彼はまぎれもなく、優しさで出来ていた。

――楓の花言葉にちなんだ私の名前に込められた願い。

それは本当に、全部で四つもあった。


その分、話を聞く時間も長かったはずだけど、終わってみるとあっという間に感じた。


ニ年生の私がお母さんの話を全て理解できていたのかというと、そんなことはない。


ただ、お母さんは一生懸命、私に話してくれていた。


それだけは覚えている。


今思うと、お母さんはその頃から自分がもう長くは生きられないことを、自覚していたのかもしれない。


だからなのか、このときの記憶は、八年がたった今でも鮮明に残っている。


コタツの温もり。

お母さんの、穏やかな表情と語り口。

外では雪がしんしんと降り続いていたこと。

その後食べたお昼ご飯が、私の大好きなほかほかの鍋焼きうどんだったこと。

それが、いつも通りの味で、美味しかったこと。


その全部が、私の大切な思い出だ。