彼はまぎれもなく、優しさで出来ていた。

それから秋になり、山々が紅葉を始めたころ、お父さんは帰ってきた。


ちょうどそれが私の誕生日で、特大のケーキと、ずっとほしいと言っていたカチューシャを手作りできるおもちゃを買ってきてくれたから、十月三日のことだ。


お父さんが帰ってきてくれて、お母さんは喜び、ほっとした表情を浮かべていた。


私にはそれがケーキよりもおもちゃよりも嬉しいプレゼントだった。


お父さんは言った。


――紅葉、楓、ありがとう。俺はこの七カ月間で、たくさんの人の役に立つことができたよ。

全部二人のおかげだ。大変だったと思うけど、よく頑張ってくれたね。これからまた三人で暮らそう――


それからの毎日は、もっと楽しくなった。


しばらく会えていなかった分、私はお父さんにそれまで以上にたくさん甘え、わがままも言っていたと思う。


でも、お父さんは決して私を「甘やかし」はせず、でも「甘えさせて」くれた。


この二つの違いを説明するのは難しいけれど、後者の方がより愛情のこもった接し方だということは間違いないと思う。


そんなお父さんの考え方は、今もきっと変わっていない。




変わったのは、私だ。
私はいつから、お父さんにも甘えられなくなったのだろう。