考えるのをやめにして、再び小説を読もうとしたとき、携帯が鳴った。

画面には、「お父さん」の文字が表示されている。


今日は仕事終わりに面会に来る予定だから、電話はかかってこないと思っていた。


私は髪を軽く整え、ベッドの上に座り直してからボタンを押した。


画面に、白衣姿のお父さんが映る。

角度が高くおでこから上は見切れているのはいつも通りだ。


「楓、いま大丈夫かい?」

「うん、大丈夫」

「お昼ご飯は食べれた?」

「うん、食べたよ」


お父さんは、よかった、と言って安堵の表情を浮かべている。


本当は半分も食べれていないけど、いらない心配をさせたくはないので言わないでおくことにする。


それからお父さんは、少し真面目な顔になり「楓、」と本題を切り出した。


「新型ウイルスの感染が拡大しているのは知っているよね?」


 私はしずかにうん、とうなづく。


「感染拡大を少しでも抑えるために、そっちの病院でも基本的に面会をしないことになるそうなんだ。
だから今日も、行けなくなった。ごめんな」


 「大丈夫だよ。お父さんの病院でそうなりそうって聞いてたし、
いつかはこっちでもそうなるんゃないかな、って思ってたから」


わたしは笑顔でそう返した。

無理はしてないように見えてると思う。


「本当にごめんな。また診察の合間に電話するよ」


「それはまた看護師さんに怒られちゃうよ?
それに私、もう高1だし、まだまだ読んでない本もいっぱいあるから大丈夫。
気にしないでお父さんは仕事に集中してよ」


 私がそう言っても、お父さんはまだ申し訳なさそうな顔をしていた。


お父さんは全く悪くないし、仕事も忙しいから余計な心配をかけたくない。

高校生にもなって寂しいとか言うのも恥ずかしいのも事実だ。


だから私は、話を切り上げることにした。


「小説の続きも読みたいし、お父さんもほら、看護師さんに見つかると悪いから」


「…うーん、わかった。じゃあ切るね。でも本当に、また電話はするから」


 私は小さくうなづき、無理しなくていいからね、と付け加えてから電話を切った。