彼はまぎれもなく、優しさで出来ていた。

――ねえおかあさん、わたしの名前はどうして『かえで』って言うの?
 

小学2年生のときの冬休み。

「自分の名前の由来をお家の人から聞いてくる」という宿題を出されていた私は、
台所に立つお母さんにそう質問した。


お母さんはそのとき夜勤明けで、
お昼ごろに起きて遅めの朝ごはん(わたしにとってはお昼ごはん)を作っているところだったと思う。


 いつもは「ちょっと待っててね」と言うお母さんだけど、
このときはすぐに応じてくれたのを覚えている。


料理の手を止め、「おいで」と言って私をコタツまで連れていくと、少し宙を見つめてからゆっくりと話し始めた。



こんな感じだったと思う。


「楓」が樹の名前だってことは、前に教えたことがあるよね。


――うん、そう。秋に赤くきれいになる葉っぱをつける樹。


――そう、お母さんの名前の「もみじ」も、楓の仲間ね。


楓には、たくさんの花言葉があるの。



一つ目は、「遠慮」。


楓って、一年のうちで秋だけに赤く綺麗に紅葉するよね。


その美しさをずっと表に出さずにいて、
秋になったら一斉に色を変化させるところからついた花言葉なんだって。


 まだ二年生の楓には難しい言葉かもしれないけど、
自分にすごい力があっても、それを自慢するんじゃなくって、
「けんきょな心」を忘れないでほしいっていう、お父さんとお母さんの願いを込めているんだよ。


――そうね、ほんとに難しいよね。

だから、お母さんの話で分かったことだけでいいから、プリントに書いたらいいよ。

花言葉はあと、えっと、四つあるから。


――ふふっ。たしかに多いね。でもせっかくの機会だから全部話すね。二つ目は…