遠A「……あ、聞こえますか? こんばんは、久遠Aです」
00:08 コメント欄:「聞こえるよー」
00:12 久遠A「ありがとうございます。えっと……まずは、受賞のご報告から。まさか自分が選ばれるとは思っていなくて」
00:25 コメント欄:「おめでと!」「当然だよ!」
00:28 久遠A「いえいえ、ほんとに、運がよかったというか……。まだ信じられないんですよ。ずっと他の人の作品を読んでた側なので」
00:40 コメント欄:「謙虚w」「選ばれるべくして選ばれた」
00:44 久遠A「恐縮です。今日は……作品の裏話をちょっと話そうと思ってます。聞きたい人がいれば、ですが」
00:52 コメント欄:「聞きたい!」
01:00 久遠A「今回の作品は“記録の矛盾”を題材にしました」
01:05 少し間を置いて、「どうしてそんなテーマにしたか」という語り口になる。
01:09 久遠A「資料を集めていて、不思議に思ったんです。……同じ出来事が、人によって全然違う形で残されている。たとえば古い新聞。ある年の記事には“転落事故”、でも翌年のまとめには“落石事故”。同じ日付、同じ現場。どちらも“公式”に載っている」
01:38 コメント欄:「え、それやばくね」「普通にあるんだ」
01:42 久遠A「戸籍にもあります。同じ人物が、二度、別の帳簿に書かれてるんです。たぶん書き写しのミス。でも、残ってしまえば、消せない」
01:58 久遠A「こういう“矛盾した記録”をつなぎ合わせたら、何が見えるのか……それが出発点でした」
02:10 コメント欄:「地味に怖いw」「リアリティやばい」
—(間をとって水を飲む音)—
03:00 久遠A「それで……小説の中では、証言が少しずつズレていく様子を淡々と並べました。怪異を書いたつもりはなかったんです」
03:14 コメント欄:「いやいや怪異だろw」「階段のとことか超怖かった」
03:19 久遠A「……階段? えっと、それは……僕の原稿には、なかったはずですけど」苦笑
03:30 久遠A「他の受賞者さんの作品ですかね」
03:42 コメント欄:「え?」「でも段数数えた描写の記憶ありますけど」
03:46 久遠A「うーん……読んだ方がそう思ったのなら、それは“記録の読み違え”なのかもしれないですね」と、苦笑するが、やや声が揺れている。
04:12 コメント欄:「受賞祝いは何食べた?」
04:41 久遠A「普通ですよ、普通。チェーン店で牛丼を特盛で」
【10分を過ぎたあたり】
10:12 コメント欄:「作品のモデルの場所って?」
10:16 久遠A「場所……ですか。ちゃんと取材したわけじゃないんです。ただ、親戚からある“峠”の話を聞いたことがあって」
10:27 久遠A「そこは昔から“行くな”と言われていた道らしくて……。あくまで参考程度に思い浮かべただけなんですけど。地元では都市伝説があるらしいんですが……」
10:38 コメント欄:「◯◯峠?」「旧△△川沿い?」と具体地名が並ぶ。
10:44 久遠A「い、いや、具体名は避けますね(笑)……みなさん、すごいですね」
「怪しすぎw」「地元民震えてる」などコメントが流れる。
11:10 久遠A「……ただね、不思議なことに。今こうして話していると、映像のように浮かんでくるんです。段差を登っていく感覚とか、湿った空気とか」
11:28 久遠A「あれ、おかしいな。でも、行ったことはないんですよ」
11:34 コメント欄:「どうした?」「久遠Aさん、様子がおかしい」
11:44 小さくため息をつく。しばし、無音が続く。コメント欄は少し荒れている。
20:05 久遠A「……さっきから、数を数えている気がする。九十九……百……あれ?」
20:18 コメント欄:「階段きたw」「赤い光マジでやめろ危ないぞ」「コメント欄、何言ってるの?」
20:24 久遠A「赤い光……?」
20:34 久遠A「でも、目の端で……光ってる……赤い」
20:40 マイクに小さなノイズ。声のようだが聞き取れない。
21:00 久遠A「“止まれ”……。止レ?……トマ」
21:10 コメント欄:「声入った!」「後ろ見ろ」「今の誰の声?」
21:16 久遠A「……今、誰かに呼ばれました。でも、僕の名前じゃない」
21:26 息が乱れ、言葉が途切れがちになる。
21:34 コメント欄:「鳥肌やばい」「マジで怖い」「大丈夫か?」
22:00 久遠A「……すみません、今日はここまでにします」
22:04 久遠Aは止めると言いながらも、なぜかマイクを切らない。沈黙が続く。
22:18 囁き声のように「帰レ、ないヨ……」と聞こえる。
22:24 雑音。マイクに衝撃音が入り、画面が暗転。
22:30 配信が唐突に終了する。



